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現場の課題からDXをスタート! 取り組み自体をDXの学びの場にする カルビー株式会社

現場の課題からDXをスタート! 取り組み自体をDXの学びの場にする ~カルビー株式会社~

スナック菓子とシリアル食品でお馴染みのカルビー。社内の各機能を独立した会社として扱うカンパニー制を導入していて、現在は生産カンパニー、セールス&マーケティングカンパニー、海外カンパニーの3つで構成されている。海外進出にも積極的で、現在の海外売上は全体の2割弱だが、将来的には4割まで高める目標を掲げている。IT業務は情報システム本部が担当。国内外の子会社のITも統括している。DXの推進については2019年に中期経営計画でも取り上げられ、製造、流通、販売といった全工程でDXを進め、生産性を高めることを戦略の柱に据えている。
現在のカルビーのDXは、複数の部門横断型のプロジェクトで推進しているという。その進捗について、さらにはカルビーにとってのDXの意義などについて、経営企画本部の江口聡本部長にお伺いした。

各部署が各部署のためのDXを考えることから始まった。

-DXの取り組みのスタートからお聞かせください。

当社のDXは、複数の部門横断型のプロジェクトで推進しています。営業部門、SCM部門、生産部門、マーケティング部門、購買部門などの人が、各現場の課題からプロジェクトをスタートさせて、必要な人材が集まって推し進めています。情報システム本部は技術的なことをフォロー。あくまでも現場の人が中心になって、現場の課題解決の糸口をDXで探そうというスタンスです。
DXの本格的なスタートは2019年5月。代表取締役社長兼CEOに伊藤秀二が就任した翌年に中期経営計画がまとめられ、その中で基盤強化も含めてDXに取り組むことも明記されました。そして同年の7月にDXを推進するプロジェクトが発足したのですが、正直なところその必要は感じていたけれど、実際DXで何をやるんだ、という雰囲気でした。営業や生産やマーケティングの部署がDXで何をやればいいか考えることから、つまり各部署が各部署のためのDXを考えることから始まりました。当然のこととして、その部署のメンバーが中心になります。そこに他の部署のメンバーが集まる形になっていきました。

中期経営計画の発表と並行して、プロセス評価など新たな評価を導入されたとのことですが?

中期経営計画を考えていくと、人事制度も時代に即したものに変えなければいけないということになりました。従来はC&A評価(Commitment & Accountability)を導入していました。目標を立てて達成したかどうかで評価を決めていたのですが、やはりプロセスも大切なので、それもきっちり評価しようということになったのです。そこでCalbee5Values(挑戦・好奇心・自発・利他・対話)という価値観(バリュー)を打ち出して、その価値観を理解し、いかに行動できたか、という評価制度を導入。今年度から実施しています。
実は中期経営計画のときに長期的な「2030年ビジョン」も策定しました。その実現に向けて一人ひとりが自立し、それぞれの強みを生かして全員が活躍できる企業を目指しています。Calbee5Valuesはそのための根となる価値観です。これが人事評価と連動してきたという形です。
DXもある意味で新しい業務変革ですから、組織内の業務変革を行うために前向きに挑戦しなければならない。評価もそのような姿勢や取り組みに応えるものになっていったということです。

ルビープログラムは、DXの成果のひとつ。

-現時点で各プロジェクトのDXはどのような成果をあげていますか?

現時点でのDXの進捗状況は、積極的に取り組んで、その成果も少しずつあがりつつある段階です。ただ、具体的な大きな成果はまだ現れていません。DXではありませんが、ITを活用して簡単な業務をRPAに置き替えたり、物流倉庫の荷役作業を自動搬送の機械に替えたりというところです。
SCMや生産は規模が大きく、データをきっちり取らなければ効果的な仕組みになっていきません。効果的なDXにはビッグデータが必要となるので、現在は積極的にデータを集めている段階です。その一方で、小規模でもいいので、成功事例を積み上げることも大切だと考えています。その意味では、マーケティング部門が中心となって取り組んでいるルビープログラムは成果のひとつといっていいかもしれません。

-ルビープログラムについて教えてください。

2020年の9月から始めたデジタルを使ったキャンペーンです。当社は毎年、大収穫祭と謳って、カルビー製品のファン10万人にじゃがいもと景品をプレゼントするキャンペーンを展開していました。パッケージの応募券を切り取り、はがきに貼り付けて送ってもらう仕組みで、お客様にとっては手間がかかり、誰がどの商品を買ったのかというデータも得られない、なんともアナログ的な手法でした。
そこで顧客との接点や関係作りにデジタルを活用できないかと考えてスタートしたのが「カルビールビープログラム」。お客さまが商品のパッケージを特定の手順で折りたたむと二次元コードとシリアル番号が同じ面に現れて、それをスマートフォンで撮影すると「ルビー」というポイントが貯まる企画です。
ポイントでじゃがいものプレゼントに応募できたり、工場見学やじゃがいも収穫体験といったイベントやファンミーティングに参加できることも計画しています。はがきからITを使ったキャンペーンへの進展はDXの成果のひとつと考え、今後もデジタルマーケティングを強化し、カルビーとファンとのプラットホームに育てたいと考えています。

現場に詳しい人がDXやITのリテラシーを高めていくことが一番の早道。

-現場から生まれたDXの成功例ですね。

はい、そうですが、あくまでも第一歩。当社にはDXやITのスキルの高い人はそんなに多くはいません。その中でDXを進めるには、自分たちでスキルの高い人材を育成するか、外から力を借りたり、外部人材を探してくるか、手段はいろいろあります。しかし、現場のためのDXを構築していくのなら、やはり現場の人が中心でなければ生産性の高いものはできないと思います。大切なのは現場力とITリテラシーの掛け算で、そのためには現場に詳しい人がITリテラシーを高めていくことが一番の早道ではないでしょうか。
DXはシステムが行うのではありません。現場の人たちが、自分たちで仮説をもってその解決の道を自分たちで探るということをやらないとITリテラシーは育たないし、社内でもITリテラシーが高い人は増えません。成果を上げなければならないのは当然ですが、それだけでなく、小さなところから自分たちでトライすることも重要。試行錯誤自体がITリテラシーを高める学びの場になると考えています。

-現場の人が中心になって取り組んでいるのですね。

そうです。そんな新しいことへの挑戦には意外な発見もあるんです。この人は得意だろうと思っていた人が実はそうでなかったり。その逆もあって、想像以上のスキルを内在していたり、ITへの興味が高かったり。すると得意な人が中心になる方がいいよねということで各プロジェクトの中心メンバーも育まれつつあります。取り組み自体をDXの学びの場と考えて、コアメンバーを、時間をかけて増やしているという状況です。
また、そのために当初の実行計画策定時はコンサルティング会社に入っていただき、他社事例を学びながら、現場の課題を抽出し、そこから仮説を立て、取り組み施策を決めました。そうした取り組みによって、ITリテラシーを高めています。

-向いている人とそうでない人の違いはどこにあると思いますか?

日頃からDXやITに興味とか関心があるかないかは大きいかもしれません。製造の現場を例にすると、いい品質のものを作るとか生産効率をあげることに関心の高い人は多いのですが、製造の現場の人で数値に強いとか、変革に挑もうとする時に着目する点が違う人達は普段はあまり目立ちません。そういった人こそ、DXに向いているかもしれません。
ただ、当社の場合、DXは始まったばかりですが、ペーパーレス化やモバイルパソコンの配布、リモートワークの導入など、土壌はかなり早くから整備されてきました。

ペーパーレスなど、DXの土壌は早くから整備されていた。

-ペーパーレス化の取り組みについて教えてください。

ペーパーレス化はすでに2007年くらいから始めていました。2005年からデスクトップからノートパソコンへ順次移行を開始しました。当初は在宅で仕事をするという意識より、移動中や出張先のホテルで仕事ができるようにモバイル化を促進するのが目的でした。部門間のやりとりで紙を使わなくなったのは、モバイルパソコンが配備されたことが大きかったですね。2010年には稟議書の決裁システムを導入し、ペーパーレスとなりました。
当時はソフトバンクなど新しい働き方を推進している先進企業へ見学にいって、フリーアドレスや今後の働き方を学んだりしました。みなさん移動しながら自由に仕事をしているんです。デスクがないので資料を置いておく場所もないし、パソコンでデータのやり取りをしたり、画面を見ながら打ち合わせをしていました。フレキシブルに、その仕事に必要な人が必要な仕事をしている感じがして、このように変わろうという意識が高まったように思います。その後、ファシリテーションとかプレゼンテーションの研修を連動して行っていきました。ファシリテーションに関しては私が講師を命じられまして、何度も研修を実施しました。
コロナ禍でテレワークを進めると、上司や部下や同僚が見えないというストレスが生じると言われていますが、当社は早くからフリーアドレスだったので、上司と部下が違うところで仕事をすることには違和感はありませんでした。

-リモートワークの状況はいかがですか?

早かったと思います。フレックスタイム制も2000年頃から導入していました。これまではコアタイムを10時〜15時に設定していましたが、コロナ禍以降はスーパーフレックス制にして、1時間でも仕事をすれば勤務時間と計算して、月間のトータルで勤務時間を満たしていればいいことになりました。
ただ、これまでは在宅の制度はあったけれど、利用している人はそれほど多くないのが実情でした。コロナ禍になってからですね、本格的に在社率3割以下にしようとしたのは。ペーパーレスとか移動型のワークスタイルを早くから取り入れていたお陰でしょうか、コロナ禍収束の後も現状のリモートワークを維持したいという社員が過半数を越えているようです。2019年にOffice 365を導入してTeamsを使い始めていたことも、リモートワークにスムーズに移行できた大きな要因になっていると思います。
リモートワークのメリットとしては、通勤で時間を取られないのが大きいのでしょう。その時間を有効に使えます。自分の時間も家族との時間も大切にできます。仕事によってはリアルな打ち合わせが必要な案件もあります。目標出社比率は3割と定めていますが、その目標値に縛られることなく、最も生産性が高い働き方を自ら判断することが奨励されています。しかしその割合はコロナ禍収束後も大きくは変わらないと考えています。

まとめ

  • カルビーでは2019年5月に中期経営計画がまとめられ、その中で基盤強化も含めてDXに取り組むことも明記されて本格化した。
  • カルビーのDXは、現場の人が中心になって、現場の課題解決の糸口をDXで探そうというスタンス。つまり、各部署が各部署のためのDXを考えることから始まった。その部署のメンバーが中心になり、他の部署のメンバーが集まるプロジェクトが定着した。
  • 業務はプロセスも大切なので、Calbee5Values(挑戦・好奇心・自発・利他・対話)という価値観(バリュー)を打ち出して、その価値観を理解し、いかに行動しているかという評価制度も導入。
  • はがきをデジタルに替えて実施しているキャンペーン、「ルビープロラム」はDXの成果のひとつ。今後はデジタルマーケティングを強化し、カルビーとファンとのプラットホームに育てたいと考えている。
  • 現場のためのDXを構築していくのなら、やはり現場の人が中心でなければ生産性の高いものはできないと思う。大切なのは現場力とITリテラシーの掛け算で、そのためには現場に詳しい人がDXやITのリテラシーを高めていくことが一番の早道ではないか。
  • 成果を上げなければならないのは当然だが、それだけでなく、小さなところから自分たちでトライすることも重要。その試行錯誤自体がITリテラシーを高めると考える。
  • DXは始まったばかりだが、ペーパーレス化やリモートワークの導入などはかなり早くから整備されていた。フレックスタイム制も2000年頃から導入。コロナ禍以降はスーパーフレックス制にして、月間のトータルで勤務時間を満たしていればいいことになった。
  • ペーパーレス化とか移動型のワークスタイルを早くから取り入れていたから、コロナ禍収束の後も現状のリモートワークを維持したいという社員が過半数を越えている。

本インタビューはe-Kansaiレポート2021からの転載です。

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