DX関連

DXに関連する様々な情報を
掲載しています

  1. HOME
  2. ブログ
  3. DX事例
  4. 自社で集めたビッグデータを外部にオープンにして知見を集め、業態革新に成功 ~株式会社TSON~
自社で集めたビッグデータを外部にオープンにして知見を集め、業態革新に成功~株式会社TSON~

自社で集めたビッグデータを外部にオープンにして知見を集め、業態革新に成功 ~株式会社TSON~

名古屋に本社を置く株式会社TSONは、戸建住宅や賃貸住宅の市場分析調査・建築・販売を行う住宅会社だった。過去形にしたのは、現在はDXにより生み出した新サービスをリリースし、その分野の業績が大きく伸びて業態革新に成功しているからだ。
2014年から不動産や住宅に関するデータの収集を開始。2019年には蓄積されたデータをもとに「勝率一番」という、住宅不動産需要が一目でわかるシステムを開発して販売し、他社へのデータマーケティング支援業務も本格的に行うようになった。さらに同年にAI不動産ファンドの事業も着手。投資家から資金を集め不動産物件を組成し、期間内に利回りを支払い、期間終了後に物件を売却し、集めた資金を投資家に返却し利益をあげるビジネスモデルを確立。注目に値するのは、その展開の中心にDXがあることだ。社員15名の企業が、しかもITのスペシャリストがほとんどいない企業が、DXに取り組むことで新しいビジネスの創出に成功している。
今回は分譲住宅事業部・住宅市場AIデータ室の取締役・部長 小間幸一さんに、データを収集するきっかけから「勝率一番」の開発、さらにはDXを活用した不動産ファンドの展開まで、その変遷とポイントをお伺いした。

データがどこにもないのなら自分たちで集めるしかない。

-不動産データを集めるようになったきっかけからお聞かせください。

不動産や住宅の業界には、国土交通省が出している住宅着工戸数以外に、信頼性の高い客観的なデータがほとんどありませんでした。各住宅メーカーは経験と勘と度胸という、いわゆるKKDで住宅を建てて販売していたのです。しかし年間100戸の需要があるエリアに130戸を供給すれば確実に30戸は売れ残ります。しかも不動産や住宅業界は半径2~3キロほどの狭いエリアで受給バランスが成立しているのに、ミクロエリアの市場の需給バランスを把握するデータも、している人もいませんでした。
最初は有償でもいいので分譲住宅の需給データがないか探したのですが、やはりありません。ないんだったら自分たちでやりましょうというのがきっかけです。幸いに物件データはありました。愛知県、岐阜県、三重県には住宅メーカーが約200 社あり、そのホームページに約7,000件の物件が掲載されていることがわかりました。まずはそれらの物件データを手作業で収集し、一覧表にして、1ヵ月に1度、売れたかどうか、価格はどのように変動しているかなどの動向を追い続けたのです。これにはもちろん、お金も時間もそれなりにかかります。しかし会社もベンチャー企業らしく認めてくれたので継続することができました。

そして「勝率一番」、「AI不動産ファンド」の開発へ。

-「勝率一番」について簡単に教えてください。

端的にご説明すれば、我々独自の不動産データベースが約7,000万件以上(2021年5月時点)あり、毎月増え続けています。それをもとにある地域で、これくらいの大きさの戸建住宅なりアパートをこれくらいの金額で販売すれば、その需要の見通し(勝率)がどうなるかを、AIが5秒ほどで0%から100%で表示するシステムです。住所や希望金額を選択するだけの簡単操作で勝率がはじき出されます。
また、そのエリアの地図上に競合物件のデータもマッピングされますので、ここは激戦地域で勝率は低いけど、通りを北に上がれば勝率が上がるなどの競合関係が現地へ行くこともなく一目で理解できます。それまでの経験と勘で現地を見て判断できたものを、競合状況をマッピングすることで視覚化し、成功の確率をパーセンテージで表示することで、科学的に判断することができるシステムです。その結果に基づき、売り出し価格を設定したり、ターゲットや販売方法を決めたりすることができます。いつでも、どこでも、一人でもが勝率一番の開発コンセプトです。

-AI不動産ファンドへの取り組みもその流れからですか?

「勝率一番」の不動産データは毎月更新されているのですが、AIの分析結果を見ているとスキマのような場所がわかるんです。潜在的な優良物件といいましょうか、いい条件なのに家賃が妙に安いアパートとか戸建住宅とか。他にもいい立地なんだけれど、長い間売れていない土地とかです。そんな物件をうまく探して、不動産特定共同事業法(国土交通省)に基づいて、その場所に適した物件に組成し、ファンドで運用しようと始めたのがAI不動産ファンドです。その物件の差格化を導く際に「勝率一番」を役立てて、出資者への訴求ポイントにします。
分譲物件の場合は売却した時点で投資家に配当金を支払います。賃貸物件の場合は、投資家には一定の期間、賃料を利回りとして支払い、出口で売却して売却金額から投資家に配当金をリターンするという仕組みです。募集はクラウドファウンディングと書面で行っています。クラウドファンディングは会員制で運用しています。不動産特定共同事業法の規定で、出資はある程度の個人情報を明らかにしなければならないからです。年代的には30代の方が多いですね。始めてから1年ですが会員数は1,000名くらいになります。クラウドは苦手という方には書面で申込みを集めたりします。50~60歳前後の方が多いようです。
最近では、例えば5,000万円を集めたいとして、一口1万円で一定期間募集すると、たくさんの応募があり抽選で決める場合が多いです。書面は一ヵ月くらいかかるのですが、クラウドファウンディングの場合は1週間ほどで目標の金額に達します。それにAIで対象物件を的確に発掘できるので、従来5人でやっていた業務が1人で確実に行えるようになりました。

不動産や住宅業界は、最先端のITは必要ない?

-しかし全国どこにもないシステムがよくできましたね。

「勝率一番」を開発しようとした時、AIを専業にしている有名な会社に開発の相談をすると、おおよそ7,000万円はかかると言われました。それはとても無理があります。仕方がないので数十万円前後の市販のソフトを探してきてカスタマイズしていきました。販売価格を算出するにしても、駅からの距離とか、面積とか、景気動向とかいろいろな要素が必要になるんですが、それら要素のどれに重点を置くのかはトライ&エラーで、何度もやり直していくしか方法はありませんでした。我々にできないところは外部の協力会社にお願いしましたが、みんな趣味感覚で面白がるといいますか、ある意味手弁当でこれはどうだ、あれはどうかとやっていきました。まさにガレージでスタートしたベンチャー企業のノリです。そんな方法であまりお金をかけずに求めるシステムが完成しました。

-とはいえ、TSONさんはIT企業ではありませんよね。

そうです。社内にITの専門家はいません。しかしひとつラッキーだったことは、我々の不動産や住宅の業界は、いまや花形産業であるIT業界とは異なり、最先端の技術はあまり必要ないのです。クローリング(自動でWebサイトを巡回し必要なデータを収集する仕組み)にしてもマッピングにしても一般化されている技術です。AIにしても数十万円程の機械学習ソフトが既に市販されています。分析レポートを作成するRPAも精密機械の組立ラインで利用するようなレベルの最先端である必要はありません。逆に使い古されたものはバージョンアップも施されているのでバグなど不具合もあまりありません。
そうしたものを利用することを前提に、これをこんな風に使いたいとサムネールを組み立ててみて、外注する。外部の方にも事情を包み隠さずオープンにしていくとかけたコスト以上に面白い結果になったという感じです。それぞれの業界にはそれぞれの特徴があって、スピード感も違います。それを誤らないようにするのも大切ですね。早すぎてもだめ、遅すぎてもだめ、業界にぴったりのちょうど良い技術を見極めることが重要です。

データもシステムもオープンにしたのが成功の秘訣。

-そして現在ではDXによって業態改革にも成功されました。成功のポイントはどこにあると思いますか?

成功のポイントは3点あると考えています。我々の業界には最先端のIT技術やビッグデータを競い合う世界ではありません。第一に、先端をめざすより、これまで行われてきたことに疑問を持てるかです。その意味でいうと、不動産や住宅業界にはミクロなエリアを市場という概念でみる人がいませんでした。経験と勘と度胸というKKDではなく、ミクロなエリアのデータを駆使すれば科学的で合理的なビジネスができるという考えがなかったのです。
第二に、だったら自分たちでしようと、誰も見向きもしなかったミクロなデータを収集したことがあげられます。そのことを真剣に考え、愚直に形にしていける人と環境があったからでしょう。まさにベンチャーのノリがポイントです。

-あと1つの成功のポイントは何でしょうか?

最後はオープンにしたことです。当初から興味のある企業にはアカウントをお渡ししたり、欲しいという同業他社には販売したりしていました。お渡しするといろいろな意見をいただけます。それを聞き逃さないで、反映して精度を高めていったというところがあります。競合も顧客もパートナーにして価値を生み出すというサラス・サラスバシーが提唱する「エフェクチュエーション」の手法の応用です。
一般的にデータやシステムは情報資産ですからそれを外部にお渡しするのはビジネス的に不利になるという意見もあります。しかしこれまでどこにもないものを作っているのです。障壁はあるし、試行錯誤も多い。お金も時間もかかります。自社内だけで抱えて作ると煮詰まって限界が露呈し、もう止めようという流れになってしまうのが普通です。
一方、オープンにしてみると賛同してくれる方も現れるし、貴重な意見もいただける。やっている間にノウハウが身につき、予算感覚も磨かれて今があります。メリットの方が大きかったのです。実際、他社のマネをするほど暇な企業はあまりないんですね。どの方も自社のことで精一杯。そんな面倒なものだったら買った方が安いということになります。お陰さまで「勝率一番」とAI不動産ファンドの業績がどんどん伸びて、現在は我々のメイン事業になっています。

まとめ

  • 不動産・住宅の業界には、信頼性の高い客観的なデータがほとんどなかった。各住宅メーカーは経験と勘と度胸という、いわゆるKKDで住宅を建てて販売していた。
  • 最初は有償でもいいので分譲住宅の需給データがないか探したが、やはりないので、それなら自分たちでやりましょうというのがデータ収集のきっかけ。(ベンチャーのノリ)
  • 集めたデータ分析してオープンにすると問い合わせがくるようになった。見せるといろいろな意見をもらえた。それを反映して精度をあげていった。それが「勝率一番」の開発につながった。
  • 「勝率一番」はミクロエリアの需要の見通しを表示するシステム。競合状況をマッピングすることで視覚化し、成功の確率をパーセンテージで表示。成否を科学的に判断することができるシステム。
  • 「勝率一番」を駆使した「AI不動産ファンド」の資金調達にはクラウドファンディングを活用。書面による募集では1ヵ月かかかるのがクラウドファウンディングなら1週間ほどで目標の金額に達する。
  • 不動産や住宅の業界は最先端の技術はあまり必要でない。使い古されているけれど、費用がかからず、安定したパフォーマンスを生み出せる技術を見極めて利用した。
  • 最先端の技術を競い合う世界でない場合、大切なのは先端をめざすより、これまで行われてきたことに疑問を持てるか。
  • これまでは験と勘と度胸というKKDで事業が進められており、ミクロなエリアのデータを駆使すれば科学的で合理的なビジネスができるという考えがなかった。
  • 成功の大きなポイントは、異業種や同業他社を問わず、収集したデータや開発したシステムを積極的にオープンにして知見を集めたこと。メリットのほうが大きかった。(競合も顧客もパートナーにして価値を生み出すというサラス・サラスバシーのエフェクチュエーションの手法の応用)

※本インタビューは一般財団法人関西情報センターの調査レポート「e-Kansaiレポート2021」にも掲載されています。

関連記事