認定・表彰・補助金制度をフル活用し、画期的なビジネスモデルを構築【株式会社FUKUDA】
1969年創業の株式会社FUKUDAは、自動車やバイクのエンジンオイルの卸売りと配送などを行う会社である。京都市山科区に本社を置き、近畿2府4県中心に、正規カーディーラー、カーショップ、自動車整備工場、バイクショップなど約3,000件の顧客をもつ。従来の販売方法はドラム缶やぺール缶での販売が唯一の方法だったが、2012年から必要な分だけを量り売りするIBCローリーサービスを開始。その後、残量検知システムを開発し、さらにはAIを採り入れて、業務革新を成功させた。現在は、この仕組みをオイルマネジメントシステムと名付け、液体商品を扱う様々な業種にこのシステムを販売する新しいビジネスをスタートさせた。2015年・2019年に経済産業省中小企業庁「新連携事業計画」認定、2019年に日本サービス大賞優秀賞など、数々の認定・表彰を受けている。オイル業界に新たな息吹をもたらした同社の取り組みについて、福田喜之社長と管理部マネージャーの宮川嘉浩氏にお話をうかがった。
原油価格高騰を背景に、IBCローリーサービスによるコストダウンを図る。
Q/2012年に始められたIBCローリーサービスは業界初の革新的なサービスだそうですが、どんなものですか? 従来の販売方法とのちがいについてもお話しください。
A/IBCローリーサービスとは、オイルタンクを顧客企業の店舗に無償で設置し、配送用のIBCタンクを搭載した車で設置場所を回り、1リットル単位で必要な分だけ量り売りするサービスです。
従来は200リットルのドラム缶や20リットルのぺール缶を使い、一定量をまとめて販売していました。しかし、オイルが入った200kg以上になるドラム缶の持ち運びは重労働で、缶で床を傷つけたり、オイルをこぼして汚したりすることもありました。それに対して、IBCローリーサービスは、配送用のIBCタンクから顧客店舗に設置したオイルタンクにポンプを使って必要量を給油するだけなので、作業負担が大幅に軽減され、作業時間も短縮できました。
Q/IBCローリーサービスを始められた背景には、どのようなご事情があったのですか?
A/原油価格はいまも高騰していますが、2000年代後半にも急上昇し続けた時期がありました。その影響でドラム缶を作る金属も値上がりし、商品とその容器がダブルで値上がりしたのです。しかし、当時は競争が激しく、原価が100円上がったとしても売値は70~80円上げるのが精一杯で、収益性が大きく悪化しました。そんななか、なんとかコストを切り詰めるために、ドラム缶をなくせないかと考えました。ドラム缶の購入価格は1缶4,000~4,500円。当時、1缶200リットルのエンジンオイルの平均販売価格は約4万円だったので、容器代に10~15%かかっていることになります。しかも、ドラム缶は使用後20~30%しかリサイクルに回せません。約7割は廃棄されるため、その費用もかかります。そこでドラム缶の代わりに、IBCタンクを活用することを思いつきました。
「オスカー認定」の縁で協力企業とめぐりあい、難局を突破
Q/IBCローリーサービスという斬新なアイデアは、どのようにして思いついたのですか?
A/このアイデアは当社のオリジナルではありません。20年くらい前からオーストラリアではIBCタンクを使った同じような販売方法が取られていました。ドラム缶をなくせないかと考えたとき、この事例を思い出したのです。量り売りについては、当社でも以前、小さなタンクローリーでやっていたことがあります。ただ、2種類のオイルしか運べず、油種を変えるたびに洗浄しなければいけないため、軌道に乗りませんでした。エンジンオイルの種類は多く、入れ替えるたびに洗浄するのは大変です。その点、配送用のIBCタンクを油種ごとに用意しておけば、その日に回る顧客に合わせて積み替えればいいだけですし、コストも安くすみます。
Q/では、IBCタンクを活用した販売は、比較的スムーズに実現できたのですね。
A/いえ、実現に至るまでに大きな問題が一つありました。エンジンオイルを計量するポンプがなかったのです。ガソリンや軽油、灯油は、給油法で比重が定められています。ところが、エンジンオイルは柔らかいものから硬いものまで比重が様々で、そもそも量るという着眼点がなかった。1リットル単位で量りたいというニーズもないから、ポンプメーカーはエンジンオイル用のポンプを作っていませんでした。専用ポンプさえあれば、アイデアが実現するのですが、ポンプメーカーに相談しても、小口なのでまったく話に乗ってもらえません。この難局の突破口となったのが、ASTEM(公益財団法人京都高度技術研究所)の「オスカー認定」でした。「オスカー認定」とは、特定の事業計画により経営革新に取り組む中小企業に対して、計画の実現に向けて継続的に支援するという認定制度です。ASTEMの仲介で、やはり「オスカー認定」を受けている大手ポンプメーカーを紹介してもらい、補助金をいただいたことから専用ポンプの製作を引き受けていただくことができたのです。
残量検知システムとAIの活用で、大幅に効率アップ&コストカット
Q/2017年には、IBCローリーサービスに残量検知システムを搭載し、その後さらにAIを採り入れられたとのこと。残量検知システムとは、どのようなものですか? いつ、どういうことから必要性を感じられたのですか?
A/残量検知システムとは、顧客店舗に設置したオイルタンクのオイル量が減り、残り50リットルを切れば、それをセンサが感知して当社にアラームを飛ばすシステムです。それまでは顧客店舗に出向いて残量を目視していたのですが、わざわざ出向く必要がなくなりました。この構想はすでに2010年ごろから持っていて、いずれはIBCローリーサービスとセットにしたいと思っていました。
というのも、当社のような規模の卸売業にとって、一番つらいのは「すぐに持ってきてほしい」と言われることです。長年の顧客が多いので、担当営業はお客様それぞれのサイクルをだいたい把握しているのですが、人間の“勘ピューター”はたまに外れるときもあります。週末や大型連休に入る前日の夕方になると、決まって「休み中になくなりそうだから、至急届けてくれないか」と言ってこられるお客様もいます。そうなると誰かが休み返上で配達することになるので、なんとかしたいという思いがずっとありました。
残量が少なくなった時点で補充できれば、急なご要望もなくなりますし、当社が管理することによって、顧客離れを防ぐこともできます。一方、顧客側も残量を管理したり発注したりする、わずらわしい業務から解放されて、便利になったと喜んでいただいています。加えて、ドラム缶の廃棄もなくなりました。売り手良し、買い手良し、環境にも良しの三方良しのシステムです。
その後、新たなセンサを開発し、オイル量をリアルタイムで把握できるように改良しました。現在では、オイルタンクを設置しているすべての顧客店舗のオイル量がマップ上に表示され、一覧できます。また、残量が50リットルを切り、補充が必要となった顧客がリストアップされ、最短の配送ルートや配送先への訪問時間も自動で設定されます。さらにAIを搭載したことで、各店舗のオイルの日々の減少量がデータとして蓄積され、それをもとにオイルがなくなる時期を予測できるようにもなりました。
Q/残量検知システム導入によって、どういう成果があがっていますか?
A/一番大きく変わったのは、営業職が客先1件1件に何度も足を運ぶ必要がなくなったことです。目視で残量を確認していたころは、見に行って減っていなければ、日をおいてまた行く。ご注文をいただいたら、今度は配送に行くといったふうに二重三重の手間と時間がかかっていましたが、いまでは1回の配送で済みます。
1件あたりの納品時間も、ドラム缶のときは約45分だったのが約20分に短縮され、その分、空いた時間を新規営業先の開拓にあてられるようになりました。新しい客先を訪問したからといって、すべて契約に結びつくわけではありませんが、件数を重ねることで、新規の獲得率が上がってきました。おかげで10年前は約2,000件だった顧客が3,000件に増え、10億円だった売上は14.5億円に伸長しました。ハイブリッド車の普及やメーカー直販の増加などにより減りゆくマーケットのなか、順調に業績を伸ばしています。
認定・表彰制度や補助金申請から得られるメリットを上手に活用
Q/残量検知システムにしてもAIにしても、社外の専門家の力を借りる必要があったと思います。開発のためのリソースやノウハウは、どのようにして調達されたのでしょうか?
A/おっしゃるとおり、当社にはSEもいないので、外部に頼らなければ実現できません。残量検知システムについては、京都商工会議所の集まりで知り合ったシステム会社にご相談したところ、「ぜひ一緒にやらせてほしい」と言っていただきました。この会社にご協力いただいて、2017年には最初の残量検知システムが始動しました。
振り返ってみると、残量検知システムだけでなく、このビジネスモデルの出発点であるIBCローリーサービス自体も当社が単独でできたことではありません。京都商工会議所やASTEM、近畿経済産業局、中小企業庁などの認定・表彰制度の恩恵を被っている部分は非常に大きいと感じています。
Q/つまり、頭の中の構想が第三者に見えるようになったのですね。
A/おっしゃるとおりです。その申請書をまず社内で見せると、以前から私の話を聞いていた社員たちも「社長が言っていたのは、こういうことだったのか」と改めて腹に落ちたようでした。どこを目指して、どんな道を行くのか、指し示す地図ができたようなものです。書いて残すことによって、方針もぶれなくなりました。
そして、認定を受けた結果、支援員の方々から、力を貸してくれそうな会社や人をたくさんご紹介いただき、プランが実現に向けて順調に進むようになりました。異業種の企業とのマッチングは難しいので、ご紹介がなければ回り道したかもしれません。その後、いろいろな認定・表彰、補助金を受けることができたのも、「オスカー認定」のときの経験があればこそです。あのとき、支援員の方と喧嘩別れをしていたら、現在の当社はなかったと思います。
それに、認定や表彰をいただくと、地域や業界の新聞の経済面に掲載されます。日本サービス大賞など全国的なレベルのものになると日本経済新聞や他媒体でも取り上げられ、非常にいい宣伝になります。お客様からの信頼度も高まりますし、従業員の家族の目にもふれるので、皆、誇らしく思ってくれているようです。
こうして開発した仕組みを外販し、新しいビジネスモデルを構築
Q/オイルの卸売りから一歩踏み出し、新しい事業を始められたそうですね。
A/はい。ここまでの仕組みをオイルマネジメントシステムと名付けて特許を取りました。エンジンオイルに限らず液体商品を扱う様々な業種にこのシステムを販売する事業を、当社の第二の事業として発展させていく計画です。このシステムは、販売・配送の生産性向上に役立てていただくことはもちろん、センサから収集したデータに基づき、半年先、1年先の需要を予測する機能も付いています。関連するビッグデータを掛け合わせることで、新しいビジネスモデルの構築やシミュレーションも可能になります。
まだスタートしたばかりですが、温泉施設の湯、食用油の廃油、大型トラックに使う尿素水、飲食店のサーバー用ビールなど、エンジンオイル以外の商材についてもたくさんのお問い合わせを頂戴しています。
10年後にはエンジンオイルの消費量が現在の半分になると予測されています。そうした厳しい将来に備えて、当社はあらゆる液体のプラットフォーマーになることを目標に、100年、150年先までの事業の継承を考えています。
Q/IBCローリーサービスに始まる一連の業態革新は、ほかにどのような成果を生んでいますか?
A/職場環境の改善や働き方改革につながりました。以前のドラム缶を用いた販売・配送は重労働で、従業員の平均年齢が上昇傾向にあるなか、中高年になると体力的に厳しくなることを懸念していました。一連の業態革新により、身体への負担が軽減し、作業中の安全性も向上するなど、労働環境を改善することができました。60代になっても、社内のオンラインシステム担当やオイルマネジメントシステム販売の営業職として、それまでの経験をいかした活躍の場を設けられるようになり、70歳定年退職も実現しています。2017年に残量検知システムを搭載してからは効率化が進み、この3年で休暇を10日間増やすことができました。長く働き続けることができる会社としての就業形態や職場環境が整えられるようになったと自負しています。
Q/新しいビジネスモデルに必要な人材登用を含め、今後の経営戦略をお話しください。
A/DXを推進するためのシステム開発は、当社にとって重要度が一番高いところです。しっかりやっていかないと、経営の根幹を揺るがすことになりかねません。いまは協力会社のサポートを受けていますが、今後はシステムに精通した人が社内に必要になってきます。また、ビジネス展開していくには物流機能がまだ十分ではありません。
しかし、システムに精通した人材にしても物流を担える人材にしても、いちから社内で育成するには時間がかかりすぎます。ですので、人材登用というより、業務提携やM&Aで、必要な機能を調達し体制を整備していきたいと考えています。
まとめ
- エンジンオイルを卸売りするFUKUDAは、原油価格高騰に対応するため、2012年から従来のドラム缶・ペール缶単位の販売に代わるIBCローリーサービス(IBCタンクを使った量り売り)を開始し、コストダウンと労働環境の向上を図った。
- その後、残量検知システムを開発。顧客店舗に設置したオイルタンクにセンサを取り付け、オイル残量が少なくなればアラームを発信。残量を目視確認に出向く業務が省力化できるとともに、顧客側の在庫管理や発注業務の手間を省くことができた。
- さらに新たなセンサを開発しAIも採り入れ、IBCタンクを設置したすべての顧客店舗のオイル量をリアルタイムに把握。いまでは残量が少なくなった店舗への配送ルートを自動で割り出したり、過去のデータに基づき、次の補充時期を予測したりしている。
- IBCローリーサービスに始まる一連の業務革新により、従業員の身体への負担は軽減し、作業中の安全性も向上。効率化が進み、年間休暇も増加し、職場環境の改善や働き方改革につながった。
- 業務革新が成功した要因は、行政や公的機関の認定・表彰制度や補助金を積極的に活用したこと。補助金に助けられたことはもちろん、応募・申請に向けた書面を作成することで、頭のなかにある構想を第三者に見えるようにしたことも大きな成功要因である。
- ここまでの仕組みをオイルマネジメントシステムと名付けて特許を取り、オイルに限らず液体商品を扱う様々な業種にこのシステムを販売する新規事業を開始。あらゆる液体のプラットフォーマーを目標に、100年、150年先までの事業の継承を考えている。
- 新たなビジネスモデルを発展させるには、DX推進のためのシステム開発や物流機能が重要となってくる。人材登用では時間がかかるため、将来的には業務提携やM&Aで必要な機能を調達し体制を整備していきたいと考えている。
株式会社FUKUDA
企業名 | 株式会社 FUKUDA |
創業 | 1969年9月 |
法人設立 | 1976年9月 |
資本金 | 1,000万円 |
事業内容 | 潤滑油総合卸売り販売及びそれに付帯する一切の業務 |
所在地 | 〒607-8170 京都市山科区大宅向山6番地 |
WEBページ | 企業WEBページ https://www.fukuda-lub.co.jp/ IBCローリーサービス https://ibc-fukuda.jp/ オイルマネジメントシステム https://www.fukuda-lub.co.jp/oms/ |