管理しきれていなかった生産工程を“見える化”し、生産性を大幅に向上【石田精工株式会社】
1929年創業の石田精工株式会社は、建設機械部品、農機具部品、エアツール部品、半導体設備部品など、金属部品の加工を行っている会社である。技術力の高い中小企業が多く集まる「モノづくりのまち」東大阪に、本社工場、第二工場、物流倉庫を置くほか、2012年10月にはインドネシアに工場を設立。近年、受注が急増し、手作業による生産工程管理が難しくなってきたことから、IT化に本格的に取り組みはじめた。試行錯誤の末、製造業専門のクラウドアプリケーション「ものレボ工程管理」を採用。2019年の年初に、まずインドネシア工場に導入し、運用が軌道に乗ったことから、日本の本社工場・第二工場にも導入した。
石田精工のDXの現状と今後の展望について、同社取締役の石田賢汰さんと営業統括部長の澄川洪飛さん、そして、ものレボ株式会社の細井雄太社長にお話をうかがった。
長年の課題だった工程管理の“見える化”
Q/今回導入された「ものレボ工程管理」とは、どのようなシステムですか?
A/「ものレボ工程管理」は、従業員数30~40人規模の製造業に特化したクラウド型DXアプリケーションで、少量多品種の製品を対象に受注から納品までの生産工程を一元管理できるシステムです。受注情報を入力したあと、作業の進捗に応じて情報を更新することで、進行中の全製品のそのときどきの工程がリアルタイムで画面に一覧表示されます。また、問題が発生すれば、該当箇所が光って警告が発せられます。各工場の現場や事務所では、その画面を見て全社の生産状況を把握しています。
Q/どのようなご事情や問題意識から、「ものレボ工程管理」を導入されたのでしょうか?
A/生産工程については、もともと担当者1人がホワイトボードなどを使って管理していたのですが、2014年ごろから受注が急増し、管理しきれなくなっていました。当社の扱う製品は生産工程が様々で、納期も数日のものもあれば、2週間のものもある。小ロットの製品が続けば、1台の機械の段取り替えが1日で数回発生することもあります。それらが多いときには50~60種類、同時進行するため、非常に煩雑な状態でした。
予定が変更になると、ホワイトボードを書き直したりシールを貼ったりするのですが、手間がかかるうえに間違いのもとになっていました。いつの間にか、ボードの内容と現場の状況に大きな誤差が生じることもあり、ムダに機械を止めたり、納期が遅れたりするなどのトラブルが多発していました。
インドネシア工場ができてからは本社から担当者を派遣していましたが、日々変化する現地の生産状況を共有するのは難しく、日本から遠隔で進捗状況を把握する術はないかと、頭を悩ませていました。
会議や打ち合わせの場で進捗状況を報告する際も、「数字だけではわかりにくい。もっと目に見える形で示してほしい」と社長から言われ続けていました。しかし、大阪の本社工場と第二工場のように、歩いて行き来できるくらいの距離であっても、前のやり方では情報共有するのが難しく、各工場で日々移り変わる状況をまとめて把握し、“見える化”するのは至難の業でした。
問題意識を強く持っていたから、偶然の出会いが活きた。
Q/「ものレボ工程管理」とは、いつごろ、どのような経緯で出会われたのですか? ほかにも、同じようなツールで検討されているものはあったのでしょうか?
A/ずっといいツールはないかと探していて、無料ソフトを使ってみたこともありますが、決め手に欠ける状態でした。そんなとき、当社が毎年開催している経営発表会というイベントで、知り合いを通じてものレボ(株)の細井雄太社長をご紹介いただいたのです。工程管理が長年の課題となっていることを細井社長にお話して提案されたのが、「ものレボ工程管理」でした。
初めて見たときの印象は、「スマートでかっこいい!」。自分たちのような町工場でも、パソコンやタブレットで管理していく時代なんだ、と世の中のIT化の進展を肌身で感じたのです。出会いは偶然でしたが、常日頃から問題意識を強くもっていたため、「求めていたのはこれだ」とすぐにピンときました。
Q/いろいろ試したなかから、「ものレボ工程管理」を選んだ理由を教えてください。
A/まずは、ものレボ株式会社の対応の速さですね。問題が生じれば、すぐに動いてくれました。あとは操作のしやすさと、誰が見ても進捗状況が一目でわかる画面の見やすさが決め手になりました。特に、従業員全員で共有できるように、一部の者にとって使い勝手がいいだけでなく、誰でも簡単に操作できることを重視しました。
その点、「ものレボ工程管理」はどんな人でも1週間くらい触れば、だいたい理解して使えそうでした。進捗にずれが生じた場合は、工場ごとの工程管理担当者が現場と打ち合わせをして変更するのですが、複雑な入力は不要で、表示されているバーの位置を動かすだけで簡単に修正できる手軽さが気に入りました。
Q/結果的に、本社工場より先に海外工場へ導入することになったとのことですが、その経緯をお聞かせください。
A/私(石田賢汰取締役)のインドネシア工場赴任が決まり、現地工場へ行ってみると、ホワイトボードすらロクに使われていない状況でした。着任早々、ホワイトボードを活用し始めたのですが、なかなかうまくいかなくて……。「なんで書いてないの?」「忘れていた」というやり取りの繰り返しで、結局面倒になり、やめてしまいました。しょうがないので、一日に何度も現場に足を運んで、進捗状況を確認していましたね。
赴任期間が終わりに近づき、「日本に戻ったらどうしよう? このままではインドネシア工場の状況がますますわからなくなる」と心配になったとき、ふと「『ものレボ工程管理』なら、ここでも使えるのでは?」とひらめきました。
現在、インドネシアとは進捗状況を共有しながらWhatsAppでやり取り
Q/海外駐在の状態で、「ものレボ工程管理」を導入するのは大変ではなかったですか?
A/私も最初はどういうふうに連絡を取り合ったらいいか、少し不安でしたが、細井社長に相談すると、すぐにSkypeでつないでくださいました。そうした対応の早さは心強かったですね。渡航前に「ものレボ工程管理」の概要は把握していたので、早速デモ版を使ってみることになり、体験後のレスポンスも迅速かつ的確だったため、順調に導入できました。
Q/インドネシア工場の従業員の皆さんは、初めて目にするシステムを仕事に取り入れることに対して、どんな反応をされましたか? 言葉の壁もあるなか、導入・活用が軌道に乗るまでのご苦労があればお話しください。
A/現場からの反発などは一切なかったですね。インドネシアの人たちは、“新しいもの好き”で、最先端のシステムを使うことを楽しんで、すんなりと受け入れてくれました。もっとも最初のうちは、現場サイドで「加工開始/終了」のボタンの押し忘れ、生産管理担当者の登録し忘れもありました。けれど、そのつど注意するうちに、1か月くらいで徹底されるようになりました。習慣として定着したのでしょう。
日本語が通じない分、若干、苦労しましたが、今はGoogleで英語翻訳ができるので、わからない部分はお互い画面を見ながら、指差して説明したりしてクリアできました。逆に、「ものレボ工程管理」の画面を見れば、真面目に仕事をしていることが伝わるので、現場のモチベーションも上がっているようです。
現在はWhatsAppという無料の通話アプリで、毎日連絡を取り合っています。2時間の時差も、現地工場の始業前に確認事項をまとめておくなど、有効活用できるようになりました。問題が起こったときも、「ものレボ工程管理」の画面を見ながらWhatsAppを使って文字や電話でやりとりして解決しています。
Q/その後、日本の2つの工場に導入するときのほうがご苦労されたとのこと。それはどうしてですか?
A/おもに規模の違いですね。工作機械の台数がインドネシアの4~5倍あり、扱う製品も多いため、工程管理が複雑になります。従業員もここ10年ほどで倍以上に増えたため、タブレットを操作する人の数に比例して、ボタンの押し忘れや登録し忘れといった人為的なミスも起こりがちです。なかには、全体の生産計画を差し置いて、自分のやりやすい優先順で作業を進める人もいたり……。でも、計画通りに進めてくれるよう何度も説得し、理解を促しました。インドネシアよりは時間がかかりましたが、最近ようやく浸透してきたところです。
また全社に導入する際に、新たな課題となったのは受注情報の入力です。インドネシア工場とは比べものにならない膨大なデータを手入力する時間と、そこで生じるミスがネックになることは予測がつきました。そこで、手間暇かからずミスを防ぐ方法はないか、ものレボ株式会社の細井社長に相談したところ、CSV取り込みをご提案いただきました。Excelのデータをそのまま「ものレボ工程管理」に一括で取り込むのです。当初は未経験者ばかりで「CSVって何?」という状態でしたが、Web会議で取り込み方法を指導していただき、うまく活用できるようになりました。おかげで効率がぐっと上がり、確認時のストレスも軽減されています。
成功の要因は、操作しやすく見やすいこと。そして、現場への権限移譲
Q/全社に導入された今、具体的にどんな成果があがっていますか?
A/何よりうれしいのは、工程管理の“見える化”が実現したことです。各工場へ頻繁に足を運んで進捗状況を確認していたのが、今ではパソコンを開けばいつでも見える状態になり、管理の負担が7割くらい軽減された気がします。納期遅れなどのトラブルが大幅に解消されたのはもちろん、機械や作業者の空き具合を正確に把握できるため、効率のよい生産計画を立てられるようになり、残業も目に見えて少なくなりました。また、海外工場の進捗状況も、日本にいながらにしてリアルタイムで確認ができるため、インドネシアへの赴任が不要になった分、人件費も削減できました。
Q/振り返ってみて、「ものレボ工程管理」の導入が円滑に運んだ要因はどこにあったと思われますか?
A/2つの要因が考えられます。1つには、やはり操作しやすく、画面も見やすい優れたソフトであったことです。パソコンが不得手な人や初心者でも簡単に扱うことができるので、抵抗なくなじめたのだと思います。見る側にとってもわかりやすく、会議や打ち合わせで案件別スケジュールを提示できると上層部からも好評です。
もう1つの要因は、トップが現場に権限委譲してくれたことです。問題意識を共有していることが大前提になりますが、当社の場合は社長が課題を掲げたうえで、あとは現場で実際に運用する私たちに全面的に任せてくれました。DXの年間予算などを決めているわけではなく、「『ものレボ工程管理』を取り入れると、残業時間がこれくらい減ります」といったメリットを具体的に説明して、費用対効果に納得してもらえたらGOサインが出るので、進めやすかったですね。
また、かつてシステムを構築するには多大な投資が必要でしたが、「ものレボ工程管理」をはじめ、いまのソフトウェアはリーズナブルな月額で利用でき、いつでもやめることができるので、中小企業にはとても導入がしやすいですね。
今後の課題は、外注先の取り込みと在庫管理のDX
Q/今後さらにDXを進めていくうえで、課題は何ですか?
A/大きな課題は2つあります。「ものレボ工程管理」を外注先にも使っていただくことと、在庫管理におけるDXの推進です。
製品は、鋼材切断後、当社で切削加工し社内検査を行うまでの間に必要に応じて、熱処理、研磨、表面処理、プレス、溶接などの外注工程を挟みます。現在は社内工程にのみ「ものレボ工程管理」を適用していますが、外注先にも使ってもらって連携させることができればベストだと考えています。
実は、主要な外注先をピックアップして声をかけたこともあるのですが、「今は忙しいから……」と前向きな回答をいただけず断念した経緯があります。問題意識の温度感が違う人に無理に使ってもらってもうまくいかないでしょうから、そこが難しいところです。しかし、全工程をフォローできればさらに生産性を向上できるので、当社の成功例を示して、諦めずに働きかけていきたいと思います。
社内では、次は在庫管理のDXを進めていく予定です。ここ数年、製品数の増加に伴い仕掛品の在庫管理がどんどん大変になってきました。すでにものレボ株式会社から、工程管理と連携させて使えるアプリケーションをご提案いただいており、スマホを使えるようにするなど、当社に合わせて改善していただいているところです。導入後には、在庫過多や欠品をなくし、キャッシュフローの悪化や機会損失の防止を期待できるので、楽しみにしています。
Q/DXの推進に向けて、理想の人材像があれば教えてください。
A/会社を将来的に発展させていくためには、DXに限らず、新しい挑戦を続けていかなければいけません。試行錯誤を繰り返しながら未経験のことに取り組んでいく仕事には“指示待ち”タイプの人は向いていないでしょう。個人的には、好奇心旺盛で常にアンテナを張りめぐらせ、新しいことに興味をもって取り組んでいける人が、旗振り役に適していると思います。
まとめ
金属部品の加工を扱う石田精工は、もともと多品種少量で工程管理が煩雑だったが、業務が拡大するにつれて管理しきれなくなった。そして、ムダに機械を止めたり、納期が遅れたりするなどのトラブルが多発したため、IT化が大きな課題となっていた。
工程管理の様々なITツールを試すなかで「ものレボ工程管理」と出会い、対応の速さや、操作が簡単なこと、画面が見やすいことなどから導入を決定。出会いを導入に結びつけられたのは、日ごろから問題意識を強く持っていたからである。
導入の結果、工程管理の“見える化”が実現。納期遅れなどが大幅に解消されたのはもちろん、効率のよい生産計画を立てられるようになり、残業も目に見えて少なくなった。また、インドネシアへの赴任が不要になった分、人件費も削減できた。
「ものレボ工程管理」が円滑に導入できた要因の1つは、操作のしやすさと画面の見やすさを併せもつソフトだったこと。もう1つは、導入に際してトップが現場に権限移譲してくれたこと。
今後の課題の1つは、外注先にも「ものレボ工程管理」を使っていただき、全工程を“見える化”すること。もう1つは、在庫管理におけるDXの推進である。後者については現在、ものレボ株式会社から提案を受けて進行中。
DXを進めるうえでは、好奇心旺盛で常にアンテナを張りめぐらせ、新しいことに興味をもって取り組んでいける人材が旗振り役を務めることが望ましい。
石田精工株式会社
会社名 | 石田精工株式会社 |
本社 | 〒578-0921 大阪府東大阪市水走5-11-11 |
代表取締役社長 | 石田 肇 |
創業 | 昭和4年1929年 |
資本金 | 1,000万円 |
主事業内容 | 建設機械、農業機械、エアツール等の各種金属部品の加工 (その他金属加工全般) |
WEBサイト | https://ishidaseiko.com/ |
ものレボ株式会社
商号 | ものレボ株式会社 |
本社 | 〒604-8206 京都市中京区新町通三条上ル町頭町112 菊三ビル3F |
代表者 | 代表取締役 細井 雄太 |
創業 | 2016年2月1日 |
資本金 | 2億1,665万7,000円(資本準備金含む) |
事業内容 | ■工場DX SaaS”ものレボ”の企画・開発・運営 アナログなものづくり現場をデジタルで管理するサービス。中小製造業がサクっと導入できて、いきなりスマートな工場に変身。日本から世界へ製造現場を快適にしていきます! ■”いきなりIoT”の企画・開発・販売 上記の工場DX SaaSと連動して、ものづくり現場のDXを加速。買った当日からいきなり使える超汎用IoT機器です。IT操作に抵抗がある現場の方でもITの恩恵を最大限に受けることができます! ■新規事業の企画・開発 |
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