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昌和莫大小株式会社

SNSのコミュニティは研究開発室。ユーザーの意見こそ、最高の羅針盤。【昌和莫大小株式会社】

昌和莫大小株式会社は1935年創業(法人化は1954年)の奈良県の靴下メーカー。奈良県広陵町は「靴下の町」とも言われ、靴下生産量で日本一を誇っている。その中で昌和莫大小は、主にタイツやレギンスなど、秋冬の長いもの、防寒ものを中心に製造してきた。基本はOEMでの製造だ。百貨店などで販売される有名ブランドものである。大手アパレルや有名ブランドからOEMの依頼がくるのは、昌和莫大小のモノづくりが高く評価されてきたからに他ならない。

そんな昌和莫大小は、2017年、靴下の自社ブランドの立ち上げに乗り出した。「OLENO(オレノ)」がそれだ。主にスポーツのシーンに特化して、ファッショナブルで機能的な靴下をめざした。現在ではトレッキングやガーデニング用に特化した靴下も展開している。

OEMから自社ブランドの立ち上げへ。その狙いは何なのか? 一口にブランドを立ち上げるといっても、そのノウハウがあるわけではなく、資金も潤沢でない小規模メーカーは、どのような手法でブランドの認知度を高めようとしているのか? そこにはSNSを巧みに利用した戦略が見え隠れする。 今回は、昌和莫大小株式会社代表取締役の井上克昭さんに自社ブランド「OLENO」立ち上げのきっかけや背景、現在に至るまでの取り組み、そして今後の目標などをお伺いした。

OLENO
昌和莫大小株式会社の立ち上げたブランド「OLENO」
(提供:昌和莫大小株式会社)

用途を特化した靴下のブランド「OLENO(オレノ)」とは

Q:まずは昌和莫大小の自社ブランド「OLENO」について教えてください。

A:「OLENO」を立ち上げたのは2017年です。自社ブランドを立ち上げて、直接お客さんに届けたいという夢はずっとありました。ブレないモノづくりを徹底したブランド。アイテムとしては、これまでタイツやレギンスなど長ものをOEMで製造していきましたが、靴下は手がけていなかったのです。靴下だなと思いました。

自分がアウトドアとかスポーツが好きだったので、それに特化して、Doスポーツをターゲットにした商品を作って、世の中に発信していけば、好きな世界だからブレることなくずっと続けることができると思ってスタートしました。もちろん、OEMの製造も並行してやっています。

Q:ブランドは差別化が大切です。「OLENO」というブランドの特徴は?

A:最初に開発したのが「はだし靴下」。靴を履かずに靴下だけで走ることで、足腰のバランスや筋力を取り戻そうというものです。子どもの足育にも効果があります。そこからスポーツ用の靴下を手がけるようになりましたが、スポーツで一括りにするのではなく、ランニング用、サッカー用、サーフィン用など用途を絞り込んだ靴下をラインナップしているのが「OLENO」の特徴です。ほかにもガーデニング用、キャンピング用、DIY用など特徴的な靴下を製造・販売しています。 いずれも共通するコンセプトは「ファッション&ファンクション」です。機能性が高いだけでなく、履いていて格好いい。スポーツやアウトドアの世界にも、機能性だけでは面白くならないと思うんです。私自身もファッションは大好きなので、その点はこだわりました。

HADASHI RUN
昌和莫大小株式会社が開発した「はだし靴下」
(提供:昌和莫大小株式会社)

価格競争から脱するために、自社ブランドを立ち上げた経緯

Q:ブランドの立ち上げは難しい挑戦と言われます。それでもやろうとした背景は?

A:当社は大手アパレルさんとか著名なブランドのものを手がけていました。販売価格も高い。デザイナーの言うことをできるだけ忠実に、高品質に作り込むOEMを展開してきたと自負しています。

しかし、2014年頃から価格競争が始まりました。アパレル会社さんはブランドを持っている企業にロイヤリティを払って作っています。ロイヤリティの額は契約で決まっているので落とせません。そのしわ寄せが当社のようなOEMをしているところにくるようになりました。その金額では無理ですと答えると、一部のアパレル会社さんは、今度は原料を安くしろとか、工程を簡素化しろとか言ってくる。当社はグレードの高い生地を使って作り込んできました。良い生地を選び、工程にも手間暇をかけてきました。それをその辺りの3足千円という靴下のような生地で、工程も省いて、ブランドのマークだけはつけて出荷させられる状況になったのです。

Q:昌和莫大小の特長である、グレードの高いモノづくりができなくなってきた。

A:そうです。価格最優先でアパレル会社さんの言われるままに作っていけばお客さまを裏切ることになる。これまでは履き心地が良く、毛玉もできなかったのに、最近違うよねと気づいたお客さまのブランド離れが起こったら、我々の仕事もなくなっていくんじゃないかという危機感を抱くようになりました。このままOEMだけでいいのだろうかと不安になりました。

自社ブランドを持てば、自分たちの思い通り、いい素材を最適な工程で創り上げてものを提供できるし、アパレル会社さんを通さない分、もっと良いものが同じ価格、あるいはそれよりも安い価格で提供できるんじゃないかと思いました。3年ほど考えて、これはやるべきだと踏み切りました。

Q:勝算はあったのですか?

A:正直やってみないとわからないところがありました。ただ、技術という部分では、1935年からやってきた経験と、モノづくりという点ではどこにも負けない自信があります。とはいえ会社の売上も大切なのでOEMをやめることはできません。

並行して行うことにしたのですが、ひとつ良かったのは、我々はタイツやレギンスなどの長ものを主に取り扱っていたので、アパレル会社さんと靴下の取り引きはほとんどなかったことです。さらに機能性の靴下なら売り場がバッティングすることもありません。アウトドアやスポーツに特化した靴下ならなおさらです。付き合いのあるアパレル会社さんからは、勝手にやってるわという感じで見てもらえていたと思います。 何十年もの間培ってきた技術があった。これまでのアパレル会社さんとバッティングしない市場を選んだ。そんなことがブランド立ち上げの追い風になったことは確かです。

やれることは何でもやった。無駄も多かったが、それが今に生きている。

Q:とはいえ経験のないことへ取り組むためにはリソースがいります。

A:モノづくりに関しては社内でできますが、ブランディングとなればお手上げです。専門の方のコンサルティングが必要と考え、「奈良県よろず支援拠点」に飛び込んで、複数名、紹介していただきました。そしてみなさんとじっくりお話をして、兵庫県のあるコンサルタントの方と組んで、販売やマーケティングも含めたブランディングをお願いすることにしました。商品のデザインと開発は昌和莫大小、販売に関するブランディングやマーケティングはその外部のコンサルタントという役割分担で進めています。

Q:数ある中からそのコンサルタントを決めた理由は?

A:決めた理由は、その方が言った「ブランドとはアイデンティティ」という一言でした。社長がブレるとブランドは育たないと言われました。1935年から脈々と続いている昌和莫大小。このアイデンティティを軸としたブランドを立ち上げて、ブレずに進めていくのがブランディングだというプレゼンをしていただきました。私自身も常々「品質へのこだわり」や「ファッション&ファンクション」というコンセプトはブレてはいけないと思っていたので共感できたのです。

Q:事業化するとなった際には、その他の課題がいろいろ立ち上がってくると思うのですが?

A:本当にいろんなことをやってきました。今までがOEMでしたので、やったことのないことを全部自社でやらなければならない状態になりました。大変でしたがチャレンジだと自分に言い聞かせました。やれること、やれるチャンスがあるなら全部やってやろうと思いましたね。行動に移さない限り、評価も何も生まれません。展示会とかイベントとかセミナーとか、売り込める機会があれば出かけていきました。行政の各種事業の説明会があると聞けば出向きました。無駄な時間だなと思ったこともたくさんありました。それでも動けば吸収できることはあるし、プラスになることもあります。実際、今の事業に生きている部分も多いんです。

Q:軌道に乗ってきたのはいつ頃からですか?

A:2017年から本格稼働しましたが、正直にいえばまだまだだと思っています。状況もどんどん変わる。コロナ禍なんて想定すらできませんでした。しかし、逆にコロナ禍だから生まれたヒット商品もありました。スポーツマスクを開発したら爆発的に売れたのです。

当社はSNS上で「OLENOアスリートクラブ」というランニング愛好家のコミュニティを立ち上げていました。その中の意見に、マスクをしないで走っていると白い目で見られているみたいな話題があったのです。それならと靴下編機でマスクのプロトタイプを作って「OLENOアスリートクラブ」の希望者に配って、感想をフィードバックしてもらって商品へと仕上げていきました。試しに作ったのですが、ランナーの間で話題になって、テレビに出たり、新聞に載せていただいて、当社のWebに1日に700件以上の注文が殺到してパンク状態になることも経験しました。

コミュニティ「OLENOアスリートクラブ」内での話題から生まれたスポーツマスク。
(提供:昌和莫大小株式会社)

作り手の想いよりも、ユーザーの意見が重要だと気づかせてくれたSNS

Q:SNSのコミュニティから生まれたヒットでもありますね。

A:そうです。中小企業の場合は大きな投資もできません。しかし、ブランディングには顧客との関係を育むことも大切と教えられていました。幸い、インターネットは少ない資本で、多くの方とつながりを育むことができるツール。最近ではブランディングや販売に便利な仕組みもどんどん整ってきています。これは利用しない手はないと考えました。

主にFacebookとInstagramで発信しています。とはいえすべてを自社で行わなければならないので、社長の私がInstagram担当、「OLENO」のブランドに関わっている社員の一人がFacebook担当と役割を分担して進めています。また、当社は製造会社なので営業が得意でありません。SNSはそんな弱みをカバーして、広く発信することができます。SNSがなければ、つながりという点ではもっと苦戦していたと思います。

Q:SNSは具体的にどのように活用されているのですか?

A:2019年に「OLENOアスリートクラブ」を立ち上げたのは、わざわざ会いにいかなくとも多くの人と連絡をとることができるからです。こんな新作を作りましたから使ってくれませんかとか、誰かアドバイスをいただける人はいませんかと問いかけると、使ってみたい、やってみたいという人が現れて、いろいろな意見の交換が行えます。

当社の商品開発においては、SNSのコミュニティは研究開発室みたいなもの。気の抜けた商品を放り込むと辛辣な意見が遠慮なく返ってきます(笑)。そんな意見が我々に発破をかけ、技術を磨いていける状況を生み出してくれています。

それまでの当社のモノづくりは自分たちが作ることで満足を得ていたけれど、使う人の意見がすごく重要だったと気づかせてくれたのもSNS。今までは独りよがりなモノづくりをしていたかもしれないという反省も生まれました。OEMの時にはそんなことはまったく考えたことはなかったですから。ユーザーの意見こそ、最高の羅針盤と思います。ユーザーと一緒に作った方が間違いのない商品を速く完成させることができます。そんな発見もSNSでコミュニティを立ち上げたお陰です。

一方で、リアルなつながりも大切にしています。ランニングのイベントに出展したりしているので、そこでSNSなどでつながった人たちと実際に会うと一気に距離は縮まります。

Q:商品開発にSNSを利用した例は他にありますか?

A:直接会ったことのない人たちとオンラインだけで商品開発したことがあります。京都にあるカフェの店主がランニング好きで、そのカフェにはランナーが集まると知りました。トップアスリートではなくて、ランニング愛好家という方たち。ですから超マニアックな、一足3千円を超えるランニング用の靴下は彼女たちにとってはオーバースペックです。そんなファンランナーのためのランニング用の靴下を作ろうということになったんです。

主にZoomを使ってオンラインで共創会議を開いて、SNSも併用してデザインやカラーのシミュレーションをアップ。それに対する忌憚のない意見をいただいて、作り直して商品を完成させていきました。半年かかりましたが、皆さんとリアルでお会いしたのは完成品ができた時(笑)。完成した靴下を履いて、みんなで嵐山界隈を走って、その後、座談会で開発の思い出話に花を咲かせました。2022年の初めには新商品として発売。コロナ禍とはいえ、オンラインだけで商品開発ができたのは我ながら驚きました(笑)。

ランニング愛好家たちとオンラインでのコミュニケーションを通して開発したCOMOD(Y) 
(提供:昌和莫大小株式会社)

Q:商品開発以外ではSNSをどのように活用されていますか?

A:まだ模索段階ですがInstagramに広告を出した時の反応分析などは行っています。同じ商品でもトレッキングの人に刺さる画像や言葉で作ったもの、ランナーに刺さるように作ったものを分けてアップするというテストマーケティングも行ったりしています。どのカラーの商品がどのターゲットに刺さっているかとか、どのような言葉がいい反応をするのか試している段階。この辺りはコンサルティング会社の方と月に一度のミーティングの場を設けて行っています。

ブランドを大きくする。直営店を出す。まだまだ志半ば。

Q:なるほど。では販売はやはりWebがメインですか?

A:メインはWebですが、それ以外にも少数ですが小売店さんでの販売、また、東京の方では一部、卸屋さんに卸したりしています。これもこちらから営業をしかけた訳ではなく、Webを見たからお問い合わせをいただいて置いてもらうことになったケースが大半です。他には、先ほど申しあげたとおり、ランニングのイベントで出展することが多いですね。Webだけでなく、やはり直接話をして、試着もしてもらうことは大切で、試着したお客さんの99%は買っていただけるんです。ファンづくりの第一歩という感じです。

最近、トレイルランニング用の靴下を作ったのですが、それがトレイルランナーに好評なのです。愛好者からイベントがあるとお声がけいただいて出展したり。そんなイベント会場で別のショップの方と出会って、私の店でも置かしてもらえませんかなんてうれしい提案をいただいたり。ランナーから専門ショップを紹介していただいて置いてもらう、そんな感じで広がっています。

Q:最後に今後のビジョンを教えてください。

A:「OLENO」の認知度をもっと高めていくことですね。最近ではオリンピック選手が「OLENO」を履いてレースに出場してくれたりしています。有名選手がランニングシューズと同じように、靴下の重要性に気づいていただいたことで、その方面からの注目も集まるようになりました。また、販売に関しては、直営店を出したいですね。都心ではなく、山の麓とかに。それはただ商品を販売する場ではなく、カフェもあって、いろいろな意見を交換できるリアルなコミュニティの場にしたいという想いはあります。

こだわったモノづくり。SNSを中心にした密なつながり。そんな取り組みを重ねて5年目です。とにかく「OLENO」のブランド力を高めて売上を拡大させていきたい。その上で、量販店を攻めるか、直営店を出店するのか、どのように事業を拡大させていくかの戦略を固めたいです。

まとめ

  • 昌和莫大小は長年、OEMで有名ブランドの靴下を製造してきたが、近年、価格競争に巻き込まれるようになった。このままではブランド離れが起こり、仕事がなくなるのではとの危機感を抱き、自社ブランドの立ち上げを決意した。
  • 2017年に立ち上げた自社ブランド「OLENO」。コンセプトは「ファッション&ファンクション」。ランニング用、サッカー用、サーフィン用、ガーデニング用、キャンピング用、DIY用など、用途を特化した靴下をラインナップしているのが大きな特徴。
  • ブランド立ち上げの原動力となったのは、1935年の創業以来培ったモノづくりの技術。それに加え、OEMではタイツやレギンスなどの長ものを取り扱っていたので、得意先とバッティングしない靴下の市場を選んだことが良かった。
  • また、外部のコンサルタントの協力のもと、やれることは何でもやった。無駄な時間だなと思ったこともたくさんあったが、それでも動けば吸収できることはあるし、プラスになることもある。実際、今の事業に生きている部分も多い。
  • さらにSNSで積極的に情報発信。2019年には「OLENOアスリートクラブ」というコミュニティを立ち上げて情報交換や交流を活発化。販売だけでなく、商品開発にも活用し、SNSのコミュニティは「OLENO」の研究開発室のように機能している。
  • 以前の物モノづくりは自分たちが作ることで満足を得ていたけれど、使う人の意見がすごく重要だったと気づかせてくれたのもSNS。厳しい意見もあるけれど、それに応えるところから期待に応える商品が生まれる。ユーザーの意見こそ、最高の羅針盤だ。
  • 一方で、リアルの交流も重要だ。ランニングのイベントで出展するなど直接話をして、試着もしてもらうことは大切で、試着したお客さんの99%は買っていただける。ファンづくりの第一歩という感じ。
  • 今後は「OLENO」の認知度を高めていくことにもっと注力。その上で、量販店を攻めるか、直営店を出店するのか、どのように事業を拡大させていくかの戦略を固めたい。また、山の麓とかに直営店を出し、意見交換できるリアルなコミュニティの場にしたい。

企業概要

OLENO
企業名昌和莫大小株式会社
所在地〒635-0813
奈良県北葛城郡広陵町百済1369−1
代表者代表取締役 井上 克昭
WEBページ■OLENO
https://oleno.jp/

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