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素人でも使えるスプレッドシートを駆使してDXを推進。業績を大幅アップ。【株式会社ハマヤ】

創業50年を迎える株式会社ハマヤは、毛糸やビーズ、リボン、ボタンなど手芸材料を卸売りする京都の企業である。

6年前まで、18人の社員に対してパソコンは2台しかなく、日常の受発注はすべて電話で対応。仕入れや入荷の計算はすべて電卓で確認し、伝票の記入も手書きという“超アナログ”な手法で業務を行っていた。電話、電卓、複写式の手書き伝票という、いわば昔ながらの「三種の神器」を使って商売していたのである。そのITとは程遠い状況から積極的にDXを進め、6年間で売上高を120%アップ、利益は300%以上アップと業績を大幅に伸ばした。小さな会社の典型的なDXの成功事例だ。いまはその経験を活かした他社のDXのコンサルティング事業に加え、自社ブランドの立ち上げといった新規事業への取り組みもスタートしている。

6年前の2016年9月に入社してDXをスタートさせた取締役専務の有川祐己さんとEC担当の永井将大さんのお二人にお話をおうかがいした。

※以下のインタビューの回答は、有川専務を主語にして記述しています。

収益の改善、コンサルティング事業の開始、自社ブランド設立。デジタル技術の活用がハマヤに大きな変革を起こした。(素材提供:株式会社ハマヤ)

情報共有できるように、商品の整理と手書き伝票のデジタル化から着手

Q/有川さんが入社された2016年9月当時、「三種の神器」を使った昔ながらのご商売をされていたとのことですが、具体的にはどのような問題を抱えていらっしゃったのですか?

A/取り扱っている商品アイテムは約20万点にのぼり、それを社内の倉庫に在庫しているのですが、保管ルールがなかったため、担当する社員でないと商品の在庫場所がわからない状況でした。担当者が不在のときには商品を探し回らなければならず、倉庫に戻すにもまた場所を探しまわり、膨大な無駄な時間を生んでいました。

同じように商品の受発注も担当者ごとにバラバラでやっていたので、受発注数や在庫数を共有できていませんでした。おそらく、在庫があるのにないと思って発注したり、在庫を切らして販売の機会を逃したりということが頻繁にあったのではないかと推測できます。要は、誰も全社の状況を把握できていなかったのです。当然、儲かっているのか、損をしているのかもわかりません。経理の数字も半年後にやっと出てくるありさまでした。よく商売が続いていたと不思議に思うぐらいです。 ところが、最近、他社のコンサルティングを始めて、当時の当社は例外ではなく、同じような小規模企業がとても多いことに気づきました。こんな状況でも商売が続いているということは、裏を返せば、DXによって業績向上の余地は十分にあると考えられます。

Q/ITとは程遠い状況を目の前にして、何から始められたのですか?

A/私は当社に来るまで、商社で営業をしていたのですが、いずれは起業したいと考えていました。また、休みの土曜日には、京都の工房を巡り、昔ながらの工房の課題をテクノロジーで解決する方法を模索するという活動を続けていました。陶器や伝統工芸などクリエイティブなものに興味があり、どうすれば後世に伝承できるのかという問題意識を持っていたからです。

その後、起業をめざして、後輩だった町田大樹くん(当社の現執行役員)と一緒に商社を辞めたのですが、しばらくして、私の実家である当社ハマヤから経営を手伝ってほしいと頼まれました。手芸は伝統工芸ではありませんが、テーマとして近いものを感じ、絶好のチャンスだと考えて、二人で当社への入社を決めたのです。ところが、目に入ってきたのが「三種の神器」を使った昔ながらの仕事ぶりです。挫けたりはしませんが、カルチャーショックを受けました。 そこで入社して最初に取り組んだのは、在庫商品の整理です。誰でも在庫場所がわかるように、来る日も来る日も倉庫にこもり、商品をカテゴリーごとに、季節商品であれば季節ごとに分類して五十音に並べ直す整理を行いました。また、受発注伝票や在庫表に手書きで書かれた数字を、一つひとつExcelに入力していきました。こうした地道な作業を積み重ねて、モノと情報が整理でき、ようやくDXの入口に立つことができました。

ハマヤのDXはアナログな作業から始まった(提供:株式会社ハマヤ)

素人でも様々なシステムを開発できるスプレッドシートを活用

Q/入口に立ってから、その次に何をされたのですか?

A/手作業で行っていた受発注管理や販売管理、会計管理などをシステム化していきました。システム化といっても、業務ごとにExcelで管理表を作ったり、安価な管理ソフトを導入したぐらいです。当社の商売ではそれで十分でした。ベンダに発注して本格的な情報システムを構築することもせず、コストもさほどかかっていません。

それでかなりの業務改善が図れたのですが、劇的に業務革新が進みだすのは2018年9月に若井信一郎くん(当社の現CTO)が入社したのをきっかけに、ExcelをGoogleのスプレッドシートに替えていってからです。若井くんとは土曜日に継続して活動していた週末起業で様々な挑戦をした仲です。いよいよITに強い人が必要になってきたので、誘って入社してもらいました。

スプレッドシートはExcelと同じ表計算ソフトです。Excelとの大きな違いは、クラウド上で情報共有がしやすいこと。特別なITスキルを必要とせず、素人でも様々な機能を付加できます。例えば、在庫が一定数を切ったときにアラームを飛ばすようなこともスプレッドシートでできます。当社の場合はスプレッドシートを使い出してから飛躍的に効率が上がりましたので、小規模企業が使わない手はないと思います。いまでは受発注管理や販売管理、会計管理、顧客管理などのほか、多種多様なシステムをスプレッドシートで作っています。 こうした取り組みによって削減できた作業時間は、年間延べ5,760時間になります。1人の時間に換算すると、約2.9年分、人件費に換算すると約570万円に相当します。

Q/御社ではECサイトも運営されているそうですね。

A/はい、卸売りではなく、一般消費者に向けたECサイトを運営しています。これは私が入社してから始めたのではなく、以前からやっていたことです。このサイト運営を大きく改革したのは2020年9月に主にECを担当することになる永井将大くんが入社したのがきっかけです。永井くんとはTwitterがきっかけで知り合いました。

改革の一つは、出品している在庫数の確認の一部を自動化したことです。それまでは一つずつ目視で確認していたのですが、出品点数が数万点になるため、欠品が生じたり、下げないといけない商品が残っていたり、ヒューマンエラーがたびたび起こっていました。それを自動化したことで、労力もミスも大きく減らすことができました。この仕組みもスプレッドシートで開発しました。

求められるIT人材とは、ITのスキルよりも課題解決志向を持っていること

Q/短期間に会社の仕組みを劇的に革新されましたが、古くからの社員に協力いただくのに苦労されませんでしたか?

A/非常に苦労しましたし、精神的にかなり疲れました。

小さな成功体験が生まれ出してから、少しずつうまく進むようになったのですが、最初のうちは抵抗を示す社員がいました。年齢的にデジタルにアレルギーがあった方が多かったように思います。従来の自分のやり方で商売が回っていたので、プライドがあったのかもしれません。残念ながら、何人もの方が辞めていきました。このことで幹部社員と口論したこともあります。

それでも、変わらなければ生き残れないと思い、改革を推し進めました。今日があるのは、その結果です。いまでも、辞める人まで出して進めなければならなかったのか、ほかにやり方はなかったのかと自問自答することがありますが、結論は出ません。

Q/DXを進めるには、どのような人材が望ましいですか?

A/ITにちょっと興味があり、課題を見つけて解決するのが好きな人ですね。課題解決の方法としてITツールを使おうというモチベーションのある人ともいえます。最近はいろんな安価なITツールが出ていて、素人でも使いやすくなっているので、ITのスキルはさほど重要だとは思いません。IT人材が一人でもいて、活躍する場をつくることができれば、中小企業や小規模企業の場合、ドラスティックに変われるはずです。

新たなことに挑戦しやすい、中小・小規模企業こそ、DXに向いている。

Q/最近、ブランドを立ち上げられていますが、これもDXの取り組みと関係はあるのですか?

A/「amioto」という手芸ブランドのことですね。編み物をするときに、毛糸の転がりや絡みつきを防ぐために、毛糸を入れるヤーンボウルという容器があります。それを主力商品にしたブランドです。きっかけは、手芸好きのパート社員とのディスカッションです。5人の従業員がプロジェクトに参加し、信楽焼のヤーンボウルを売り出しました。

ブランディングとDXとの関係については、DXの一環というわけではないですが、関係はあると思います。DXにより生産性が上がり、余裕ができたからこそブランディングに着手できたからです。当社の場合もそうですが、総合的に事業を展開している大手企業と違い、中小・小規模企業は特徴的でニッチな商売をしているところが多いので、オリジナリティや希少性が求められるブランディングに、大きな潜在力を持っていると思います。

ただし、中小・小規模企業はブランディングにリソースを割くだけの余裕がないところも多いですよね。そこでDXを推進し、業務革新によって生産性を高め、そうして生まれた時間や人員や資金などのリソースの余裕をブランディングに投資するのも、発展の一つの道筋ではないでしょうか。

ハマヤが新たに立ち上げたブランド「amioto」のヤーンボウル。(提供:株式会社ハマヤ)

Q/さらに新たな事業として、DXのコンサルティングを始められました。これまでに何社ぐらいコンサルティングされましたか? そのご経験からDXに向いた企業と向いていない企業という線引きはできると思われますか?

A/2年で30社ほどのコンサルティングをしました。業種は金属加工から理容関係、人材育成会社、不動産会社、化粧品メーカー、小売店などなど、非常に多岐にわたっています。珍しいところでは、左官屋さんのコンサルティングをしたこともあります。最初、相談をいただいたときに、あまりにも異業種なので何ができるだろうと思ったのですが、やってみると変われるところがたくさんありました。いまではクラウド化にも成功しています。

DXに向いている、向いていないの線引きがあるとは思えません。線引きするとすれば、経営者や、DX推進に関わる立場の人に変わりたい気持ちや変わる覚悟があるかどうか、社員の協力を得るためにDXの意義をしっかりと伝えられるかどうかだと思います。変わりたい気持ちや覚悟という点では、経営者が世代交代するときがDXに取り組むのにいいタイミングだと思います。

いまはもうDXは大企業の独断場ではありません。さっきも言ったように、昔と違って安価で使いやすいITツールがたくさんありますので、変わる覚悟さえあれば、中小企業、小規模企業でもDXを進めやすくなってきました。むしろ、大企業と違い、小さいからこそ身動きがとりやすく、新しいことに挑戦しやすいわけですから、DXは中小企業、小規模企業にこそ向いていると考えます。

自社の経験を活かしたITコンサルティング事業もスタート。様々な業種の中小企業のサポートを実施している。(提供:株式会社ハマヤ)

まとめ

  • ハマヤは長年、“超アナログ”な手法で業務が行っていたが、2016年9月に有川専務が入社したのをきっかけにDXをスタート。6年間で業績を大幅に伸ばし、いまはその経験を活かして、他社のDXのコンサルティングする新事業も始めている。
  • 最初に着手したことは、管理されていなかった在庫商品の整理と伝票に手書きされていた数字のExcel入力。つまり、モノと情報の整理である。それができて初めて、DXの入口に立つことができた。
  • 業務革新が大きく進んだのは、Googleのスプレッドシートを使って、様々なシステムを作り出してから。Excelと同じ表計算ソフトであるスプレッドシートは、特別なITスキルを必要とせず、素人でも様々な機能を開発できる。
  • 一方、改革に抵抗を示す社員もおり、非常に苦労をし、精神的にかなり疲れることになった。何人もの方が辞めていき、いまでも、辞める人まで出して進めなければならなかったのか、ほかにやり方はなかったのかと自問自答することがあるが、結論は出ない。
  • IT人材とは、ITにちょっと興味があり、課題を見つけて解決するのが好きな人。ITのスキルはさほど重要だとは思わない。IT人材が一人でもいて、活躍する場をつくることができれば、中小企業や小規模企業の場合、ドラスティックに変われるはず。
  • 中小・小規模企業は特徴的でニッチな商売をしているところが多いので、ブランディングに大きな潜在力を持っていると思う。DXを推進して生産性を高め、それで生まれたリソースの余裕をブランディングに投資するのも、発展の一つの道筋ではないか。
  • DXがうまくいくかどうかの線引きは、DXを推進する経営者、責任者の覚悟、社員の協力を得るためにDXの意義をしっかりと伝えられるかどうか。その点では、経営者が世代交代するときがDXに取り組むのにいいタイミングだと思う。
  • 最近は安価で使いやすいITツールがたくさんあるので、中小企業、小規模企業でもDXを進めやすくなってきた。小さいからこそ身動きがとりやすく、新しいことに挑戦しやすいわけだから、DXは中小企業、小規模企業にこそ向いていると考える。

企業情報

企業名株式会社ハマヤ
代表者代表取締役 有川 恵子
所在地〒615-0807
京都府京都市右京区西京極東大丸町10-1 5F
資本金1,000万円
事業内容手芸用品の卸小売及び、小売店様向け販売管理システム
WEBサイト■株式会社ハマヤ
https://hamaya-kyoto.com/
 
■HAMAYA CREATION(ITコンサルティング事業)
https://dx.hamaya-kyoto.com/
 
■amioto
https://amioto.jp/

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