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湯元舘

日頃の改善意識からIT化を積み重ねて、生産性を向上し、働く環境を改善【株式会社湯元舘】

利他グループ傘下の湯元舘は、おごと温泉にある創業90年余の老舗温泉旅館である。利他グループは、この湯元舘をはじめ、大津市、京都市、亀岡市に6つの旅館を展開しており、なかでも最も歴史があり、規模の大きい湯元舘が同グループの中核をなしている。温泉旅館は長期的に見て個人化(団体客から個人客への客層の変化)が進んでいるが、コロナ禍でそれがいっそう加速した。湯元舘は現在(取材した2022年1月時点)、個人化に対応するために大規模な改築・改装を行っており、2022年7月にリニューアルオープンする予定だ。

旅館業はどこも、フロントから調理場、バックヤードに至るまで人手の仕事が中心で、一般的に重労働で生産性の低い業種である。そのなかにあって、湯元舘では生産性向上や労働環境の改善、お客様サービスの向上のため、いち早くIT化に取り組み、成果を上げてきた。これまでに「はばたく中小企業・小規模事業者300社」や、経済産業省近畿経済産業局の「第21回 現場と共創する中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)」などに選出されている。 湯元舘のIT化の取り組みについて、針谷亮佑代表取締役と経営企画室の上田文雄室長にお伺いした。

滋賀、京都において6施設を経営する利他グループ。この中心となるのが株式会社湯元舘である。(素材提供:株式会社湯元舘)

生産性向上や労働環境の改善に向けて数々のITツールを導入

Q/御社では、これまでにどのようなIT化に取り組んでこられたかをお聞かせいただけませんか。

A/数多くのシステムやITツールを導入してきましたので、そのうち主なものを紹介しましょう。第一に、PMS(プロパティ・マネジメント・システム)というお客様情報を管理するシステムです。お客様のご予約情報や利用実績、売上などを管理しています。

お客様が「楽天トラベル」や「じゃらん」、JTBなどの旅行会社から予約された場合は、ご予約情報がそのままPMSに転送されます。電話で予約を受けた場合は、スタッフがそれをPMSに入力します。さらにチェックインされたときに、フロントで食事の内容や時間、アレルギーの有無、貸切風呂の時間、お布団の数などの詳細なご要望をお聞きして、タブレットでPMSに追加入力します。

PMSに入力されたこれらの情報は、スマートフォンや調理場のモニターで見ることができ、スタッフ全員で共有します。以前は、紙を回したり、ホワイトボードに書き出していました。料理の情報一つとっても、お客様ごとの食事場所や料理内容、アレルギーの有無などを調理場のホワイトボードに書き出し、予定変更のたびに書き直すなど、手間がかかり間違いのもとでした。それがPMSの活用で一気に解消しました。また、これらのお客様情報は履歴として残ります。アレルギーやクレーム、洋室や和室といったお部屋タイプなどを「カルテ」のように残しておくことで、リピートされた際にスムーズにご対応できます。

顧客に関するあらゆる情報をPMSに登録し一元管理することで、業務の効率化とスムーズな接客を実現している。
(素材提供:株式会社湯元舘)

 第二に、オーダーエントリーシステム。宿泊費だけでなく、客室の冷蔵庫にある飲料の消費、エステやマッサージの利用、館内の売店での物品購入などの料金をPMSに取り込むシステムです。精算時に、すべての料金を合算して請求書や領収書を発行します。以前は、売店で物品を購入されたなら、その料金をお客様の部屋に付けるために伝票を書いて会計に持っていき、そこでPMSに手入力していましたが、その一連の作業がなくなりました。PMSで合算された売上は、そのまま会計ソフトにも転送できます。

館内の施設利用や料金についてもPMSで一元的に管理することで、精算・会計に関する業務も効率化している。
(素材提供:株式会社湯元舘)

第三に、コロナ禍に対応するために、「opsplot」というシフト管理システムの活用を進めています。スタッフのシフト管理をオンラインでできるシステムです。もともと紙で管理していたのですが、急な調整が難しかったり、シフト管理だけのために出勤しなければならず、コロナ禍で非常に不便を感じていました。スタッフのほうも自宅にいながら自分のシフトを確認できます。システムの価格も非常に安価です。

このほかにも様々なITツールを導入しています。一例をあげると、料理進行システムは、調理場とサービススタッフをつなぎ、料理の出来上がりやお客様へ出すタイミングについて連絡しあうシステムです。また、お客様にお食事の部屋を示すため、以前は部屋の前に「〇〇様」と書いた紙を貼っていたのですが、それをデジタルサイネージに替えました。お名前の変更も容易にできますし、PMSとあわせてペーパレスが進みました。

湯元舘では施設内のあらゆる場所でサイネージが活用されている。
(提供:株式会社湯元舘)

Q/ここまで業務の負担軽減、生産性向上の取り組みをご紹介いただきましたが、お客様に向けたデジタル活用も行われていますね。

A/はい。お客様の問い合わせに自動で応対するチャットボットをホームページに置いています。従来のFAQのように該当の質問を探す必要はなく、ご自身で「日帰り予約はできますか」などと打ち込めば、AIが自動で最適な回答を提示します。また、従来のFAQ に載せられる数はせいぜい30から多くて50ぐらいでしょうか。とても網羅できません。それに対して、チャットボットは500~600ほどの回答を用意しており、的確な回答を非常に精度高くお返しできます。お客様は電話でのお問い合わせよりも気軽に使っていただけますし、一方で、当館ではどんな質問が増えているのかなどを分析できます。電話対応のためのスタッフ分の人件費に換算すると毎月10万円以上削減できました。

AIチャットボットを導入することで、問い合わせに関わる工数を削減。
(提供:株式会社湯元舘)

生産性の向上と働きやすい職場づくりの一つの手段としてIT化を推進

Q/多数のシステムやITツールをうまく活用されていますが、いつ頃から、どのようなきっかけで始められたのですか?

A/昨年引退した会長が社長だったころの時代にさかのぼります。旅館業は昔から生産性が低く、給料も低い業種の代表格です。肉体的な負担も大きく、3Kといわれることもありました。そのままでは人材も集まりません。こうした問題を改善するため、会長(当時は社長でしたが)は生産性の向上と働きやすい職場づくりに打ち込みました。その取り組みを通して、スタッフの給料を上げ、旅館で働く人たちの社会的地位を向上させたいと考えたのです。

そのために様々な手を打ってきました。台車を動かしやすいように段差をなくす改築を行ったり、職場に床暖房を入れたり、重いものを運ばなくて済むようにバックヤードにコンベアを設置したりなど、改善を重ねてきました。同時に、その一環でITも積極的に採り入れてきたのです。ですので、とくにIT化を進めるといった意識ではなく、改善のための手段として様々なITツールを試してきました。役に立たなかったものも山ほどあり、効果のあったものだけが定着しています。

湯元舘では旅館業・旅館業で働く人々の地位向上を目的に、改善のための手段の一つとして試行錯誤を繰り返しながら積極的にITを導入・活用している。
(提供:株式会社湯元舘)

専門的なスタッフを採用せず、外部のシステム会社をうまく活用

Q/IT化を推進するために、専門的な人材を採用されたのでしょうか。

A/いいえ、採用していません。経営企画室長がリーダーとなり、フロントスタッフ2人が兼務でITを担当しています。その2名を選んだのは、ITが得意そうで意欲もあったからです。専門的な人材がいるに越したことはないのですが、当館の規模では専任を採用するまではできません。それを補うために、外部の専門会社に知恵を借り、学びながら進めています。

PMSについては、システム会社に当館の要望を伝え、柔軟にカスタマイズしていただいて構築しました。オーダーエントリーシステムは、そのシステム会社と一緒にいちから共同開発したものです。当館が初めてのユーザーだったため、開発費用を抑えることができ、なおかつ、要望どおりのシステムとなりました。「opsplot」は、サービス業の生産性向上を研究されている工学博士の内藤耕先生が開発されたシステムです。当館は内藤先生にご指導いただいている関係で、「opsplot」をご紹介いただき導入しました。

もちろん、外部の専門会社に任せ切りにせず、情報収集にも努めています。先日も担当スタッフがマルチモニター化やSSDに関するセミナーに参加し、いま一生懸命にパソコンの中身を操作して試行錯誤しているところです。

Q/専門家がいないなかで、ITツールの選定はどのように行っているのでしょうか?

A/先ほども少し申し上げましたが、役に立ちそうなツールは片っ端から試し、複数を比較検討しています。導入を決定する際には、ITに限らず当館の取引基準である「QCD」に沿って最終的に判断しています。ご存じのとおり、「クオリティ」「コスト」「デリバリー」の略ですね。ITツールの場合の「デリバリー」とは素早く対応してくれるかどうか。これがとても重要だと考えています。

また、新しいシステムやITツールに投資するかどうかの判断は、3年以内に回収できるかどうかを基準にしています。大規模なものは5年を認めることはありますが、原則は3年です。付け加えると、コストを下げるために、できることはなるべく自分たちでするようにしています。例えば、モニターなどのハード機器の購入や設置などは丸投げするのではなく、自分たちで行っています。そうすることで1,000万円規模の投資を4分の1程度に収めたこともあります。

なお、当館はIT化やDXをうまく進めている旅館として紹介されることがありますが、決してそんなことはありません。積極的に取り組んでいるだけに失敗も多く、結果的にうまくいったツールを残してきました。これからもトライ&エラーを続けながら、DXを進めていくことになると思います。

DXの成功要因の一つは、長年培った変化を嫌がらない組織風土

Q/一般的には、IT化に後ろ向きの社員がいてご苦労される会社もあるようです。貴館ではそのようなご苦労はありませんか?

A/おかげさまで、おおむね全員が積極的に受け入れてくれています。会長がリーダー教育で「利他グループフィロソフィー」という哲学を伝えてきたことが大きかったと思っています。調理場で働く職人さんをはじめ、人間というのは保守的なものです。しかし、新しいことに挑戦して変わっていかなければ生き残れないと、常日頃から教育してきたので、IT化にも抵抗感はなかったと思います。

リーダー以外のスタッフも、自分たちの知恵と工夫で生産性が上がれば、職場環境も良くなり給料も上がる、つまり自分のためだという意識が組織風土として根づいていますので、リーダー同様に環境が変わっていくことへの抵抗感はほとんどありません。

Q/素晴らしいですね。教育活動以外に、それに関連して何か具体的な取り組みも行っていらっしゃるのですか?

A/利他グループには、スタッフが何かしらの改善を行ったときに事後報告する「改善メモ」という制度があります。「こんな知恵と工夫で、これだけ良くなった」とメモを提出する制度です。20年前からずっと続けており、グループ全体で年間2,000枚以上の「改善メモ」が提出されます。

「改善メモ」の効果は、改善が進むことはもちろん、それだけでなく、問題意識を持って仕事に臨む習慣が身につくことです。会長が大事にされている言葉に「有意注意」があります。常日頃から、目的意識を持ち、些細なことにも注意を集中することが重要だという意味です。いくら情報収集しても漫然と行っていては、良い情報を見逃します。逆に問題意識を持っていれば、ふとしたことで課題解決の糸口は見つかります。当館が良いシステム会社と出会えたのは、運が良かった面もありますが、その運の良さを取り逃がさなかったのは、「有意注意」の行いがあったからだと思います。

Q/IT化推進がうまくいっている要因として、ほかに何か考えられますか?

A/2つ考えられます。1つ目は、個人単位ではなくチームで進めていることです。あらかじめ目的や方向性だけをきちんと決めておき、そのあとの詳細は関係するスタッフみんなで話し合って詰めていくことが大切だと思っています。旅館業は各部門の連携が重要だからです。営業は営業だけ、調理場は調理場だけ、というふうに個々に進められません。関係部門のスタッフが一丸となって取り組んだからこそ、導入後もうまく運営できているのだと思います。

2つ目は、特別なITリテラシーをスタッフに求めないことです。担当者はITの知識を習得するため勉強していますが、スタッフにはスマートフォンを普段どおりに使えばいいようにしています。スタッフがより働きやすい環境をつくることが目的ですので、IT化を進めて負担が生じるようでは本末転倒です。ただし、セキュリティの知識は、これからもっと学んでもらうようにしていくつもりです。

Q/今後の課題やビジョンを教えてください。

A/主に3つあります。

1つ目は、予約の受付をRPAでできるようにすることです。もっとも、お客様のご要望は千差万別なので、それをRPAが判断できるように、いかにパターン化するのかという難題があります。しかも、お客様は非日常的な情緒を求めて、当館にいらっしゃいます。いくら合理的だからといって、情緒を損なうような「おもてなし」をするわけにはいきません。焼肉のチェーン店ならコンベアで料理を運んでもいいでしょうが、当館がそれを使うわけにはいきません。そこが旅館業でDXを進める際に留意しなければならない重要な点です。

2つ目は、労務管理のIT化です。ソフトはいろいろ出ているのですが、どれもコストが高くて手が出ません。「opsplot」を開発された内藤耕先生にご相談し、複数の旅館が共同開発することで、コストを抑えられないかと考えていることろです。

3つ目は、複数あるシステムのPMSへの連携です。貸出備品やエステの予約管理など、異なるシステムを使って管理しているケースも残っているため、二度手間が生じています。これらを統合することで、さらにムダを省いていくことも今後の課題です。

まとめ

  • 湯元舘では、お客様情報をトータルで管理するPMSをはじめ、オーダーエントリーシステム、スタッフのシフト管理システム、お客様のお問い合わせに自動で応答するチャットボットなど、数多くのシステムやITツールを導入し、生産性向上や労働環境の改善に成果を上げてきた。
  • 湯元舘がIT化に着手したのは、かなり以前にさかのぼる。旅館業は人手の仕事が中心で、一般的に重労働で生産性の低い業種であり、3Kの職場といわれることもある。それを改善し、旅館で働く人たちの社会的地位を向上させたいと考え、そのための一つの手段としてIT化に取り組むことになった。
  • ITの専門人材は採用せず、経営企画室長とフロントスタッフ2人が兼務でITを担当。専門的な人材がいるに越したことはないが、当館の規模では専任を採用するまではできない。それを補うために、外部の専門会社に知恵を借り、学びながら進めている。
  • 専門家がいないなかで、ITツールの選定方法として、役に立ちそうなツールは片っ端から試し、複数を比較検討。積極的に取り組んでいるだけに失敗も多く、結果的にうまくいったツールを残してきた。これからもトライ&エラーを続けながら、DXを進めていくことになると思う。
  • 導入を決定する際には、当館の取引基準である「QCD」に沿って最終的に判断。なかでも「デリバリー」、つまり、素早く対応してくれるかどうかがとても重要だと考える。また、新しいシステムやITツールに投資するかどうかの判断は、原則として3年以内に回収できるかどうかを基準にしている。
  • DXの成功要因の一つは、変化を嫌がらない組織風土が長年培われてきたこと。それにより、おおむね全員がIT化を積極的に受け入れている。それに加え、同じく長年取り組んできた「改善メモ」により、日常的に問題意識が育まれ、知恵と工夫で改善に取り組む習慣が身についていることも大きい。
  • そのほかにも、個人単位ではなくチームでIT化に取り組んでいることや、特別なITリテラシーをスタッフに求めず、スマートフォンを普段どおりに使えばいいようにしていることが、成功の要因だと考えられる。
  • 今後の課題は、予約の受付をRPAでできるようにすること。ただし、いくら合理的だからといって、情緒を損なうような「おもてなし」をするわけにはいかない。そこが旅館業のDXで留意しなければならない重要な点だ。そのほか、労務管理のIT化と複数あるシステムのPMSへの連携も今後の課題。

企業概要

企業名株式会社湯元舘
創業昭和4年1月1日
設立昭和39年2月1日
資本金5,000万円
所在地〒520-0102
滋賀県大津市苗鹿2丁目30番7号
代表者代表取締役社長 中村 正憲
WEBページ■湯元舘
https://www.yumotokan.co.jp/
https://www.yumotokan.co.jp/recruit/

■はなれ葭蘆葦
https://www.karoi.jp/

■ドッグヴィラ別邸あかい
https://www.yumotokan.co.jp/room_renew/#sec02

■びわ湖松の浦別邸
https://www.matsunoura.com/

■湯の宿 木もれび
http://www.komolebi.jp/

■京 湯の花リゾート 翠泉
http://www.kyoto-suisen.com/

■京小宿・八坂ゆとね
http://www.kyokoyado.com/

■京小宿・室町ゆとね
https://www.m-yutone.com/

■AKAGANE RESORT 東山京都
http://www.arkh.jp/

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