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データの積極活用で成果を可視化し、モチベーションと売上をアップ【株式会社早和果樹園】

和歌山県有田市に本社を置く株式会社早和果樹園の前身は、1979年に7戸の先進的な農家が立ち上げた早和共撰組合で、2000年に同メンバーが法人化して有限会社早和果樹園を設立した。その後、株式会社に改組している。

法人設立当初は一次産品である有田みかんを栽培して市場に卸していたが、2004年にみかんを用いた加工業にも進出。現在、1次産業(生産)、2次産業(加工)、3次産業(販売)のすべてを行う「6次産業」の業態で有田みかんと加工品を製造・販売している。

もともと進取の気質に富んだ農家が集まり設立した農業法人だけあって、早和果樹園はいち早くICTの導入に取り組み、最近では様々なITツールを採り入れて、DXを積極的に推進している。

同社はどのような事情からICTをいち早く導入したのか、その後、どのように経緯したのか、また、経営や働く環境にどのような変化をもたらしたのかなど、秋竹俊伸代表取締役社長にお話をお聞きした。

有田みかんで6次産業化を実践する株式会社早和果樹園。2014年には6次産業化優良事例として、農林水産大臣賞も受賞している(提供:株式会社早和果樹園)

加工品の製造・販売をきっかけに独学でネットショップを開設、運用

Q/御社では、これまでにどのようなDXを進められてきましたか?

A/主に取り組んできたことは3つあります。一つ目は2008年6月に本格的に始めたネット販売、二つ目は生産現場におけるICTの活用、三つ目として最近、様々なITツールを導入して、業務革新を進めています。

当社はもともと先進的で独立志向の強い農家が集まって設立した法人なので、構成員はみんな「新しいことがしたい」という気持ちが強く、ITを積極的に活用してきました。

Q/2008年にネット販売を始められたのは、どのようなご事情からでしょうか?

A/当社は2004年から一次産品である有田みかんの栽培だけでなく、みかんを原料にしたジュースやゼリーなどの加工品の製造・販売を始めました。ところが、一次産品は市場に卸せば売れたのですが、加工品は原則、市場で扱われないことに、やり始めてから気づきました。そのため販路ゼロからのスタートになり、スーパーに売り込んだり、農業関係や食品関係の商談会に参加して独自に販路を拡大していったのですが、それにつれてエンドユーザーからも電話やメールで徐々に注文をいただくようになりました。

そこで、通販事業を立ち上げて紙の通販カタログを配布したところ、さらに注文が増え、円滑に対応するためにインターネットで注文を受けるようにしました。これがネット販売の始まりです。その後、リニューアルを重ねてきましたが、とくに2019年のリニューアルによって売上が順調に伸び、2020年には売上が前年比1.4倍になりました。

早和果樹園のネットショップ(提供:株式会社早和果樹園)

Q/ネットショップの立ち上げや運用には技術やノウハウが必要だと思いますが、それはどのように調達されたのですか?

A/外部のリソースを調達したのではなく、私が立ち上げて2017年に社長に就任するまで運用していました。現在はEC事業部の社員に任せています。

もっとも、10年近くミカン栽培農家だった私に、インターネットに関する知識や技術はありません。ひとまず基礎だけは外部業者に作ってもらい、その後はHTMLを独学してコーディングを覚えました。また、デザインや画像処理を行うソフトの使い方を習得し、画面デザインもできるようになりました。

しかし、ネットショップを開いたからといって、最初はなかなか売れません。インターネットや書籍で、商品写真の撮り方やキャッチフレーズのコツを調べたり、検索上位にくるようにSEO対策を施したり、できる範囲でコツコツと積み上げていきました。

Q/独学で軌道に乗せるのは誰でもできることではなく、インターネットやITに対してある程度の適性が必要ではないですか?

A/適性というより興味があるかどうかでしょうね。でも、それ以上に重要なことは、まずやってみること。楽天に出店したければ、楽天の担当者に連絡して資料を取り寄せる。資料の書き方がわからなければ問い合わせる。そこからです。社長自らがやらなくても、社員の一人をしばらくの間、専任させればいいと思います。

楽天の出店者同士は交流が盛んなので、そこに参加すると有益な情報が入ってきます。ほかにもネット販売をしている店長の集まりもあります。私はそういう場で、他店の店長から新しい情報を得て、自社のネットショップに採り入れてきました。

また、ネット販売も結局は商売なので、ネットショップの枠組みができた後はマーケティングもしなければなりません。お客様とメルマガでやり取りしたり、商品を魅力的に見せる方法を考えたりすることも重要です。ですので、最終的には商売が好きな人が向いていると思います。

Q/ネットショッピングを開始されたことで、どのようなメリットがありましたか。

A/リアルな販売と違い、100人あたり何人が買ってくださったのか、お客様一人当たりの単価はどのくらいかなど、データとして可視化されることが大きなメリットです。可視化できれば、次の対策が打てます。アクセス数が落ちていればSEOを強化し、アクセス数は良いのに転換率が低ければページ内のデザインを変えるなど、数字を元に改善が図れます。マーケティングのやりやすい販売方法です。

データを用いて可視化することにより行動が変わり、生産性が向上

Q/二つ目にあげられた生産現場におけるICT活用とは、どのような取り組みですか?

A/2011年から富士通株式会社と共同でICTを活用した栽培実証実験を行いました。「みかん栽培にICTを採り入れたいから手を組みませんか」と、富士通さんから話をいただいたのが始まりです。その頃、富士通さんは様々な農産物の栽培にICTの導入を進めており、ほかの農業法人でも実証実験を行っていました。当社に声がかかったのは、全国の果樹農家で法人化しているところがほかになかったからだと思います。当時は「ICT」という言葉にまったく馴染みがなく、どんなことを行うのか想像すらつきませんでした。しかし、新し物好きの当社は、二つ返事で富士通さんの話に乗りました。

Q/想像のつかなかった栽培実証実験で、具体的に何をされたのですか?

A/富士通さんから提案されたゴールは「糖度が高くて甘いみかんを、安定してたくさん収穫すること」でした。果樹栽培は天候に左右されてしまうため、それをICTで解決しようと考えたのですね。

具体的には、栽培環境や生育状況を逐次把握しようと、詳細なデータを取り始めました。園内の各所に日照センサと土壌センサを設置したほか、みかんの木1本1本の花のつき方や実のなり方を記録するために、園内に5,000本ほどあった木にすべてタグをつけました。私たちには、みかんの木を1本ずつデータ管理するなんて考えられないことです。当然、農薬や肥料の使用量を記録し、作業者の園地への入園・退園もスマートフォンのアプリで管理しました。こうして収集した膨大なデータをクラウドに上げて、栽培ノウハウの詰まったデータベースの構築をめざしました。

Q/この実証実験で、どのような成果が上がりましたか?

A/いえ、残念ながら成果は出ませんでした。露地みかんの栽培にICTを導入するのは困難であるということがわかりました。みかん栽培の大部分はハウス栽培ではなく、屋外で行う露地栽培ですから、データに基づいて対策を打とうにも、天候に関しては制御できません。「雨が足りない」とわかっても雨を降らすことはできないし、「日照量が足りない」とわかっても太陽光を増やすことはできないのです。ほかの農業法人の実証実験も成果が出にくかったようです。

しかし、せっかくデータ取りの仕組みができたので、基本的ではありますが「どんぶり勘定」をなくすことにゴールを切り替えました。例えば、農薬を散布するとき、以前は全散布量を栽培面積で割ってアバウトに把握していただけですが、データを取りだしてからは散布のたびに区画ごとに記録をつけるようになり、正確な散布量が把握できるようになりました。

データを収集・分析し、農業技術の向上・生産活動に役立てるデータ農業概念図(提供:株式会社早和果樹園)

Q/つまり、「どんぶり勘定」をなくすという成果は上がっているのですね?

A/はい、ICTの威力が存分に発揮されています。肥料や農薬の投入量、作業時間、収量などがデータによって可視化され、区画ごとや単位面積あたりの採算性が正確につかめるようになりました。

「いま、どのくらい費用を投入しているのか」「作業時間はどのくらい積みあがっているのか」「結果、どのくらいの収量があったのか」などがネットで見れるようになり、モチベーションが上がりました。また、問題を早期に発見すれば対策が打てますので、収益性の改善も上がります。可視化することで行動が変わり、結果、生産性も大きく向上しました。若手社員への教育効果もあります。ベテランが口酸っぱく言っても伝わらないことが、客観的なデータを前にすれば、否が応でも気づきが生まれます。 難しい演算を行っているのではないので、Excelでもできるレベルですが、Excelではパソコンに入力する手間がかかるので、定着しなかったでしょうね。この仕組みなら現場で打ち込んでおけば、そのままクラウド上で集計されるため、非常に便利です。この損益管理はいまも「アグリノート」という別のシステムに替えて続けています。

日報アプリで全員の行動を可視化して、風通しの良い組織づくり

Q/三つ目のITツール導入については、どんなものを導入されているのですか?

A/多くの会社が導入している一般的なITツールです。勤怠管理はタイムカードをやめて「ジョブカン」というシステムを利用しています。規定の残業時間を超えるとアラームが鳴る機能などが付いています。店舗のPOSには「スマレジ」を入れて、品目ごとの売上集計や客単価などがすぐに見れるようにしています。「CROSS MALL」はECサイトすべてを一元管理できるシステムです。在庫管理は「kintone」からExcelにデータを転送して行っているのですが、それでは回らなくなってきたので、現在、独自の販売・在庫管理システムを構築中です。社内のコミュニケーションツールには「gamba!」という日報アプリを使っています。これが優れものです。

Q/日報アプリ「gamba!」は、どのような成果が上がっていますか?

A/「gamba!」では全員の日報を全員が見れるように設定しています。従来の日報が機能していなかったことから、それに代わるものとして導入しました。現在は、園地で働く作業員も店舗の店員も加工場の従業員も、正社員全員が「gamba!」で日々日報をアップロードしています。何か問題が起こったときにも全員で共有できるので、いままで以上に非常に風通しの良い組織になりました。つまり、ここでも全社員の行動が可視化できたことが大きな成果だと思っています。

Q/でも、日報を定着させるのは難しくなかったですか?

A/おっしゃるとおり、定着させるには工夫が必要です。多くの人間は新しいことをやりたがらないものですから。そこで、いきなり全社に導入するのではなく、総務部門の5~6人でテスト導入しました。そして、負担にならないように簡単なルールを決めました。まず5分以内で書ける程度にすること。書く内容は「今日、何があったか」「それにどう対処したか」「それを踏まえて明日以降どうするか」の3点に絞ること。これがうまくいきだしたので次は営業部門、その次は現場部門と徐々に広げていきました。

そうすると、なかには長文を書く社員も現れるのですね。全社員が見ているので、モチベーションになったのでしょう。それに触発されて競って書く社員も現れました。一方で、簡単に3行で済ませる社員も居ますが、書くことを重要視しているので、問題なしとすることで全社員に浸透していきました。

上司が部下の日報にいちいち返信するのも大きな負担になるので、「いいね」を押すだけでいいことにしています。苦情があっても「いいね」です(笑)。もちろん、コメントを返したければ返せばいい。万が一、日報から「この社員、最近心配だ」というサインが見えたときは、総務部長がヒアリングを行うこともあります。

Q/ITツールを導入するときの選定は誰が行っていますか?

A/基本的に社長の私です。富士通㈱から紹介があったり、他の農業法人からすすめられたり、社員が探してきたり、ベンダからの提案だったり、きっかけは様々ですが、費用対効果などをみて、導入を最終的に決定します。

当社にあわないツールを入れてしまうと多大な時間が無駄になりますので、導入に際して慎重に検討しています。ネット情報を徹底的に調べ、口コミや評判を聞きまわり、しかも、基本的にどこかが導入していない限り、簡単には踏み切りません。幸い、これまでほとんど“ハズレ”はありません。

しかし、いったん導入したあとは、少々難があっても、辛抱して使い続けることが大事です。もう一つ大事なことは、運用を現場に任せること。現場の自主性を尊重して、導入後は私はできるだけ関与しないようにしています。

可視化によって強い組織をつくり、地元の有田への貢献をめざす

Q/今後のビジョンをお聞かせください。

A/当社は中小企業なので、経営資源が潤沢ではありません。そのため、社員一人ひとりがフルに力を発揮できる組織マネジメントが求められます。ITに強い人だけでなく、販売に強い人、ものづくりに強い人など、それぞれの強みを組み合わせて、よりいっそう強い組織にしたいと思っています。そこで大切になるのが、何度も申しあげているとおり、データを用いた「可視化」です。

 当社は6次産業の業態で経営を行っていますが、コアになるのは有田みかんです。ですので、みかんの産地である地元有田にも貢献しなければならないと思っています。それには、販売チャネルを広げて売上を伸ばす必要がありますし、効率よく加工品を生産する工夫も必要です。事業が拡大して雇用を増やすことができれば、地域にも貢献できます。本社を移転するわけにはいかない会社なので、有田を起点に事業拡大と多角化に引き続き地道に取り組んでいきたいと考えています。

まとめ

  • 和歌山県有田市の早和果樹園は、先進的なみかん農家が立ち上げた法人で現在、1次産業(生産)、2次産業(加工)、3次産業(販売)のすべてを行う「6次産業」の業態で有田みかんとみかんを原料としたジュースやゼリーなどの加工品を製造・販売している。
  • 同社は早くからITを採り入れてきたが、その一つが加工品のネット販売である。来客や売上の動向がデータとして可視化でき、それをもとに対策が打てるのでマーケティングがやりやすく、売上を順調に伸ばしている。
  • ネットショップの立ち上げと運営は当初、現社長が社長に就任する前に独学で取り組んだ。ネット販売は、インターンネットに興味があり、商売の好きな人材がいれば、外部のリソースに頼らなくても、まずやってみることが重要。
  • 2011年から富士通㈱と共同で始めた、みかん栽培へのICTの導入は、膨大なデータを活用しようにも天候を制御することができず成果が出なかった。しかし、そのデータ取りの仕組みを活用し「どんぶり勘定」をなくすためデータに基づく損益管理に利用した。
  • 現在、農薬や費用の投入量、労働時間、収穫量などを記録してデータとして蓄積し、区画ごとや単位面積当たりの損益などを可視化している。可視化することで「どんぶり勘定」から脱却するとともに、作業者のモチベーションが上がり、生産性も大きく向上した。
  • このほか業務を革新するために様々なITツールを導入。なかでも全社員の日報を全社員で見れられる日報アプリ「gamba!」は全社員の行動が可視化でき、問題が起こりそうなときも全員で共有できるので、風通しの良い組織づくりに役立っている。
  • ITツールの選定と導入は費用対効果などをみて、最終的に社長が決定している。ただし、導入後は現場の自主性に任せて、社長は関与しないようにしている。
  • 経営資源が潤沢でない中小企業は、社員一人ひとりがフルに力を発揮できる組織マネジメントが求められる。それにはデータを用いた「可視化」重要だ。早和果樹園は今後も「可視化」を重視して、事業拡大と多角化に取り組み、地元の有田に貢献し続けたい。

企業情報

企業名株式会社早和果樹園
所在地〒649-0434
和歌山県有田市宮原町新町275-1
代表者代表取締役社長 秋竹 俊伸
資本金9,997万円
※令和4年1月現在
創業昭和54年10月
設立平成12年11月1日
事業内容みかんの生産、選別出荷、農産加工、及びそれらの販売
WEBサイト■株式会社早和果樹園
https://www.sowakajuen.co.jp/
 
■株式会社早和果樹園(オンラインショップ)
https://sowakajuen.com/
 
■株式会社早和果樹園(楽天市場)
https://www.rakuten.co.jp/sowakajuen/

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