DX関連

DXに関連する様々な情報を
掲載しています

  1. HOME
  2. ブログ
  3. DX事例
  4. DXの重要な第一歩は、トランスフォーム(変身)した先のビジョンを描くこと【株式会社インフォバーン】

DXの重要な第一歩は、トランスフォーム(変身)した先のビジョンを描くこと【株式会社インフォバーン】

株式会社インフォバーンは、1998年設立当初は出版社として事業をスタートしたが、その後Webメディアのソリューション事業を立ち上げたことを皮切りに、デジタルマーケティングやブランディング支援事業へと大きく業種をシフトした。現在は、企業のデザイン戦略やブランド戦略の支援に始まり、その戦略を具体的に展開するためのコミュニケーション・プランニング、オウンドメディア構築・運用、Webサイト構築・運用、スマートフォンサイト構築・運用、コンテンツ企画制作を行っている。加えて、2015年からはサービスデザインやUXデザインを主軸とするイノベーションデザイン事業もスタートしており、2021年5月には“攻めのDX”を実現するための「DXビジョン設計・実行支援サービス」の提供を開始した。
デザインやブランディングを専門とする同社が、なぜDX支援に乗り出したのか? 実は、この答えにDX推進の成否を左右する重要な鍵がある。
株式会社インフォバーンの取締役副社長で京都支社長の井登(いのぼり)友一さんに、企業のDXを支援する同社の事業内容や、DXを進めるうえでの考え方やポイントなどをお聞きした。

ビジョンのないデジタル化にとどまっていては、トランスフォームはできない。

デザインと聞くと、個人の能力やセンス、個人のクリエイティビティによるところが大きく、ITやDXとは距離があるように思うのですが、御社はなぜDX支援の事業にも乗り出されたのでしょうか?

多くの方は、デザインを個人の能力やセンスに基づく仕事だと思われているようですが、それはデザインを意匠や造形、あるいはグラフィックデザインなどに狭く理解されているからです。

デザインの語源はラテン語の「designare(デジナーレ)」です。アタマの「de」は英語の「for」「to」にあたり、それに続く「signare」は今でいう「サイン」のことです。つまり、デザインとは「形をつくり、印をつけて、ある方向に向かわせる」という意味の言葉です。意匠や造形、グラフィックデザインも含まれてはいますが、もっと広く「形のないものを構想する」、さらには「未来像を描く」とするのが本来の定義です。最近よくいわれる「デザイン思考」や2018年5月に経済産業省が取りまとめた『「デザイン経営」宣言』などは、広い意味のデザインを言っています。 当社は、広い意味のデザインを専門としており、新規事業のデザイン、すなわち新規事業のコンセプトやビジョンの策定を支援しています。もっとも、コンセプトやビジョンは最終的に形にしていく必要がありますので、それらに基づいて、アプリケーションや家電のインターフェイスの情報デザインなど、より具象性の高い意味のデザインも行っています。

なるほど。デザインを狭くとらえておりました。そのうえでお聞きしますが、広い意味のデザインがDXにどのように関わるのでしょうか?

ここが非常に重要なのですが、DXを進めるうえで最初にしなければならないことは、ビジョンを描くことだからです。ここでも広い意味のデザインが深くかかわっています。

「DXを進めているのだが、うまくいかない」という声をよく聞きます。多くの場合、ITツールを導入して従来の業務フローをデジタル化したり、Webやアプリを使ってお客様とのやり取りをデジタル化したりすることをDXと言っているようですが、実際にはそれはDXではありません。従来のやり方をアナログからデジタルに替えるだけでは、デジタイゼーションやデジタライゼーションに過ぎなくて、それだけでは会社や組織はトランスフォーム(変身)していません。

トランスフォームにまでもっていくには、まずトランスフォームした先のビジョンを描かなければなりません。ゴールを明確にしておかなければ、どっちへ向かっていいかわかりませんからね。

新しいビジネスに生まれ変わるためには、「自社の目的、存在意義は何であるのか」、「自社が提供できる強い価値は何であるのか」、「それによって社会にどのように貢献できるのか」といった観点で、トランスフォームした先にどう変わるのかを見定める必要があります。ビジョンを描き、現状とのギャップを洗い出し、そのギャップを埋めるためにITを活用することがDXです。

オンライン会議によって生じる議論の可視化と組織風土の変化

DXを進めるためにビジョン策定から支援された、具体的な事例をご紹介いただけませんか。

DXを支援する際には、クライアントとのワークショップを通し、めざすべきビジョンを構想し、現状とのギャップを洗い出し、ギャップを埋めるためのストーリーを組み立てて、何に取り組めばいいかという課題の設定を行います。ただし、具体的な事例は開示できないので、たとえ話で説明させてください。

製品やサービスレベルのDXになりますが、新しい炊飯器を開発するとしましょう。炊飯器も今後、IoT化してアプリと連動するようになります。そうなると、ご飯を炊くという機能は変わりませんが、新たに提供できるサービスが増えていきます。

では、どのようなサービスを付加すればいいのか。それを考えるには、炊飯の場面だけを見るのではなく、家事全体を視野に入れる必要が出てきます。従来の炊飯器であれば、どうすれば使いやすいか、どうすればおいしく炊けるかを考えればよかったのですが、これからは家事全体のあるべき姿から炊飯器を考えなければなりません。炊飯器がIoT化して新たなサービスが生まれると、料理や洗濯、掃除などの行動が大きく変わってきます。外出先からでも操作できるので、時間の使い方も変わってきます。これが家事のDXです。もちろん、炊飯器だけでなく、あらゆる製品、サービスでも起こり得ることです。

企業経営のレベルでの事例は何かありませんか?

やはり具体的な事例は開示できませんが、リモートワークが進み、期せずしてDXが進んでいる面白い例があります。特定の企業の話ではなく、一つの現象だといっていいでしょう。最近は、オンラインで会議することが当たり前になりましたが、それによって2つの大きな変化が生まれているのです。 第一の変化は、議論が可視化され、思考モードが変わることです。オンラインで会議をすると、自分の意見を伝えるために、リアルのとき以上にきちんと言語化するようになります。また、画面共有して全員が同じ資料を見ることで、資料という可視化された情報に集中するようになります。こうして議論が可視化された結果、結論を明確に出して終わろうとする変化も生まれます。なんとなく伝わっているような空気、なんとなく物事が決まったような空気はリアルな会議ではありがちですが、オンラインでは起こりにくいのです。

面白い現象ですね。第二の変化は何ですか?

組織のヒエラルヒーが希薄になることです。対面では意見が言いにくい上司に対しても、画面越しだと不思議と言いやすくなるのです。リアルだと上司がどこに座ろうが、なんとなくそこが上座になるのですが、オンラインだと均等に分割された画面の一つにすぎなくなります。その結果、上下関係があまり意識されなくなって議論が活発になり、ひいては組織が活性化します。

私は大学の非常勤講師を務めていますが、オンラインで講義すると、リアルのときにはおとなしかった学生が、カメラをオフにしてチャットでどんどん鋭い質問を投げてきます。おそらく教師と生徒の関係性もフラットになりやすいからではないかと思います。

この2つの変化は、組織を活性化するものすごいトランスフォーメーションです。当社ではそれに気づいてから、クライアントでの会議をリモートとリアルで意識的に使い分けるようにしています。議論を活発にしたいときはリモートが適しており、重要な意思決定を行うときはリアルが適しています。リアルな会議に重役を招き、「よし、それでいこう」と決断していただくことで、意思決定がオーソライズされます。リモートではできないパフォーマンスです。

いまのお話では、会議や組織の活性化を目的にオンライン会議を導入したのではなく、結果的に活性化したわけですから、当初のビジョンでは想定していないトランスフォームが起こることもあるのですね?

そこも重要な点です。ビジョンは一度設定しても、経営環境の変化に伴い、練り直す必要が出てきます。3年も経つとまったく別のビジョンになっているかもしれません。先ほど、「自社の目的、存在意義は何であるのか」という観点からビジョンを設定すると言いました。最近、「パーパス経営」という言葉をよく聞きますが、パーパスとは「社会における自社の存在目的、存在意義」、つまり社会など外部から与えられるものです。パーパスは自社の考えで自分勝手にブレさせてはいけませんが、ビジョンは「自社が信念に基づきやろうとすること」、つまり自分たち自身が願うことなので、社会や環境の動きによって場合によってはダイナミックに変化していく可能性があるものです。状況に応じて常に変えていくことはデザインの基本でもあります。

急いで具象化しないこと。具象化したものを説明できなければならないこと。

炊飯器の新製品開発のたとえ話をお聞きして思うのですが、デザイナーに求められる能力も大きく変わり、これからもっと視野を広げないとダメなんでしょうね。

優れたデザイナーは、もともと広い視野で仕事をしています。デザインは本来そういうものですから。

デザイン先進国であるイタリアでは、ミラノ工科大学が建築学部のもとにインダストリアルデザイン学科を創設した1993年までデザインを教える学科は大学などの教育機関にはありませんでした。ではどこでデザインを教えていたかというと、建築学部や建築学科だったんですね。建築家が建造物を構想・設計するだけでなく、室内に置く家具や照明器具、工業製品、さらには意匠などのデザインも手がけていました。

言うまでもなく、建造物は単に造形だけを考えればいいわけではありません。まわりの環境との調和や室内の居住性など、広い視野で様々な要素を考慮する必要があります。また、建造物は施主の寿命よりも長く世の中に残るので、将来の時代の変化も見据えなければなりません。室内の家具や工業製品もそれに沿って、デザインされることになります。

ですので、優れたデザイナーなら以前から、炊飯器をデザインするときは、ご飯を炊く行為だけを対象にするのではなく、キッチンや暮らしやライフスタイルまでを見渡しています。それに加えて、新たに登場したデジタル化やIoTの知見も必要です。

しかし、その一方で、デザインの対象が建築、家具、工業製品、ファッション、グラフィックなどと細分化されるなかで視野が狭くなってきたかもしれませんね。だから今、本来のデザインに立ち返る「デザイン思考」が唱えられているのだと思います。

お話を聞いて、「デザイン思考」が職業デザイナーだけでなく、一般の企業人も求められているように思いました。経済産業省のいう「デザイン人材」もそういう趣旨だと思います。デザイン思考は、どうすれば習得できるでしょうか?

学ぶ機会は常にあると思います。私自身も学んでいる身ですので、ここで方法論を申し上げるのは難しいのですが、デザイン人材は2つのことが求められると思います。

第一に、ビジョンを設定するプロセスは抽象的な思考プロセスとなりますが、それを急いで安易に具象化しようとしすぎないことです。気が急いても、抽象度が高いものを、抽象度が高いまま考え続けることが大事です。そうでないと、既成概念を超えるアイデアは生まれません。 もちろん、どこかのタイミングで具象化しなければなりません。そのとき、それをまわりの人に説明できなければならない。これが第二に求められることです。芸術であれば孤高の巨匠が、「これは宇宙だ!」といったワンフレーズを叫べばそれで周りは納得するかもしれませんが、ビジネスは多くの関係者の協業で成り立つものなので、なぜこう考えたのか、なぜこの方向性なのかを理解してもらわなければなりません。だから説明できる状態にすることが重要なのです。

できることから小さく取り組み、常に前に進んでいる状態にすることが重要

クライアントを支援されていて、DXをうまく進めている企業には、どんな共通点がありますか?

一般化できるほど多くの企業を見ていませんので、あくまでも経験値の範囲でのお答えになりますが、うまく進めている企業はDXの先のビジョンと、そのビジョンを導き出した理由が明確です。また、それが関係者の間で共有されています。今日ここまでお話してきたとおりです。何をめざすのか、なぜそれをめざすのか、つまり、「What」と「Why」がクリアになっていることは絶対条件です。

そのうえで、ビジョンをいかに実現するかについては、性急に進めすぎないことが重要です。うまく進める企業は、長期的にやるべきことを想定しつつも、一気にやろうとせず、今できることから着手しています。つまり、「How」はあせらないことです。

最初は会計システムのリプレースだけでもいいのです。あるいは、メールに代えてチャットツールを始めるだけでもかまいません。それによって業務フローが変わり、社内にインパクトを与えれば第一歩として十分です。それを積み重ねていく、経営環境が変わればツールをすぐに変える、そして、少しずつでもいいので常に前に進んでいる状態にする、そういったこともDXをうまく進めるための条件です。

個人の幸福よりも、「Happiness」(社会の幸福や公共善)が求められる時代に

「社会にどのように貢献できるのか」という観点で、ビジョンを見定める必要があるとお話しいただきました。社会貢献を突きつければ、一人ひとりの幸福、最近の言葉で言うと、「Well-being」や「Happiness」の実現になると思うのですが、いかがでしょうか?

おっしゃるとおり、「Well-being」や「Happiness」に収れんされるでしょうね。ただし、あくまでも私見ですが、「Well-being」は個人にとっての幸福というニュアンスが強く、「Happiness」のほうがより公共性があるように感じます。 いきなり話が古代ギリシャに飛びますが、アリストテレスの倫理学を編纂した『ニコマコス倫理学』のなかに「ユーダイモニア」という言葉が出てきます。「公共善」という意味です。その時代の「幸福」や「善」は社会全体や集団を視野に入れたものでした。それに対して、近代以降は、個人の「幸福」や「善」が追求されるようになります。それが最近、SDGsやESGなど、社会的役割、社会的責任が問われるようになりました。個人主義がいき過ぎて、公共善が損なわれるようになってきたからです。個々が幸福かどうかよりも、社会全体が幸福であり、その結果、一人ひとりの幸福も保証される社会を目標とされるようになったわけです。こうした社会変化のなかで、公共や集団の「幸福」や「善」にいかに貢献できるか、「Happiness」をどう実現するのかという観点から自社のビジョンを見定めることが求められています。


まとめ

  • 従来のやり方をアナログからデジタルに替えるだけでは、デジタイゼーションやデジタライゼーションに過ぎず、トランスフォーム(変身)していない。トランスフォームにまでもっていくには、トランスフォームした先のビジョンを描かなければならない。
  • 「自社の目的、存在意義は何であるのか」、「それによって社会にどのように貢献できるのか」といった観点で、トランスフォームした先のビジョンを描き、現状とのギャップを洗い出し、そのギャップを埋めるためにITを活用することがDXである。
  • 製品がIoT化してアプリと連動するようになると、新たに提供できるサービスが増えていく。新たなサービスを付加した新製品を開発する場合、その製品の使用場面だけを見るのではなく、ライフスタイル全体を見る広い視野が必要だ。
  • オンライン会議が普及し2つの変化が生まれている。第一に、議論が可視化され、結論を明確に出して終わろうとする変化。第二に、画面越しの対話で、組織のヒエラルヒーが希薄になる変化。これによる組織の活性化は、大きなトランスフォームである。
  • パーパスは自社の都合でブレさせてはいけないが、ビジョンは社会や環境の動きによって変化していくものである。状況に応じて常に変えていくことはデザインの基本でもある。
  • デザイン人材は2つのことが求められる。まず、ビジョンを急いで安易に具象化しないこと。そうでないと、既成概念を超えるアイデアは生まれない。そして、いったん具象化すれば、関係者の間で理解してもらうために、それを説明できなければならない。
  • DXをうまく進めるためには、「What」と「Why」がクリアになっていることと、「How」を急ぎすぎないこと。ビジョンを設定すれば、一気にやろうとせず、できることから小さく取り組み、それを積み重ね、常に前に進んでいる状態にすることが重要である。
  • SDGsが唱えられるようになったのは、個人主義がいき過ぎて、公共善が損なわれるようになってきたからだ。公共や集団の「幸福」や「善」にいかに貢献できるか、「Happiness」をどう実現するのかという観点から自社のビジョンを見定めることが求められている。

※本稿はe-Kansaiレポート2022からの転載です。

関連記事