DX関連

DXに関連する様々な情報を
掲載しています

  1. HOME
  2. ブログ
  3. DX事例
  4. 自社のポジショニングを活かしてDXを推進し、事業の社会的価値を向上【JIPテクノサイエンス株式会社】
JIPテクノサイエンス

自社のポジショニングを活かしてDXを推進し、事業の社会的価値を向上【JIPテクノサイエンス株式会社】

東京都千代田区に本社を置くJIPテクノサイエンス株式会社は、1962年創業の日本電子計算株式会社の科学技術部門として、大型電算機の時代からソフトウェアを自社開発し、橋梁をはじめとする社会インフラの構造計算などを受託してきた。そうして蓄積されたノウハウを活用して、90年代後半からは社会インフラの設計・解析、保全メンテナンスといった総合的なコンサルティングサービスもスタート。ソフトウェア開発との2本柱で事業を拡大している。
 同社の組織は、「建設」「解析」「インフラ」「住宅」の4つのソリューション事業部で構成され、社会インフラ分野は「住宅」以外が担っている。ただし、「建設」「解析」と「インフラ」事業では、顧客も問題のベクトルもまったく違う。“モノができる前”の事業である「建設」「解析」はゼネコンや橋梁専門メーカーが顧客だが、インフラソリューションは“モノを守る”自治体が顧客だ。
土木とIT、新設と保全という、ベクトルの異なるそれぞれの事業に向けたDXの取り組みについて、インフラソリューション事業部の廣瀬安昭事業部長にお伺いした。

自治体の壁を超えたビックデータの利活用で、橋梁の維持管理の適正化をめざす

御社では、具体的にどのようなDXに取り組んでおられますか?

DXには、生産性の向上といった「社内向けの改革」と、新しい価値の提供という「社外向けのイノベーション」という2つの種類があるかと思います。当社では前者は比較的オーソドックスな取り組みですので、ここでは後者をご紹介しましょう。主な事例としては「ITを使った路面調査システム」「橋梁の維持管理システム」の2つがあります。 1つ目の路面調査システムは、車にスマホを載せるだけで、道路の凹凸やひび割れ、穴などを検知できるシステムです。調査結果を自治体に提供し、補修のコストや優先順位などをアドバイスするアセットマネジメントに繋げていきたい狙いがあります。

従来の路面調査システムと比較して、革新的なメリットはどこでしょうか?

調査費用の大幅なコストダウンです。従来の路面調査では大型の専用車両が必要で、1kmあたり5~10万円の費用がかかります。この莫大なコストが路面調査の大きなネックの一つです。結果的に、調査よりも簡易的な補修の方が安くつく場合もあり、年度末の道路工事が増える要因にもなっています。

一方でスマホによる路面調査は、専用車両と同等の調査を、1kmあたり数千円で実施できます。自治体が道路点検のために定期的に走らせている黄色いパトロールカーにスマホを載せるだけなので、かかるのはシステム費用だけです。浮いたコストを、橋梁やトンネルの保全といった第三者被害リスクが高いものに振り分けてもらえば、社会インフラの安全性がより高まります。

2つ目の「橋梁の維持管理システム」についても教えてください。

こちらは、ひと言でいうと橋梁のビッグデータの利活用を視野に入れた取り組みです。当社では、東京、大阪、横浜をはじめ、全国の数多くの自治体に橋梁管理のためのパッケージソフトを提供しているのですが、そこには、橋の架設年から傷み具合といったデータが蓄積されています。そうした橋梁のカルテともいえる情報を集約し、各自治体が共有できるようになれば、維持管理がさらに適切に行えるようになります。

たとえば、気候や地形が似ている地域の橋梁であれば、補修の時期や方法を参考にできますし、今後、補修コストなどのデータも集まってくれば、適正な工事コストを見極めやすくなります。

平成26年の道路法改正で、橋梁は5年に1度の点検が義務化されたので、自治体ごとにデータはしっかりと残っています。ただ、現状では、補修計画に対して結果はどうだったかといったPDCAサイクルはまだまだうまく回っていません。この課題をサポートできれば、補修工事のセカンドオピニオン的な取り組みも可能になり、工事の効率化につながると期待しています。

橋梁などの社会インフラのビッグデータ活用が、これまで進んでこなかった要因はどこにあるのでしょうか?

当社では10年以上前から模索していたのですが、自治体間の壁もありましたし、「国防上、データをオープンにするべきではない」という意見も根強く残っていました。潮目が変わったと感じたのは、東日本大震災からです。災害時にデータを失わないためには、クラウドでの保管も必要だと多くの人が気付かされました。さらにその後、海外でデータのプラットフォームが急速に普及し、日本政府もオープン化に向けて積極的に取り組むようになりました。こうした時流が後押しとなり、ここ2~3年で自治体も「データを外に出す」ことへの抵抗感が薄れてきたように感じます。

データは母数が多いほど精度が高まりますから、実際に利活用できるまでにはあと数年かかるでしょうが、例えば2階建てのイメージで、1階部分はオープンデータとして無料で相互利活用ができ、2階部分は建設コンサルタントなど各社が独自の付加価値を付けてマネタイズしていく、そんな仕組みを作っていければと考えています。

実施するのが当社になるのか国交省になるのか、それとも協働になるのかはまだわかりませんが、私はこれが橋梁系DXの本丸だと考えています。

DXは全社的ではなく、事業ごとの取り組みから始めてもいい

「社内向けの改革」という視点でのDXはいかがでしょうか?御社では組織を部門別に分けられていますが、今後は全社的な取り組みに発展させていかれるのでしょうか。

基幹システムによる全社横断的な取り組みは始めていますが、正直に申し上げて難しさも感じています。たとえば、ERPパッケージなどを導入する際に、欧米なら既存の業務のやり方を一新するかと思いますが、日本だと現状のやり方を残して、システム自体をカスタマイズしようとします。そういった体質はまだ当社にも残っています。

また、全社的な取り組みを進める中で見えてくる一つひとつのテーマに深掘りをすればするほど、やはり部門ごとの課題に落ちていきます。

当社は社員230人程度の会社ですので、「事業の付加価値を上げる」「事業にイノベーションを起こす」といった視点でのDXへの対応では、部門別の方がスピード感も保てます。ですから、横断的に取り組むべきか、部門ごとに取り組むべきかは、今後対象とするテーマによって自然的に分かれていくような気がしています。

御社は事業ごとに、顧客の特性や課題が異なりますものね。そういう意味では、DX推進に向けた統一ビジョンを掲げるのも難しそうです。

おっしゃるとおり、橋の新設は民間企業、維持管理は自治体が顧客となるため、事業ごとに時間軸も目的もまったく異なります。そうした中で一つのビジョンを掲げようとすると、どうしても抽象的なものになってくる。ビジョンは、それを成し遂げるために自分がどう行動するかを考える指針になるものですから、社員一人ひとりに浸透しなければただの飾りになってしまいます。

ベクトルの異なる事業を扱う中で、全社的なビジョンをどう描いていくかは、DX推進の上の一つの課題です。

ニッチな業態だからこそ、人材は社内で育成

DX推進のために専門部署を設置する企業も少なくありません。そうした、「DX推進部」のようなものを設置されるご予定はありますか?

人的リソースから考えて難しいですね。それを作ろうとすると、各部門からパフォーマンスが非常に高いエース級の人材を集めなければならない。すると今度は、エースの抜けた穴をどう埋めるか、という問題が出てきます。既存部門の成長を保ちつつ、新設のDX部署を走らせるとなると、そのバランスが非常に難しい。当社ぐらいの規模感の企業さんの多くは、おそらく同じような悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。

人的リソースを埋めるための方法はどうお考えでしょうか?社内での育成、中途採用、アウトソースなどをどうバランスするのか、という課題もあります。

これは、内部向けか、外部向けかというDXの視点によって変わってきます。社内の業務効率化といった視点では、外部コンサルタントなどの第三者に交通整理してもらったほうがスムーズだと考えます。乱暴な言い方になりますが、手垢のついた人間が何人集まっても手垢は取れないでしょうから。

一方で、外部に向けたイノベーションの提供では、基本的には社内で育成する方針です。というのも、構造物の設計と解析、保全までを1社で担う企業というのは、当社以外にほとんどありません。土木とIT、それぞれの専門知識が必須ですから、コンサルタントの方もおそらく、強み、弱みといったヒアリングだけで相当な時間を費やすことになります。ですので、基本的には社内で育成しながら、必要に応じて専門スキルを持った人材を中途採用する。こうした方法が、当社のようなニッチな事業体ではベターなのかなと感じます。

御社は新卒採用にも積極的ですが、採用の際には土木とIT、どちらのスキルを優先されるのでしょうか?

どちらかというと土木の知識、スキルが優先です。なぜかというと、土木はやはり経験工学なのですね。構造物がどう作られていくのか、建てられた後どう変化していくのかというのは、見て触って体感しないと伝わらない部分が大きいのです。一方でITは、割と座学でカバーできますから、土木のスキルの上にITの知識を上乗せする方が、私の経験では育成のスピード感が速かった。

とはいえ、これはあくまでも一般論です。最近の学生はそもそもITリテラシーの水準が高いので、逆のパターンで入社して大活躍している人材もいます。

大切なのは結局、社会インフラを支えるというこの事業に、やりがいを感じてもらえるかどうか。当社は別に日本一の技術を持っているわけでもなく、絶妙な立ち位置にいることで社会に貢献できている企業です。そこに誇りやおもしろさを感じてもらえる人であれば、きっと活躍してくれると信じています。

社会インフラを「ゆりかごから墓場まで」ITでマネジメント

社員のやりがいは、企業の存在意義とも深く関わってきますよね。御社の存在意義を発揮するために、DXはどのような役割を果たすと思いますか?

先ほどもお話しした「絶妙な立ち位置」こそが、大きな存在意義の一つだと自負しています。構造物の設計、建築、解析の専門会社や、コンピュータシステムに長けた企業は数多くありますが、1つの思想の下にこれらを統合したサービスを提供できる会社はほとんどありません。まさに構造物を「ゆりかごから墓場まで」ITでサポートしているわけです。そのために、いっそうDXを進めなければなりません。

日本は1964年の東京オリンピック以降、長きにわたり箱物行政が続き、たくさんの道路や橋が作られてきました。その一方で、できた構造物の維持管理についてはおざなりになっていた。その結果、取り壊さざるを得ない橋も出てきました。

私たちは新しいコンクリート素材などを生み出すことはできませんが、そうした橋や道路を、ITの力を使って子や孫の世代に残すお手伝いはできます。社会インフラのライフプランをマネジメントできるのはおそらく当社しかいないというのが、大きな存在意義だと感じています。

社会的意義が大変大きな事業です。競合はいないのでしょうか?

たとえば当社の親会社であるNTTデータにも、抜きん出たIT技術者はたくさんいます。しかし、シビアな話をすると、そうした技術者を投入するほどこのマーケットが大きくないのです。同業の建設コンサルタント会社にとっても同様で、IT技術者を多数投入するコストに対して、マーケットのボリュームが小さすぎます。

実はこれまでにも、社会インフラに注目したいくつかのSIerが参入したことがありますが、ほとんどが2年ほどで撤退しました。事業が求める成長スピードと、顧客である自治体の反応にギャップがありすぎたためです。

自治体の土木セクションにアプローチをして仕事を増やしていくには、少なくとも3~5年はかかります。半世紀にわたってこの立ち位置にいた当社にとっては想定内のスピード感ですが、SIerが新規事業として取り組む場合、3~5年というのは経営側から見て待てないのだと思います。

当社のシステムが圧倒的に優れているとは思いませんが、社会インフラを「ゆりかごから墓場まで」ITでマネジメントするサービスは、ITと土木の端境に立ち続けたからこそ提供できるものです。そういう意味ではDXも、自社の強みやポジショニングをさらに高めるものになっています。

誰も真似できない事業体で社会に貢献されています。そうした意識は、社内にも浸透していますか?

そうですね。およそ60年かけて社会インフラに取り組んでまいりましたので、いつの間にか文化として染みついていった印象です。

私自身も、もともとは経営工学出身。土木もコンピュータも専門外というところから入社しましたが、橋を管理する自治体や建設コンサルタントの方々の想いに触れる中で、自然と会社の社会的意義を感じるようになりました。 「自分たちがやるしかない」という想いは、会社はもちろん、社員にとっての存在意義にもつながっています。


まとめ

  • JIPテクノサイエンスは当初、社会インフラの構造計算などを受託していたが、その後、そこで培ったノウハウをもとに社会インフラの設計・解析、保全といった総合的なコンサルティングサービスもスタート。ソフトウェア開発との2本柱で事業を拡大している。
  • 車にスマホを載せるだけで道路の凹凸やひび割れ、穴などを検知できる「路面調査システム」は、路面調査のコストを大幅に削減。道路補修の最適化を図り、浮いたコストは、橋やトンネルの保全といった第三者被害リスクが高いところに振り分けてもらえる。
  • いま進めている「橋梁の維持管理システム」は、橋の架設年から傷み具合、補修の時期や方法、補修コストなどといった橋梁のカルテともいえる情報を集約するシステムである。各自治体で共有できるプラットフォームとして、橋梁の維持管理の最適化をめざす。
  • 同社の顧客は新設が民間企業、維持管理が自治体。事業ごとに時間軸も目的もまったく異なるためDX推進に向けて一つのビジョンを掲げようとすると、抽象的になって社員一人ひとりに浸透しにくい。顧客向けのDXは部門ごとの課題として取り組んでいる。
  • DXの専門部署をつくるには、各部門からエース級の人材を集めなければならない。すると今度は、エースの抜けた穴をどう埋めるか、という問題が出てくる。既存部門の成長を保ちつつ、新設のDX部署を走らせるとなると、そのバランスが非常に難しい。
  • 新卒採用ではITより土木の知識を優先。土木の上にITの知識を上乗せする方が、育成のスピード感が速いからだ。とはいえ、あくまでも一般論。社会インフラを支える事業に誇りやおもしろさを感じてもらえる人であれば、きっと活躍してくれると信じている。
  • 社会インフラを「ゆりかごから墓場まで」ITでマネジメントする同社のサービスは、ITと土木の端境に立ち続けたからこそ提供できるサービスだ。そういう意味ではDXも、自社の強みやポジショニングをさらに強化するものになっている。

関連記事