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お客様のことを知り、より良い商品やサービスを提供するためにDXは必須【株式会社ローソン】

日本国内で1万4千店舗以上(2022年2月末時点)を展開するコンビニエンスストアチェーン、株式会社ローソン。1997年からマルチメディア端末Loppiの導入を開始し、2010年代に入るとAIによるセミオート発注、自動釣銭機付 POS レジを導入。2019年には電子決済に対応するセルフレジを導入するなど、ITを駆使した取り組みで業界を牽引してきた。2021年には、設立50周年に当たる2025年に向けて「ローソングループ Challenge 2025」を策定。組織変更をはじめとする改革に取り組んでいる。
現在、同社では様々な部門・部署が中心となって、DXを推進している。店舗や発注・物流のシステム構築・運用を担うITソリューション本部、IT部門と現場の橋渡しをする次世代CVS統括部、Web関連の業務と顧客データを活用した広告ビジネスを担当するマーケティング戦略本部デジタルマーケティング部、先端技術の研究を行うオープン・イノベーションセンターである。
DXによる変革と展望について、マーケティング戦略本部デジタルマーケティング部シニアマネジャーの小林敏郎さんにお話をうかがった。

ポイントカードで蓄積した会員データなどをAIで分析し、発注業務や販促に活用

デジタルマーケティング部では、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?

2022年3月の組織改革で、データ戦略部がデジタルマーケティング部に統合されたという経緯があり、扱っている業務は大きく分けて2つあります。1つは、アプリやホームページ、SNSの運営・管理といったWeb関連の業務。もう1つは、一般的にマネタイズといわれるもので、顧客データを活用した広告ビジネスです。

御社のDXの取り組みの中で、成果の上がっている具体的な事例をご紹介いただけませんか。

次世代CVS統括部が手がけて、対外的に打ち出しているものとしては、2015年から導入したAIによるセミオート発注があります。おにぎりやサラダ、サンドイッチなど、消費期限の短い商品は、発注量が多すぎて売れ残れば廃棄となり、逆に少なければ販売機会を失います。しかし、適正な数量を発注することが非常に難しく、そのために発注業務は経験値と手間と時間を要するものでした。その負担を軽減しながら、発注精度を高めるためAIを取り入れたのです。

まず、天候や気温、曜日、POSデータ、ポイントカードの会員データによる同立地の他店舗販売状況、本部の販売施策などをAIで解析し、直近3日間の平均販売数から販売予測数を算出します。そこに在庫予測数や店に置いておきたい安全在庫数を加味した発注推奨数を算出。最後に店舗の発注担当が、地域のイベントや学校の休日、競合店の出店・閉店など、近隣の状況を考慮して発注数を決めるという方法です。 このセミオート発注は、全店舗で導入されています。AI任せではなく人の力も介在していますが、1人当たりの作業時間は1日2時間削減されました。

DXの成果をもう一つ上げていただくとすれば、ほかにどんなものがありますか?

分析業務にBIツールを導入したことです。以前は、商品部など他部署から依頼を受けて、専門のツールを使ってデータを分析し、結果をその部署に返すというやり方でした。しかし、専門のツールを扱えるエキスパートは限られているので、分析結果を多く返せないというジレンマがありました。 そこで、グループ会社がTableauを基に開発したBIツールを現場に提供し、分析業務を移管したところ、POSシステムで取得したビッグデータがスピーディに集計・分析できるようになりました。現場の社員がいつでも分析結果をモニターで直接見ることができるため、結果、1年間に5万回閲覧される分析画面があらわれるなど、データ活用が活発になったといえます。データの分析を担当していたエキスパートが現場のあちこちにいるような状況をつくることができ、スピーディかつスムーズに必要な情報を得られるようになりました。

マネタイズのほうの顧客データを活用した広告ビジネスとは、具体的にどんなことをされているのですか?

メーカーから協賛をいただいて商品キャンペーンを行う際、以前はランダムに割引クーポンを発行していましたが、キャンペーンの対象商品を買いそうな人にターゲットを絞り、そのターゲットだけに割引クーポンを発行する取り組みを始めています。当然、ターゲットを絞ったほうが効果的です。ターゲットの絞り込みは、ポイントカードを通じて長年蓄積した購買データをAIに投入して抽出しています。メーカーの販促費用は限られているので、他のコンビニとの差別化を図り、協賛をいただくためのキャンペーン提案として活用しています。メーカーからも、ランダムにクーポンを撒くより効率がいいと高評価を得ています。 2022年3月からは、顧客の購買データや性別・年代・価値観をAIで分析し、個々人の価値観特徴に合わせたデザインとキャッチコピーによるレシート広告を発行するサービスをスタートしています。

どんなふうにして特定の方にだけ割引クーポンを発行するのですか?

商品Aを買った人がキャンペーン中の商品Bに興味を持ちそうであれば、レジでレシートを発行する際に、そのレシートに商品Bの割引クーポンを印字します。

ブランドの切り替えをねらって、Xというメーカーの商品を買った人に、Yというメーカーの類似商品の割引クーポンを出すこともあります。ただ、この施策はやみくもにやっても効果が出ないことがあります。なぜならブランド力のある商品の場合は、クーポンで一瞬他のブランドに切り替えても、すぐまた元のブランドに戻ってしまうことが多いからです。そういうこともデータ分析からわかっています。ですから他のブランドに切り替えて定着しそうな方をデータから見つけてその方にだけクーポンを発行したり、そのブランドが好きな方に、同じブランドの新商品をお勧めするといった工夫をしたほうが効果的な場合が多いです。メーカーさんにとっても我々にとってもメリットがあるので、そういった施策をご案内しています。

小売・卸売・流通業のみならず、社会的な課題となっている商品マスターの統一

DXを進めるうえで、大きな課題は何でしょうか?

商品マスターが統一されていないことです。これは当社の課題であると同時に、日本の小売・卸売・流通業のすべてが直面している課題でもあります。

商品マスターとは、自社で扱っている商品を分類し、管理するために用いられている商品コードです。商品のコード体系としては、国際標準であるJANコードがあり、これで統一できればいいのですが、実際にはほとんどの企業が自社のコードとJANコードを組み合わせた独自の商品マスターを使用しています。 その結果、ある商品を複数のコンビニに置く場合、メーカーはコンビニごとに異なる商品マスターを用意しなければならないという事態が生じています。商品マスターの登録作業はほとんど手作業で、ちょっとずつ異なるコードをパンチャーが入力していくので、非常に非効率でメーカーにとっては大きな負担になっています。非効率なために無駄なコストが生じて、まわりまわって消費者に転嫁されたり、物流スピードの低下につながったり、目当ての商品が見つけづらくなったりしています。

JANコードはメーカー、小売りを問わず、日本全国共通で市販商品のほとんどに活用されているので、これに統一することはできないのでしょうか?

全国で販売されている商品なら、JANコードに統一することは可能でしょう。たとえば、ローソンで売っているコカ・コーラを他のコンビニに持っていって、バーコードをスキャンしたら通ります。しかし、各社のオリジナル商品にはインストアコードという、その会社だけで通用するJANコードが付けられています。当社のオリジナル商品の「からあげクン」やおにぎりのJANコードは、ローソンでしか通用しないコードなんです。

コンビニ各社の商品マスター自体は分析をする目的でつくられていないため、AI に学習させるためのデータとしても使えません。もし、商品マスターが統一されていれば、いろんなメーカーのあらゆる商品のなかから、個人の嗜好に合った商品をAI が選んでお勧めすることができるかもしれません。そう考えると、商品マスターが統一されていないことは、消費者の選択肢を狭めていることにもなります。

統一に向けての動きもあると聞きますが、今のところ、あまり進展は見られないようです。受発注や物流にも関わっているので、統一するとなると、既存の仕組みを全部変える必要があり、容易に解決できない問題です。

DXに必要なのは、課題に気づくところから解決方法までのステップをつなげられる人

DXを推進するためには、どんな人材が必要だと思われますか?

何のためにITやAIを使うかを考えられる人材だと思います。技術的な専門家は社外に頼ればいいので、社内で育成する必要はないでしょう。「デジタル」より「トランスフォーメーション」を考えることが大事なのです。 DXによる仕組みづくりは、従来のやり方について「これはおかしいんじゃないか?」「これは無駄ではないのか?」と疑問を感じるところから始まります。次に、「どこをどう変えたら、革新できるだろうか」と改善点を考え、「そのためにはどんな技術や方法があればいいのだろう」とITやAIを使った解決方法を見出すところまでをつなげなければなりません。しかし、とっかかりのところで、課題を課題と思わない人が意外と多いのです。また疑問を抱いても、その先に考えを進められない人も結構います。一つひとつのステップを部分的にクリアできる人はいますが、すべてのステップをつなげて、最後に解決方法を導きだすところまで到達できる人は少数です。そういう人がいれば、DXは飛躍的に進むでしょう。

従来のやり方の課題に気づくことができるようになるためには、どうしたらよいと思われますか?

違う環境に身をおくことが、課題に気づくきっかけの一つだと思います。たとえば転職して、新しい会社で前の会社と違うやり方で物事を進めていたら、いろいろと気づくことがあるでしょう。ほかの文化、ほかの視点から自分の会社の仕事を見ることによって、新しい発見が生まれます。大企業は分業が進んでいるので、各部門の仕事を「そういうものだ」とルーティンな意識でやっていることが多いと思います。ですので、ジョブローテーションで部門を異動させるとか、グループ企業に出向させるなどして、環境を変えてみるのもいいのではないでしょうか。

IT導入やDX推進の成果は、どんな指標で評価されていらっしゃいますか?

もともと当社には、IT導入やDX推進に限らず、投資する際には費用対効果などを具体的に算出して提出するルールがあります。先ほどお話ししたセミオート発注であれば、店の人件費がどれだけ減らせるかとか、発注精度の向上によってどれだけの売上アップが見込めるかといった数値をあげて申請します。こうして事前に立てた目標の数値をクリアできたかどうかが評価指標となります。

新たな試みについては、どれだけの費用対効果が得られるか、やってみないとわからない場合もあるのではないでしょうか?

そうですね。そこで、あまり費用対効果に縛られず活動できるよう、2017年5月にオープン・イノベーションセンターを設立しました。国内外スタートアップやITベンダから提案される最先端技術を研究し、企業や省庁と連携しながら実験・検証する場となっています。実用性がありそうだと判断した最新技術は、実店舗を模したラボでの検証、実店舗での実験という段階を踏んで、店舗への実装へと展開していきます。これまでにウォークスルー決済システム、リアルタイム在庫管理システム、生体認証によるレジ無し店舗システムなどが、実店舗での実験に至っています。

DXは、お客様を理解し、支持される店になるための手段

最近、「パーパス経営」という言葉をよく耳にしますが、自社の存在意義を発揮するために、御社ではDXをどのように位置づけられていますか?

当社の社会的役割は、より良い商品やサービスを提供することです。現在、当社では設立50周年に向けて策定した「ローソングループ Challenge 2025」への取り組みをスタートさせています。そのなかでも、DXの推進は大きな柱となっています。この改革の目標は「お客さま・社会・仲間からのレコメンドNo.1」、つまりお客様にもっとも支持される店になることです。支持を得るためには、お客様を理解しなければなりません。DXは、そのための手段です。先ほどお話ししたBIツールによる分析データなども、お客様を理解するために活用するものです。

コンビニのサービスはどんどん広がり、扱う業務は増える一方です。DXを進めて機械にできることは機械に任せ、お客様のことを考える時間をもっと捻出しなければならないと考えています。

「レコメンドNo.1」の店舗になるためには、顧客一人ひとりの嗜好を理解するだけでなく、地域性も大切になってきそうですね。

当社はいま、地域のニーズに応えて、身近に感じていただけるよう努力しています。以前より、各地域の有名飲食店に監修いただいた様々なコラボ商品を発売していますが、コロナ拡大以降、外食を控える方が増えた事などから、自宅にいながら地元有名店の味を楽しんでいただきたいと、さらにコラボを強化し、各地のお客様に大変喜んでいただきました。

その他にも、個店のニーズに合わせて「地元野菜」や「カー用品」、「釣り具」など、通常のコンビニにはあまり並んでいない商品を販売するなど、各地域の日常生活に入り込む取り組みなども行っています。 今期は「地域密着×個客・個店主義」を戦略コンセプトに掲げました。その実現に向けて、よりスピード感を持って動いていくため北海道と近畿地区でエリアカンパニー制を先行導入しました。既存組織から独立した部門として、エリアの特性を把握し、お客様・マチの変化に素早く対応して地域密着を目指していきます。


まとめ

  • ローソンでは、ITソリューション本部、次世代CVS統括部、マーケティング戦略本部デジタルマーケティング部、オープン・イノベーションセンターという様々な部門・部署を中心にDXを推進している。
  • 従来、コンビニの発注業務は経験値と手間と時間を要していたが、2015年からAIを使ったセミオート発注を導入。AIによる販売予測をもとに、最終的な発注数を決める方法を採り入れ、発注精度を向上すると同時に、店舗業務の負荷を軽減することに成功した。
  • 分析業務には、グループ会社が開発したBIツールを導入。POSシステムで取得したビッグデータを、エキスパートが専門のツールを使って分析しなくても、分析を必要としている現場でスピーディかつスムーズに分析できるようになった。
  • 商品キャンペーンを行う際、AIを使って購買データから対象商品に興味を持ちそうな人を抽出し、特定の人にだけ割引クーポンを発行。2022年3月からは、AIを使って、個々人の価値観特徴に合わせたレシート広告を発行するサービスを開始した。
  • DXを進めるうえで、大きな課題となっているのは、商品マスターの統一。小売・卸売・流通業のみならず、消費者にも影響を及ぼす社会的課題だが、統一すると受発注や物流に関するすべての仕組みを変更しなければならなくなるため、容易には解決できない。
  • DXを推進するために必要なのは、何のためにITやAIを使うかを考えられる人材。従来のやり方の課題に気づき、改善点を考え、ITやAIを使った解決方法を見出すまでの各ステップをつなげられる人が求められている。
  • 「ローソングループ Challenge 2025」に基づく取り組みのなかでも、DXの推進は大きな柱だ。ビッグデータの分析によりお客様のことを知り、また、DXを進めて機械にできることは機械に任せ、お客様のことを考える時間をもっと捻出しなければならない。

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