DX関連

DXに関連する様々な情報を
掲載しています

  1. HOME
  2. ブログ
  3. DX事例
  4. 基幹システムの機能を サブシステムに切り出し、着実に効率化を推進【たねやグループ】

基幹システムの機能を サブシステムに切り出し、着実に効率化を推進【たねやグループ】

たねやグループは、老舗和菓子舗「たねや」と洋菓子店「クラブハリエ」で和洋菓子を製造・販売するほか、農業部門「キャンディーファーム」での和洋菓子の原材料となる農産物の生産や、たねやグループのフラッグシップ店「ラ コリーナ近江八幡」の運営など、多岐にわたる事業を展開している。
 滋賀県近江八幡市に和菓子店として創業したのが1872年。1984年には県外の百貨店出店1号となる日本橋三越店をオープン。以来、百貨店をはじめ全国各地に店舗を構えている。1995年に独立した洋菓子部門「クラブハリエ」のバームクーヘンは、開店前から長蛇の列をなす人気商品として話題を呼んだ。2015年1月には近江八幡市北之庄町に「ラ コリーナ近江八幡」をオープンした。
 1990年代半ばには、基幹システムの導入、ホームページ開設、オンラインショップ開設など、積極的にIT化を推進。近年、全社的な取り組みとして、中枢を担う基幹システムの見直しを行った。創業150年を迎え、約1800人の従業員を擁するグループ企業となった今、DXの推進を含め、どのような未来のビジョンを描いているのか、管理本部の堀勝之本部長にお話をうかがった。

古くなった基幹システムを見直すために、システム構築委員会を発足

一般的にITが発展・普及したのは、1990年代半ば〜2000年代初頭といわれていますが、御社ではかなり早期にホームページやオンラインショップを開設されていますね。

はい。現会長である山本德次前社長がIT 化に積極的で、1993年に基幹システムとしてIBMのAS/400を導入しています。1996年にホームページを立ち上げて、通信販売についても、当初は電話がメインでしたが、1999年にオンラインショップを開設し、Web受注が可能になりました。今では、通販事業部は当社の中核をなす部署に成長しています。

ここ数年、基幹システムの見直しに取り組んでこられたとのこと。その経緯をお話しください。

基幹システムは長年にわたってグループ全体の基幹業務すべてを処理してきましたが、業務の変化に対応できず、手間がかえって増えていたり、時代の要請に合わせて必要な機能を追加・変更したくてもできない状態となっていました。この状態を解消するために、様々な機能を基幹システムから切り出してサブシステムに移すことにしたのです。2014年に各部門から13名のメンバーを招集してシステム構築委員会を立ち上げ、プロジェクトが始動しました。

新しいシステムを一から導入するのではなく、AS/400を中心にしてサブシステムを組み合わせたのですか?

はい。たとえば、勤怠管理を基幹システムからはずし、サブシステムで動かせるようにして、必要に応じて基幹システムに残した従業員のマスターデータを参照するといった形です。各部門の課題、サブシステムに入れるツール、コストなどを検討して、優先順位を決め、勤怠管理のほか、生産管理、在庫管理、給与計算、出荷、通信販売、社員のデータベースなどをサブシステムに移行していきました。入退室管理は社員証に埋め込まれたICチップでできるようにしました。またBIツールも、以前使用していた製品のサービス終了を機に、新しく入れ替えました。現在はひと段落していて、システム構築委員会はいったん解散しましたが、新たに課題が出てくればその都度、プロジェクトを立ち上げて対応することにしています。

基幹システムの見直しに関するプロジェクトは無事完了したのですね。

はい。しかし、今も核を担うAS/400の後継機で使われているプログラミング言語はマイナーになりつつあって、その言語を使える人材が少なくなっている点を懸念しています。将来的には、基幹システム自体を一新しなければいけないでしょう。

PマークやHACCPの導入によって増えた間接業務の効率化が課題

サブシステムを導入したことにより、仕事の仕方や効率はどう変わりましたか?

かつてはどんぶり勘定だった在庫が正確に把握できるようになり、帳票類の集計作業もスピードアップしました。勤怠管理については、日別や人別など様々な切り口で勤怠の承認ができるようになり、残業時間の集計や有休の取得状況など働き方改革へのチェックもしやすくなりました。紙の行き来も大分減りました。ただ、効率という面では、期待したほど上がっていないように感じています。

思ったほど効率が上がらなかった理由については、どう考えておられますか?

新しく導入した仕組みによって、現場の間接作業が増えていることが一因となっています。その一つがPマークです。複数の百貨店と伝票のやりとりをする上で、個人情報の取り扱いがきちんとできていることを対外的にも示す必要があり、取得を進めました。

Pマークのほかにも、2020年6月以降、食品製造工程の衛生管理のためのガイドラインであるHACCPが義務化され、その関係の作業も増えました。基幹システムの見直しによって業務負担が減り、全体的に効率は上がったのですが、現場ではその分、新たな間接業務が増えて、負担に感じているようです。しかし、PマークにしてもHACCPにしても、恩恵が実感しにくいかもしれませんが、トラブルを未然に防ぐ効果は確実にあると思います。

通販事業も約30億円の規模になり、個人情報のセキュリティは今後いっそう重要になってくるでしょう。こうした仕組みやガイドラインを遵守することは、世の中の流れとして避けられないことですので、それに伴う間接作業の効率化が今後の課題といえます。当社で行ってきたIT化推進の取り組みは、DXと呼べる域にはまだ達していないのかもしれませんが、一歩一歩着実に進めていくしかないですね。

ほかにもIT化の対象となっていることは、ありますか?

FAXを完全になくすよう山本昌仁社長に厳命されており、ペーパーレスが課題となっています。Pマーク導入により、帳票を送る際の手間とコストがかさんでいるという事情もありますが、環境保全の観点もあり、帳票類を電子化してやりとりできるよう取り組みを進めています。

新しいデジタルツールやシステムの導入は、現場を知る担当部長が決裁

IT化やDXについては、どちらの部署が担当されているのでしょうか?

基幹システムの運営・管理や、基幹システムとサブシステムの連携などは、デジタル室の4人が担当しています。一方、新しいデジタルツールや情報システムは、現場の業務に精通した担当部長の決裁で導入されることがあります。たとえば、勤怠管理システムは、どの部分を効率化するべきか、そのためにどんなツールを入れたらよいか、総務人事部で話し合い、部長が決めました。担当部長がシステムに明るい場合はいいのですが、システムに疎い場合はあまり効果が上がらないこともあります。当社の総務人事部長はシステム畑出身なので、ITに詳しく、紙に印刷して部署ごとに配布していた給与明細や給与通知書、源泉徴収票をすべて電子化し、現在は各自のスマホに届くようになりました。

オンラインショップやホームページ、SNSの運営は、どの部署が担当されているのですか?

オンラインショップの運営は通販事業部のスタッフ6名が担当し、ホームページは広報スタッフ7名が更新しています。SNSについては、Facebook、Instagram、Twitter、YouTubeの日常的な発信は広報室が担当し、ライブ配信はファンづくりに主眼をおいて、山本隆夫社長主導で行っています。当社の企業理念やめざすところ、環境への取り組みをお伝えし、ご理解いただくために、SNSやテレビなどを積極的に活用し、広報活動に力を入れています。

システムの導入も、オンラインショップやホームページなどの運営も、現場主導なんですね。

ITに長けていても、事業のことをわかっていなければ、「絵に描いた餅」になりかねないからです。とはいえ、今後、製造現場にどういうシステムを入れたら無人化・省人化できるかといったことになると、畑違いの現場スタッフには荷が重いだろうと思います。現場のことをわかったIT人材を育成、もしくは採用して、IT人材を増員することが当社の大きな課題になっています。 製造現場には、いまも1個作るのに人手がかかって、それを人が運んで箱詰めして……といった昔ながらの工程がまだまだ残っています。新しい発想で変わっていかなければ、将来的な人口減少に対応していけないだろうと危惧しています。デジタル室の人員増強も検討中ですが、新たに採用するならIT分野に精通しているだけではなく、当社の菓子製造事業の課題なども解決・提案できる人材を求めています。

表舞台では温もりや安らぎをゆったりと感じていただき、舞台裏でIT化・DXを推進

御社の今後のビジョンについてお聞かせください。

創業150年を迎え、この先50年、100年と歩みを進めていくためには、自然に学び、自然に訊く姿勢が大切だと考えています。当社の理念やめざすところを体現しているのが、2015年、近江八幡市北之庄町に誕生した「ラ コリーナ近江八幡」です。目の前に臨む八幡山と、ラムサール条約にも登録されている西の湖(にしのこ)という湿地に囲まれた自然豊かなエリアに位置し、3万6000坪の敷地がまわりの自然と一体化するように、森づくりから手がけました。本社社屋、たねや・クラブハリエのメインショップ、フードコートやギフトショップで構成されるフラッグシップ店です。和洋菓子とともに四季折々の自然を楽しんでいただける、都心の商業施設とは一味も二味も違う空間として、多くの方にご来場いただいています。

たねやグループの農業部門「キャンディーファーム」では、稲作や樹木の植栽、山野草などを育てて各店舗に送り込みをしています。「ラ コリーナ近江八幡」の敷地の中央で田んぼをしているのも、お菓子の原材料であるお米はどのように育てるのか、農家さんの苦労を知り一粒のお米を大切にする気持ちを社員に伝えたい。懐かしい原風景をお客様に見ていただきたいという思いがあります。集客や利益を重視するなら、田んぼではなく店舗にするところでしょうが、店舗などの施設は田んぼを囲む形で配置されています。

今後は、人と自然の「いのち」の在り方を発信する場としていっそう充実させていきたいと構想を練っています。

自然との共生というコンセプトの中で、ITやDXをどのように位置付けていらっしゃいますか?

ITやDXは効率化や利便性を高めるためのものですが、お客様は合理性一辺倒のところには、温もりや安らぎ、豊かさを感じていただけません。そこで「ラ コリーナ近江八幡」は都心のショッピングセンターのように快適な造りにせず、雨が降れば濡れるし、風が吹けば寒いといった不便さをあえて残しています。立地も便利なところではありませんが、多くのお客様に足を運んでいただき、全国各地からいらっしゃる来場者数は年間300万人以上にのぼります。 ですので、お客様に見える表向きのところは、あえて非効率・非合理な部分を残し、非日常的な豊かさをゆったりと感じていただけるようにしています。けれど製造工程やバックヤードなどは、将来的な人口減少を見据えて、少ない人数でも回していけるように効率をあげていかなければなりません。そのために、舞台裏ではIT化やDXをどんどん進めていく必要があると考えています。


まとめ

  • 創業150年を迎えるたねやグループは、和菓子舗「たねや」と洋菓子店「クラブハリエ」で和洋菓子を製造・販売するほか、和洋菓子の原材料になる農産物の生産や、フラッグシップ店「ラ コリーナ近江八幡」の運営など、多岐にわたる事業を展開している。
  • 1993年に基幹システムとしてIBM AS/400を導入。以降、後継機を運用してきたが、基幹業務すべてを処理するには非常に重たくなってきたため、基幹システムの見直しを決定。2014年頃にシステム構築委員会を発足し、プロジェクトを始動した。
  • 基幹システムの見直しは複数の機能をサブシステムに移し、基幹システムのマスターデータにアクセスする形をとった。移行したのは勤怠管理、生産管理、在庫管理、給与計算、出荷、通信販売、社員のデータベースなど。優先順位を決めて徐々に移行を進めた。
  • 基幹システムの運営・管理、基幹システムとサブシステムの連携などを担当するのは、デジタル室。新しいデジタルツールや情報システムは、現場の業務に精通した担当部長の決裁で導入されることがある。
  • サブシステムへの移行により効率が上がる一方、PマークやHACCPなど新たな間接業務が増え、現場では効率化が十分に実感できていない。世の中の流れとして個人情報の保護や衛生管理などは当然、重視しなければならず、間接業務の効率化が今後の課題だ。
  • オンラインショップの運営は通販事業部のスタッフ6名が担当し、ホームページは広報スタッフ7名が更新。企業理念や環境への取り組みを広く知らしめるために、SNSやテレビなども積極的に活用し、広報活動に力を入れている。
  • 「ラ コリーナ近江八幡」では、和洋菓子のメインショップ、フードコート、ギフトショップのほか、自社農園ではコメづくりや山野草栽培も行っている。和洋菓子などを味わいながら、自然を楽しむ場として、年間来場者数は300万人を超える。
  • お客様は合理性一辺倒のところには、温もりや安らぎ、豊かさを感じていただけないので、「ラ コリーナ近江八幡」にはあえて不便さを残している。その一方で、舞台裏では、IT化・DXを推進し、将来の人口減少に備えて効率化を図っていかなければならない。

関連記事