DX推進に必要なものは、広い視野と常識にとらわれない発想【BCC株式会社】
大阪市に本社を置くBCC株式会社は、現在、IT営業アウトソーシング事業とヘルスケアビジネス事業の2本柱で事業を展開。IT営業アウトソーシング事業はさらに、大手IT企業の代理店をするソリューション事業と、大手IT企業に営業社員を派遣する営業アウトソーシング事業から構成され、一方のヘルスケアビジネス事業は、ウェブサイト「介護レク広場」の運営などを手がける介護レクリエーション事業と、介護ロボットなどの開発支援をするヘルスケア支援事業から構成される。
同社は2002年の創業時にソリューション事業からスタートしたが、2005年より現在の主力事業である営業アウトソーシング事業に本格的に乗り出した。NECやIIJといった大手IT企業に、ITの知識が豊富でコミュニケーション能力の高い営業社員を派遣し、営業支援サービスを提供する。現在23社に120名以上の社員を派遣する。
続いて2012年にスマイル・プラス株式会社と資本提携を結び、ヘルスケアビジネス事業をスタート。介護レクリエーション事業では「介護レク広場」で塗り絵や計算問題といった高齢者向けのレクリエーションコンテンツの無償提供をはじめ、自社で創設したレクリエーション介護士という民間資格制度の運営を行う。近年、「介護レク広場」の会員5万人と、レクリエーション介護士の資格保持者3万人の合計8万人のネットワークで、ヘルスケア支援事業を開始。介護業界に参入する大手IT企業と、ITの素地が脆弱な介護業界との橋渡し役として、介護ロボットやヘルスケアIoTデバイスなどの開発、導入支援を行っている。
それぞれの事業におけるDX推進の取り組みについて、伊藤一彦代表取締役社長にお伺いした。
目次
大手IT企業への営業社員派遣から介護現場のIT支援まで、多様な事業を展開
御社は多様な事業を展開されていますが、それぞれの事業内容について、具体的にお聞かせいただけませんか。
創業当時から行っているソリューション事業は、中小企業向けにインターネットサービスをはじめセキュリティ、VPNやネットワークソリューションなどの提案を行い、ひいてはDXの推進をめざしています。ご成約によって、NTTやIIJから手数料をいただく代理店事業です。
この事業は、2005年に立ち上げた営業アウトソーシング事業と密接に関係します。採用した社員は最初、代理店事業で営業経験を積み、ITの知識を身につけ、コミュニケーションスキルを高めた後にNECやIIJといった大手IT企業に派遣され、各社の名刺を持って営業社員として活動します。またNECのDX専門部署へも、当社社員を派遣しています。 現在、多くのIT企業では人手が不足しています。エンジニアもさることながら、営業社員も不足しているのですが、IT営業を派遣する会社は当社以外にほとんどないので、おかげさまで業績は順調に伸びています。
ヘルスケアビジネス事業ではいかがでしょうか。
当社のヘルスケアビジネス事業の始まりは、2012年の、スマイル・プラスというデザイン会社とのM&Aでした。スマイル・プラスは「介護レク広場」というウェブサイトを運営し、プロのデザイナーが制作したクオリティの高い塗り絵や計算問題などのコンテンツ、約3千点を無料でダウンロードできるサービスを行っていたのです。高齢者のレクリエーションのツールにちょうど良いと、そのウェブサイトに注目したのが介護職員の方々でした。M&Aをした当時すでに1万人の会員数を誇っていましたが、その後も口コミと検索エンジンで会員数は増え続け、現在5万人です。そのうち、8割以上が介護関係者です。
介護業界は全体的にIT化が遅れており、まだDX導入の環境は整っていません。ネットワークやセキュリティが脆弱で、例えば介護ロボットの実証実験でもネットワークがつながらない場所が多く、ロボットが停止するケースもよくあります。DXを進めるべき業界ですが、まだその前段階の、ネットワークの敷設やセキュリティの確立で留まっているのが現状です。
そういう状況で何か新しい取り組みは始まっていますか?
現在、NTTと吉本興業とで進めているのが、オンラインでのレクリエーションです。昨年は、吉本興業所属のビッグタレントを始めとする、お笑い芸人によるレクリエーションイベントを、1700もの介護施設とオンラインでつなぎ配信しました。一方通行で配信するだけでなく、一部施設とは双方向でコミュニケーションが取れるようにした、ネットとリアルを融合したイベントです。一施設ではとても呼べないビッグタレントでも、参加施設が費用を分担することで、安価な費用で高い質の笑いをお届けできます。テレビに出ているタレントとやり取りができて、施設入居者にはとても喜んでいただけます。
オンラインイベントで始まったヘルスケアビジネス事業のDXは今後、どのような方向に進んでいくでしょうか?
介護現場におけるオンラインの活用は、今後、ますます重要になります。当社のヘルスケアビジネス事業が想定する将来イメージは、高齢者の個人データが介護や医療の垣根を越えて共有できる世界です。
現在は、アクティブシニアの方が診察を受けても、結果は知らされますが、その人自身の情報であるのに、本人は電子カルテにアクセスできません。また、その方が後に、介護施設に入所された場合でも、施設からその方の電子カルテにアクセスできません。本来、医師や看護師、介護士が、健康状態や病歴、投薬などの個人の医療データに必要に応じてアクセスできれば、適切な治療やリハビリが可能になり、健康長寿にもつながるはずです。
ただ、当社だけでは実現できる世界ではありませんし、当社はメーカーではないので、ソリューションを開発することはあまり考えていません。それよりも介護現場に伴走する企業として、いまと同じようにベンダやメーカーの開発支援、導入支援を続けていきたいと考えています。
DXの時代に必要な人材は、ジャンルをまたいだ幅広い知識
創業された20年前からこれまでの間、ITの目的が「効率化」や「生産性向上」から「トランスフォーメーション(変革)」へ比重が移ったのは、いつ頃でしょうか。
当社の場合は2019年頃からです。介護現場の問題を「効率化」だけで解決するのは無理だと気づいたからです。しかも、介護現場だけで解決するのも限界があり、医療との連携やアクティブシニアの方々の協力が必要であることにも気づきました。ちょうどその頃から世間ではDXが言われ始めたこともあり、まさに介護現場にこそ、領域を超えたDXが大事だとの考えに至りました。そして、手前味噌で恐縮ですが、それを推進していけるのは当社であると自覚しました。そのときからヘルスケアDXを事業の柱に置いて取り組み始めています。
また、その翌年から流行した新型コロナウイルスの影響でリモートワークが進み、お客様からDX推進についてのご相談が増えたのも大きなきっかけでした。
求める人材も変化したと思います。DXを進めるには、どのような人材が求められるのでしょうか。
幅広い知識を持つ人材ですね。以前なら例えば、業務システムなら業務システムだけ、ネットワークならネットワークだけ、セキュリティならセキュリティだけという具合に、一つの分野で突出した能力を求められました。しかし、今は業務システムもネットワークもセキュリティもすべてを理解しておかなければ、DXの相談に応じられません。
別の側面からも広い知識が必要とされます。例えば、コンビニエンスストアを顧客に持つ担当者は、昔ならコンビニエンスストアの課題だけを把握していればよかったのですが、今はサプライチェーン全体や消費者のことも把握しておく必要があります。先ほどの話でいくと、介護現場のことを知っているだけではだめで、アクティブシニアの動向や医療との連携も視野に入れなければなりません。
つまり、技術面でもマーケットという点でも幅広い知識が求められるようになりました。
先入観にとらわれず、広い視野に立った発想の転換も重要
知識を増やすというよりも、広い視野が必要だといった印象を受けますが、いかがでしょうか。
確かにそうですね。視野が広がると、新しい発想が生まれます。DXに本当に必要なのは、発想の転換だと思います。
例えば、小売業を営んでいれば、在庫管理システムを構築・運営していて当然ですが、それに対して「本当に在庫管理システムはいるの?」という発想です。私は長年、IT業界で働いているので思いもつきませんが、最近当社で採用したIT業界未経験の新人は平気でそんな質問を投げてきます。卸売会社で在庫管理しているデータを小売の側でも使わせてもらえるなら、小売の側で在庫管理する必要はないという発想です。もちろん、そのようなデータ共有がすぐに実現するとは思えません。でも、DXはこういう斬新な発想から生まれるのだと思います。
在庫管理の話には続きがあります。どこの会社も実在庫数とシステム上のデータにずれが生じるのはよくあることで、定期的な棚卸の際に、ずれの原因を調査して在庫数を合わせる作業をしています。けっこう時間のかかる作業ですが、ここでまた「そもそも合わす必要はあるの?」という質問が出たのです。どっちみち商品が傷んだり売れなくなったりすれば処分するのだから、データの世界で完結していれば、数合わせの無駄な時間も省略できるという発想です。昔の人間が聞いたらひっくり返りそうな話ですが、DXに必要なのは、こうした発想ができる人材ではないでしょうか。
非常に面白い話ですね。ところで、先ほど「当社で採用したIT業界未経験の新人」とおっしゃいましたが、御社はIT業界未経験者も採用されているのですか?
もともとIT業界未経験者を積極的に採用していたほうですが、今は8割近くが未経験者です。しかも、派遣している人員は120名以上いますが、そのうち8割以上が20代・30代の女性です。前職は飲食店でのアルバイトやアパレルショップの店長など多種多様です。当然入社時はITの知識はほぼゼロで、スマートフォンばかりでパソコンすら触ったことのない人が大半です。そのため、ITに対する先入観がまったくありません。
しかも、創業した20年前には想像できませんでしたが、大手IT企業もベテランでなくても受け入れていただけるようになりました。むしろ、若い人材のほうが大手IT企業やその先の顧客の評判は良いくらいです。大手IT企業も考え方が変わり、柔軟な発想をする人材を大切にするようになったのだと思います。
トランスフォーメーションはどれだけ過去のデータを分析しても生まれません。データ分析が重要であることは言うまでもありませんが、同じように重要なのは分析結果から新たな発想を生むことです。広い視野で考え、斬新な発想を生む人間がいなければDXは進まないと思います。IT業界の皆さんも薄々気づいているのではないでしょうか。
多様な事業のいずれにおいても重要な役割を果たすDX
DXを支援される立場から見て、ITをうまく取り込んで成果を上げている介護施設と、そうでない介護施設の違いはどこにあると思われますか。
現場で働く介護職員の理解と協力体制のある施設が成果をあげられていると思います。介護現場は小さなシステムであれ介護ロボットであれ、新たな仕組みを導入するには最初の一歩が本当に大変なのです。ですので、現場が導入に後ろ向きだと導入が進みません。だからといって、経営者一人が無理に推し進めるわけにもいきません。一般企業のように、トップダウンが利かないのが介護施設の特徴です。介護現場は今も人が集まりにくいので、職員が反発して辞められる事態にでもなれば、困るのは経営者だからです。 一方で、最初の一歩を乗り越えてくれる介護職員を数多く抱える施設は、新しいシステム導入もスムーズで、効率よく働ける環境にどんどん変わっています。
最近よく使われる言葉に「パーパス経営」があります。パーパス(目的)の実現をめざし、自社の存在意義を高めるために、DXはどのような役割が期待されるでしょうか。
当社は多角的に事業展開を行っているので、BCC株式会社全体として考えたときのパーパス(目的)と、各事業のパーパスが多少異なります。しかし、そのすべてにDXが関与しています。
BCC全体としては、社名の由来である「Business Creative Corporation」のとおり、お客様の声を聞いたうえで新たなビジネスの創出を目的としており、そのためにDXは欠かせません。
そのうえで、営業アウトソーシング事業はIT業界の営業の価値を高めることがパーパスです。そして、ITの営業社員のスキルを向上し、多種多様な営業社員を生み出して、営業の価値を高めることが、顧客のDXの推進につながっていくと思います。さらにヘルスケアビジネス事業では、大手IT企業が介護現場のDXを進めるためのソリューションを開発・導入する際に、当社の8万人のネットワークや現場で培ったノウハウがお役に立つものと考えています。 当社は多様な事業を展開していますが、いずれの事業もDXと深くかかわっており、当社が果たす役割は非常に大きいと自負しています。
まとめ
- BCCは2002年、大手IT企業の代理店事業からスタートし、2005年より大手IT企業に営業社員を派遣して営業支援サービスを提供する営業アウトソーシング事業に本格的に乗り出した。現在23社に120名以上の社員を派遣する。
- 2012年にスタートしたヘルスケアビジネス事業では、ウェブサイト「介護レク広場」での高齢者向けグッズの無償提供や、レクリエーション介護士という民間資格制度の運営、介護施設のIT化支援のほか、最近ではオンラインレクリエーションも始めた。
- さらに「介護レク広場」の会員5万人とレクリエーション介護士3万人のネットワークを使い、介護ロボットやヘルスケアIoTデバイスなどの開発・導入を支援。将来、高齢者の医療データが介護や医療で共有する世界が実現した暁にも、同様の支援を続けたい。
- ヘルスケアDXを取り組み始めたのは2019年頃。介護現場の問題を「効率化」だけで解決したり、介護現場だけで解決するのは限界があり、医療との連携やアクティブシニアの方々の協力が必要だ。介護現場にこそ、領域を超えたDXが大事である。
- DX推進には、技術面でもマーケットという点でも幅広い知識が求められる。さらに、ITに対する先入観にとらわれず、広い視野に立った発想の転換も重要。大手IT企業も柔軟な発想をする人材を大切にするように変わってきているようだ。
- BCC全体としては、お客様の声を聞いたうえで新たなビジネスの創出を目的としており、そのためにDXは欠かない。また、多様な事業のいずれもDXと深くかかわっており、当社がDX推進に果たす役割は非常に大きいと自負している。
※本レポートは、e-Kansaiレポート2022からの引用です。