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精密機械加工時の物理現象をデータでとらえて、新たな事業を展開【株式会社山本金属製作所】

大阪市平野区に本社を置く株式会社山本金属製作所は、工作機械部品、油圧機器部品等の精密機械加工事業を主軸に、加工ソリューション事業、ロボットSIer事業、切削加工とFSWに特化した高度技術者教育支援事業という4つの事業を展開している。
1965年の創業以来、半世紀にわたり精密加工技術を磨いてきたが、2000年代初頭、製品品質の安定化とノウハウの共有をめざして、加工時に発生する物理現象のデータを記録しはじめた。デジタル技術を駆使したデータの蓄積・分析により、これまで暗黙知とされてきた加工現象の“見える化”に成功。2012年には岡山に研究開発センターを設立。これを機に、製造現場の様々な問題解決サポートや、ロボット導入・システム開発、次代へ技能を伝承するための教育事業を展開していった。
4つの事業を組み合わせた「LASプロジェクト」などの取り組みにより、経済産業省「DXセレクション2022」グランプリを受賞。機械加工業界にイノベーションを起こすことをミッションとして掲げ、精力的にDXを推進する同社の取り組みについて、デジタル推進室長の山内貴行氏にお話をうかがった。

職人の経験と勘が頼りだった技術を、データの収集・分析により“見える化”

Q:DXへの取り組みを始めた時期ときっかけをお教えください。

2006年頃、加工技術に関するデータを記録するために、デジタル技術を活用しはじめたのがきっかけです。当時は、同業他社との競争の中で、付加価値の高い仕事をして差別化することが課題となっていました。一般的な加工のプロセスは、受注した部品の図面や材料の種類、精度や面粗度などの要求仕様をもとに、機械や加工方法を選定し、工程分割を行い、必要な治具をつくって作業を進めていくというものです。
しかし、製品の出来栄えについては、職人の腕次第というところが多分にありました。というのも、工具が摩耗する時期や、マシニングセンターの適切な加工条件などは、熟練工が切り屑の色や形を見たり、加工音を聞いたり、過去の経験と勘とに基づいて判断していたからです。同業他社との競争に打ち勝つためには、製品品質の安定化を図り、社内でノウハウを共有する必要があると考えました。そこで、加工時に発生する物理現象を素材や工程ごとに計測し、蓄積したデータを分析して最適な加工条件を導きだす取り組みをスタートさせました。

Q:デジタル技術を活用した改革を進めていくために必要な専門的な技術やノウハウは、どのように調達されたのでしょうか?

最初は、センサや計測機器を購入し、山本憲吾社長と技術開発グループのメンバーでデータを取りはじめました。しかし、試行錯誤の連続だったため、「アカデミアの助けを借りよう」ということになり、大学に協力を仰ぎました。そして2012年には、加工の物理現象のデータ化をはじめ、精密加工技術と計測評価技術の2つのコア技術の高度化に取組む施設として、岡山研究開発センターを設立しました。さらに、リアルタイムでデータを収集できるよう、IoTやネットワークの技術も必要となってきました。そこで、ネットワークや電子デバイスに詳しい技術者を採用して社内に専門部署を設けました。現在では計測機器などのデバイス製作やシステム開発に自社で取り組んでいます。大学とは今も共同研究を行っていますし、外部から人材を補ったり、ほかの企業と情報交換したりもします。

データ分析の取り組みをきっかけに、様々な事業が派生して、広く展開

Q:DX推進とともに、創業時から続く精密加工事業から一歩踏み出して、様々な事業を展開していかれましたが、その経緯をお聞かせください。

まず加工ソリューションについては、当時はどこも職人の経験と勘に頼っていたので、加工時にどんな現象が起こっているのか知りたいという要望がたくさんありました。たとえば、新しい材料が開発されたとき、硬さなどの物性はメーカーが調べますが、加工しやすいかどうか、あるいは出来栄えはどうなのかといったところは、加工してデータを取らなければわかりません。新しい工具についても同様です。
そこで、当社の計測技術によるデータ化や品質評価を試験サービスとして提供しはじめました。そこから加工方法などのアドバイスも行うようになり、現在では、工具の持ちが悪いとか、生産効率を上げたいといった機械加工事業者の悩みにも広くお応えしています。改善に必要なデータの取得・解析、素材や工程ごとの加工現象と製品品質が紐づいたモデルの作成などを提案して、問題解決に導きます。

Q:ロボットSIer事業については、どのように始まったのでしょうか?

機械加工の現場にはたくさんの工程があり、単純作業も少なくありません。データ化が進むにつれて、どの部分はロボットに任せて自動化できるのか、明確になってきました。そこで、材料の供給、加工後の材料の搬出、パレットへの搭載、必要に応じて検査、バリ取り、洗浄など、機械加工の周辺に特化した自動化を進めています。社内で行っている取り組みを社外にも展開して、自動化に対応した生産ラインを構築するサポートをするうちにビジネスにつながってきました。

Q:切削加工とFSWに特化した高度技術者教育支援事業については、どのような経緯で始まったのですか?

いくら自動化が進んでも、技術者はなくてはならないものなので、熟練技術者の技術もしっかり育てる必要があると考えています。ただ、これまでのように見様見真似で覚えるのでは、時間もかかるし質も安定しません。そこで、デジタル技術を使ってもっと効果的に人の技量を上げていく教育サービスを行っています。
たとえば摩擦撹拌接合という技術については、温度管理が非常に重要なのですが、当社のようにデータに基づいてプロセスをコントロールする技術は他にないので、外部の技術者を受け入れてノウハウをお伝えしています。日本のものづくりに欠かせない加工の技術を伝承していくことも、当社のミッションであると考えています。

Q:「DXセレクション2022」の選考で評価された取り組みの一つである「LASプロジェクト」についてご説明ください。

精密機械加工事業、加工ソリューション事業、ロボットSIer事業、切削加工とFSWに特化した高度技術者教育支援事業という4事業を組み合わせたものです。機械加工を“見える化”し、最適な生産効率へ導き、データ活用によって工場の自律改善及び最終的にはものづくりの人材育成をめざす総合サービスを行っています。技能やノウハウの伝承と次世代の教育を指す「Learning」、加工条件の最適化や生産ラインの省人化・自動化を指す「Advanced」、生産ラインの立ち上げやシステムインテグレーション、課題解決を支援する「Support」の頭文字をとって、「LASプロジェクト」と名付けました。
自社だけの改革にとどまらず、それを外部に提供し、日本の機械加工のアップデートに貢献している点を評価していただき、「DXセレクション2022」のグランプリを受賞できたと思っています。

現場の人たちに「おもしろい」「なるほど」と興味をもってもらうことが重要

Q:DXを進めるための人材育成は、多くの企業で課題となっています。御社ではどのような教育をされていますか?

人材育成については、当社含め常に業界全体の課題であると強く受け止めています。顧客ニーズの多様化や生産人口低下という社会背景の中、日本が誇る現場の力をどのように次世代に引き継いでいくのかが、とても重要だと感じています。
これまで、当社は、DXを進めるための人材育成として、座学やワークショップ型研修だけでなく、当社自ら技術者育成教材の開発に取り組み、実践型研修や、産学連携による若手人材への教育機会創出にも取り組んでいます。
あとは、教育と呼べるかどうかはわかりませんが、何でも積極的に挑戦してみるという精神を大切にしています。最低限のブレーキは踏みますが、慎重になり過ぎていては何もできないので、その辺のバランス感覚が難しいところです。

Q:DXを進めるために大切なのは、どんなことだと思われますか?

現場の人たちに「おもしろいな」と興味をもってもらうことが、一つのポイントだと思います。加工現象を“見える化”する取り組みが始まった当初は、「データなんか見なくてもわかる」といった反応もありました。しかし、熟練技術者の勘がデータ上でも正しいと実証されると、それをきっかけに興味をもってもらえますから、しめたものです。勘で仕事を進めていた熟練技能者も、データを見ることによって「加工のとき、刃先ではこんな現象が起きていたんだ」と理解を深めたり、新しい方法を考えたりすることができます。
ITに詳しい技術者と現場が一緒になって、それまで思いつかなかった視点で考えると、「これまでの不具合は、これが原因かもしれないな」などと思考が膨らんできます。情報と情報が結合して別の次元の活用につながっていくのです。いろんな立場の人間が、様々なデータを介して、新たな発見をすることがイノベーションにつながっていくのではないかと考えています。

外販によりコストを回収し、フィードバックも得て、さらに開発を推進

Q:変革をめざす多くの企業の中で、御社が成功された要因はどこにあると思われますか?

一つには、何がなんでも加工の現場の“見える化”を成し遂げるのだという山本憲吾社長の強い意志があったことです。もう一つは、コスト回収を意識してきたことです。蓄積した加工に関するデータとセンシング技術は、早い段階から他社にも有償提供してきました。自社で開発した計測機器を、完成度が100%ではなくても、その価値を認めてくださるところに有償提供して、少しずつ投資を回収していったのです。外販して回収したコストを使って、開発をさらに前進させるという資金面の算段と経営者の執念、そのどちらが欠けても続かなかったと思います。
100%の完成を待たず、システムを提供することで、様々なフィードバックが得られることも大きなメリットです。ただ、前もって「現状のものは完璧ではありません」とご説明したうえで、それでも試してくれるパートナーを見つけることが大事です。アーリーアダプターとのキャッチボールによって、自分たちの仮説を検証しながら進めていくことが継続の秘訣だと思います。一時的な試みに終わらせないためには、長期戦略をもって持続可能なやり方でアップデートしていかなければならないと考えています。

Q:さらなるDX推進を含め、今後の経営戦略をお話しください。

DXについては、機械加工の対象物も材料も山のようにありますから、まだまだ現在進行形です。デジタル技術という新たな武器をしっかり身につけて、あらゆる面でやり方も変えていかなければ、イノベーションは起こせないと考えています。
これまで機械加工に関しては、大手企業であっても1個1個の部品の管理はできませんでした。複数工程ある部品を大量生産する場合、1工程目にどんな加工をして、2工程目にどうなったかは、熟練技術者であっても一人で全工程を手がけているわけでないのでわかりません。1個1個の部品について全工程を通して管理するには、デジタルの力がないとできないのです。ですから、「データを活用した者がものづくりの世界を制する」という信念に基づいて、DXにはいっそう力を入れていきます。今後は工数算出や見積といった加工以外の部分にもITを活用して最適化も進めていきたいですね。
企業としての大きな目標は、加工のノウハウをパッケージ化したサービスを普及させ、社会や製造業の課題解決、さらには日本のものづくりにおける人材育成に貢献することです。まだまだ課題は多いと感じていますが、自社のDXを進めながら、ものづくり業界にイノベーションを起こせるよう、今後も日々精進してまいります。


まとめ

  • 山本金属製作所は、加工現象を“見える化”するため、金属加工する際に発生する物理現象のデータ化に取り組んだ。収集したデータを分析することによって、最適な加工条件・方法を導きだすことに成功した。
  • 2012年に、コア技術の高度化に取組むため、岡山県に研究開発センターを設立。その後、IoTやネットワークに詳しい技術者を採用し、専門部署を設けて、現在では計測機器などのデバイス製作やシステム開発にも自社で取り組んでいる。
  • 加工技術をデータでとらえることから始まり、その後、従来の精密加工事業に加え、加工ソリューション事業、ロボットSIer事業、切削加工とFSWに特化した高度技術者教育支援事業を展開していった。
  • また、その4事業を組み合わせた「LASプロジェクト」を推進。機械加工を“見える化”し、最適な生産効率へ導き、データ活用によって工場の自律改善をめざす総合サービスを行っている。
  • DXを推進するには、現場の技術者たちに「おもしろい」「なるほど」と興味をもってもらうことが重要。いろんな立場の人間が、様々なデータを介して、新たな発見をすることがイノベーションにつながっていく。
  • DXが成功した要因は、経営者の強い意志と、コスト回収を意識してきたこと。100%の完成を待たず外販することで得た資金と、外販先からのフィードバックをもとに、開発をさらに進めていった。
  • 今後の目標は、日本のものづくりに欠かせない機械加工の技術を継承して、社会や製造業の課題解決及び人材育成に貢献すること。自社のDXを進めながら、ものづくり業界にイノベーションを起こすことをめざしている。

企業情報

会社名株式会社山本金属製作所
本社所在地〒547-0034
大阪市平野区背戸口2丁目4番7号
創業年月日1965年(昭和40年)2月26日
設立年月日1989年(平成元年)1月12日
資本金2億1,500万円(グループ総資本金)
従業員数280名(2022年4月1日現在)
WEBサイトhttps://yama-kin.co.jp/

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