マーケティングとコミュニケーションをデジタル化し、業態を大きく革新【ハンワホームズ株式会社】
1994年創業のハンワホームズ株式会社は、一般住宅や公園、施設、飲食店の屋外設計から外構工事、さらには屋外家具の輸入、販売までを一気通貫で手がける会社である。創業時は、地域密着型のエクステリア工事を行う、いわゆる「街の外構屋さん」だったが、2020年に現社長の鶴厚志氏が事業を引き継いでからは、企画・提案・Eコマースなど事業を多角的に展開。「きっとみつかる、理想の暮らし」という企業理念のもと、総合力を強みにエクステリア業界で存在感を発揮。業界内での売上は近畿圏NO.1となった。
2022年8月には、大阪本社の社屋を大規模リニューアルし、屋外家具の展示ショールームも併設。Eコマースでの商品のPRと同時に、生活者が商品を体感できる場を提供し、「理想の暮らし」への潜在ニーズを掘り起こしている。同社が大切にするのは、従来の受注先だったハウスメーカーではなく、商品を実際に使う生活者の視点。デジタル化した顧客情報からニーズを紐解き、付加価値を生み出し続ける同社の取り組みについて、鶴厚志社長にお話をうかがった。
目次
「街の外構屋さん」から、設計・施工・Eコマースまで一気通貫で提供できる企業に
Q:エクステリアの工事業で創業されたとのことですが、現在は工事業にとどまらず、非常に多彩な事業展開をされています。まずは事業内容についてお聞かせください。
「価値のある空間の提案」を目指し、大きく2つの事業部でサービスを展開しています。1つ目は「空間創造事業部」。ここでは、一般戸建て住宅や施設、レストランなどの屋外空間の設計提案、工事を行っています。そして2つ目は「DEPOS事業部」。こちらは、国内外の屋外家具の仕入れ、販売を行う流通部門で、「DEPOS」というECサイトも運営しています。
Q:屋外空間について、設計・施工から小売りまで一気通貫で提供されているのですね。失礼ながら、もともとは「街の外構屋さん」として創業された御社が、なぜこうした多角展開に舵を切られたのでしょうか?
造園や外構といったエクステリア業界が抱える、社会的な課題の解決が前提としてありました。我々の業界も建設業と同じく、職人不足や技術継承が難しいといった課題に直面しています。
たとえば技術継承でいうと、工業化が進むことで、複雑な技術がなくても施工できる建築資材が年々増えています。これは、職人不足をカバーできる一方で、技術力を持つ企業が減っていってしまうという悩ましい側面もある。建築にまつわる技術というのは、自然災害からの復興などにおいても、絶やしてはいけないものだと考えています。ですから私たちも、先代から引き継いだ施工技術というリソースは大切に守っていきたい軸としてあります。
一方で、外構を含む建設業界の未来を考えると、サステナビリティへの配慮も欠かせません。この産業はもともと、スクラップ&ビルドによって成長してきた産業。しかしこれからは、空間の価値を上げることにフォーカスして、その場所や建物を様々な角度から長く楽しめるような提案が求められます。
造園は、樹木の成長や、四季が織りなす表情を愉しむなど、空間の価値を上げる提案と親和性が高い。設計・施工と、流通・小売りを一気通貫で提供できれば、これまでできなかった「空間の使い方の提案」にまで踏み込めると考えました。
ECサイトで得た顧客情報からニーズをすくい上げ、付加価値を生み出す
Q:建設業に限らず、独自のポジションづくりに苦労されている企業は少なくありません。いわゆる「下請けからの脱却」のために、どのような施策を講じられてきたのでしょうか?
私は、先代である父の体調不良をきっかけに事業を引き継ぎましたが、入社してまず違和感を覚えたのが営業のアプローチ先でした。当時はハウスメーカーから仕事をいただく下請け企業でしたから、直接のクライアントであるハウスメーカーにアプローチすることは間違いではありません。ただ、私たちが本当に目を向けるべきは、ハウスメーカーの先にいる生活者ではないのかと感じました。
とはいえ、私たちのような規模の会社が生活者と接点を持つには、私たち自身が信頼に足る企業になる必要があります。そこで社長である私が、建築士や土木施工管理技士といった各種資格を取得していきました。すると徐々に、まずハウスメーカーとの関係性が変わっていったのです。
たとえ下請けであっても、同じ資格を有する者が提案をすると、ハウスメーカーの担当者もしっかりと耳を傾けてくれます。そこから、工事だけではなく、設計や施工の提案にまで事業の幅が広がっていきました。
Q:Eコマースの「DEPOS事業」の方はいかがでしょうか? こちらはまさに、生活者と直接つながれる事業です。
Eコマースについては、もともとはキャッシュフローマネジメントの施策の一つでした。というのも、設計や施工の提案を始めたことで売上は上がったものの、運転資金はいつも余裕がない状態だったのです。理由は簡単で、こうした業態は納品してからでないと入金がされないから。大きな工事になるほど、先に出ていくお金が増えるわけですから、潤沢な運転資金を確保するためにはキャッシュフローの時間軸を見直す必要がありました。そこで、入金までの時間軸が短い小売りに目を付けたのです。
はじめは、とにかく数を売ることばかりを考えていました。ただ、そうなると、どうしても価格競争に巻き込まれてしまいます。「同じ商品を少しでも安く」を続けていくと、EC事業が疲弊していくのです。 そこで国内外のものづくりや流通の仕組みについて改めて学び直しました。海外でも気になるメーカーがあれば、直接工場に足を運んで交渉。そうして徐々に、DEPOSならではの商品が集まってきました。
Q:Eコマースでの商品の仕入れや企画には、生活者のニーズの把握が欠かせません。そうしたニーズは、どのようにすくい上げているのでしょうか?
ECでの小売りの利点は、データから消費者ニーズ読み取れることにあります。お客様の住んでいる場所や年齢層、男女比といった基本データはもちろんのこと、納品先がマンションだった場合などは「戸建て住宅でなくても、屋外スペースを充実させたい人は少なくない」といったニーズが読み取れます。 こうしたデータの活用によってニーズを深堀りし、付加価値のある商品の仕入れや企画に活かしています。
顧客対応の自動化で「人がするべきこと」を強力アシスト
Q:データの活用が、付加価値を生み出す土台となっているのですね。顧客情報の利活用以外では、具体的にどのようなDXの取り組みをされていますか?
アクセスログを活用した、顧客対応の自動化を進めています。具体的には、たとえば見込み客に対してメルマガを送った場合、メールを開封したかどうか、リンク先に飛んだかどうか、サイトの滞在時間はどれくらいだったかといったアクションを、一人ひとり追えるシステムです。
このシステムを活用することで、「機械に任せること」「人がするべきこと」の線引きがクリアになります。「機械に任せること」は、たとえばお客様一人ひとりの関心度を数字などで“見える化”し、アプローチの優先順位を定めることなど。そして、再びサイトを訪問したなどの新規アクションがあったときには担当者にアラートで知らせ、営業の効率化をアシストします。そこからは「人」の出番になります。お伺いのメールを送ったり、そのお客様が興味を持ってくれそうな商品を案内するなど、興味関心が高まっているタイミングでベストな提案を行います。
このように、機械に任せることと、人がやるべきことを明確に分ければ、営業社員も一人ひとりのお客様に向き合う余裕が生まれ、成約という結果につながりやすくなります。すると自然に、営業社員も様々な情報を自発的に入力してくれるようになりました。「訪問したら小さな子どもさんがいた」「おばあさまも同居されているようだ」といった現場の情報が増えることで、さらにデータがアップデートされています。
従業員目線でメリットを伝えることで、デジタル導入時の抵抗感を打破
Q:感覚ではなく、データに基づいた判断によって付加価値を生み出されているのですね。ところで、こうしたITの知識やノウハウは、どのようにして調達されたのでしょうか? やはり社内には、ITの専任者がいらっしゃるのですか?
いえ、専任者はいません。私は学生時代に独学でプログラミングなどを学んでいたので、ITツールのアルゴリズムは大枠で理解できるんですね。ですから基本的には、「こういうものを作りたい」という私の考えが開発のベースです。
Q:システムの開発も鶴社長ご自身が手がけられているのですか?
いえ、アウトソースするものもたくさんあります。ホームページなど、自社で作れそうなものは私が手がることもありますが、専門的なスキルが必要なシステム開発などは外部の力を借りています。私たちは、自分たちでないとできないことに時間を使っていきたいので、デジタル技術のアウトソースは必須だと考えています。
Q:ITに明るい人材が少ないということは、デジタル化に対して不安や抵抗を感じる社員も少なくなかったのでは?
おっしゃるとおりです。変化することへの抵抗は当社でももちろんありました。従来のやり方が変わったり、新しく覚えなければならない作業が増えるのは、従業員からすると「面倒臭い」というのが本音でしょう。
ですから当社では、従業員目線でのデジタル化のメリットをわかりやすく伝え続けました。「アポ取りがラクになるよ」とか、「休みの日は携帯電話を会社に置いて帰れるようになるよ」などです。
経営者はどうしても、「デジタル化によって会社にこんな付加価値が生まれる」「お客様に喜んでもらえる」といった未来のビジョンを伝えたくなるものですが、従業員の目線に立てば「社長のビジョンを叶えるために、自分たちの仕事が増える」と抵抗を感じます。従業員たちに理解してもらうには、伝え方がとても重要。「それならやってみようかな」と思えるメリットを伝え続けることで、デジタル化に協力してもらいやすくなりました。
Q:御社は若い人材が活躍されている印象を受けます。ITへの苦手意識が少ない世代が多いことも、デジタル化成功の要因なのでしょうか?
従業員の平均年齢が30代前半なので、その側面はあります。ただ、楽しみながらデジタルに触れられるような仕掛けや工夫は積極的に行っています。
たとえば当社では、デジタル版の社内報のようなサイトを作っていて、内定者の紹介や社員一人ひとりをクローズアップした記事、私からのメッセージなどを掲載。社員たちも投稿できるようになっているので、旅行や結婚などプライベートな話題を投稿する人もいます。こうしたデジタルを使った情報発信は、社内コミュニケーションのきっかけづくりにも役立ちますから、皆楽しみながらサイトを覗いてくれています。
Q:デジタルを「面白い」と感じられるような仕組みを作られているのですね。
はい。そうしてデジタルに触れたくなる環境を整えていけば、おのずとITリテラシーも高まっていくと思います。当社は確かに若手が多い会社ですが、ITに精通している人材は、正直なところ1人もいない。それでも、環境整備することでデジタル化は着実に進んでいます。
また、コミュニケーションのデジタル化は、新卒採用などの若手のリクルーティングにも役立っています。外構・造園業も職人の高齢化が進み、慢性的な人手不足に陥っています。未来のエクステリア業界を支えるためにも、若手の採用は大きな課題の一つ。そこで考えたいのが、「若い世代が働きたい職場」の本質です。 彼らが大切にしているのは、「どんな働き方を、どんな人たちとできるのか」ということ。デジタルコミュニケーションの場は、そのイメージをより具体的にする効果があります。
当社は社員数70名規模の会社ですが、エントリーの数は毎年400人弱にのぼり、今年度も新卒5名の入社が決まっています。若手のリクルーティングにおいては、サービスの社会性をアピールすることと同じくらい、「どんな働き方を、どんな人たちとできるのか」を“見える化”しておくことが大切だと感じます。
デジタル化で、部署の縦割りや「顧客=担当者」という属人的な壁を超える
Q:最後に、デジタル投資の予算についてお伺いさせてください。先ほど、アウトソースするシステムも多いとおっしゃられていましたが、デジタル化への投資については、どのように考えられていますか?
私たちの産業は、人口減少の影響を大きく受ける業態です。ですから、未来のユーザー数を定量的に捉えられないと、企業としての価値が上がっていきません。
そういう意味では、目先の利益よりも、将来的な事業の可能性に向けて投資をしていく必要があるので、毎年思い切った額のデジタル投資を行っています。先にお話しした顧客対応の自動化システムにしても、投資を回収できる年数はもちろんのこと、これを作ることで将来のユーザー数がどれくらいに増え、それによってどんな業績インパクトが出るのか、私なりにそろばんを弾いています。
Q: 社内報のデジタル版についてはいかがですか? こちらは、ユーザー獲得に直接つながるシステムではありません。
こちらは、部署それぞれが持つスキルやノウハウの横展開につながるシステムだと考えています。会社は大きくなるにつれ、部署の縦割りが起こってくるものですが、デジタルでコミュニケーションを促進することによって、部署間の連携も取れやすくなりますし、個々の能力も把握しやすくなります。
そうすると、たとえばDEPOS事業部で屋外家具を納品した従業員がリフォームの相談も受けたといった場合、スムーズに「空間創造事業部」の適任者に案件を投げることができます。こうしたクロスボーダーを違和感なく行える環境づくりに、デジタルコミュニケーションは一役買ってくれると思います。
Q:「顧客と担当者」という属人的な関係から一歩踏み出すのですね。
おっしゃる通りです。顧客情報も、デジタルコミュニケーションツールも、顧客・従業員・企業をトライアングルな関係でつないでくれるシステムです。この関係構築ができあがれば、おのずと顧客との関係性も長期的なものになっていくはずです。
Q:最後に、今後のビジョンをお聞かせください。
外構・造園という産業の発展に貢献していきたいですね。そのために考えているのが、海外マーケットへの進出です。日本の住宅・造園に関する技術レベルは、世界でもトップクラス。舗装された道、地震に強い建物、バリアフリー設計、どれをとっても最先端の技術を有しています。こうした空間設計技術は今後世界でも必ず必要とされるはずなので、私たちの持つ空間創造というサービスを、ゆくゆくは海外に輸出したいと考えています。 そのためには、自分たちの存在感をさらに高めていかなければならない。挑戦の手を緩めずに、企業力をさらに向上させていきたいと思います。
まとめ
- 一般住宅の造園・外構の工事業を行っていたハンワホームズは、設計提案、Eコマースにまで事業の幅を広げることで、ホテルや集合住宅といったこれまでにないクライアントを獲得。近畿圏で売上NO.1の企業となった。
- キャッシュフローマネジメントの施策の一つとしてEコマース事業を開始。ECサイトを通じて顧客データが集まることで、生活者のニーズを客観的に把握できるようになった。そうして得たニーズを、空間提案や屋外家具の企画に活かしている。
- 顧客対応を自動化することで、「機械に任せること」「人がするべきこと」を明確に線引き。デジタルの力で顧客の関心度を数値化し、営業の効率化をアシスト。営業社員に、物理的・心理的な余裕が生まれ、現場の情報も入力してくれるようになった。
- 社内のデジタル化への抵抗感を和らげるために、授業員目線のメリットを伝え続けている。「それならやってみようかな」と思える伝え方が大切。
- デジタル版の社内報を導入。社員の紹介記事や社長メッセージのほか、プライベートな投稿もできる仕組みで、楽しみながらデジタルに触れられる環境を整えている。また、コミュニケーションの“見える化”は、若手のリクルーティングにも貢献。
- 未来のユーザー数を定量的に捉え、そこにつながるデジタル投資は思い切った予算を組む。目先の利益よりも、将来的な事業の可能性に向けて投資。
- デジタル化は、部署の縦割りや、「顧客と担当者」という属人的な壁を超える施策として機能している。顧客・従業員・企業をトライアングルな関係でつなぐことで、顧客との長期的な関係性構築を狙う。
企業情報
企業名 | ハンワホームズ株式会社 |
所在地 | 〒590-0524 大阪府泉南市幡代3丁目838-1 |
設立年月日 | 平成6年7月14日 |
資本金 | 3,000万円 |
従業員数 | 64名 |
WEBサイト | https://www.hanwa-ex.com/wp2/ |