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アーリーアダプターの協力で小さくスタートするのが成功の第一歩【JOHNAN株式会社】

京都府宇治市のJOHNAN株式会社は、1962年の創業以来、電子部品・ 機器、フィルム加工等の受託製造サービスを通じて、技術やノウハウを蓄積した会社である。製品の開発、設計から量産までワンストップで対応し、半導体業界の自動化・省力化機器や医療・製薬分野の装置・機器などの製造も手がけている。受託製造サービス以外にも、自社製品として環境改善や生産支援製品の企画・製造・販売も行い、製造現場に役立つものづくりにも力を入れてきた。
2022年には創業60周年を迎え、産業用ロボットや水中ドローンなど将来を見据えた分野にも事業展開する一方、自社装置のIoT化による新サービスの提供やRPA(Robotic Process Automation)によるバックオフィス部門の業務改革などでDXを進めている。「コストダウンだけでなく、テクノロジーをビジネスの武器にして稼ぐ」を持ち味に、同社のDXをけん引されているDX推進課課長の広瀬圭一さんにお話を伺った。

ITを活用して、自社製装置のIoT化と社内事務処理のコストダウンを実現

Q:御社のDXの取り組みでは、どのようなことが行われているのでしょうか?

当社では中長期経営計画におけるデジタルテクノロジー戦略の一環として、各事業部で様々な取り組みを推進してきましたが、その中でDXの代表的な事例としては、二つあります。自社製装置のIoT化による新サービスの提供とRPAによるバックオフィス部門の業務改革です。

Q:自社製装置のIoT化による新サービスの提供とは?

当社の主力商品の一つであるドレン処理装置「ドレントーレ」は、工場で排出されるドレン水(油混じりの排水)を油水分離して、法律で定められた水質基準を満たせるように排水処理できる装置です。この装置を安全に運用するためには定期点検とフィルタ交換が必要で、定期点検をユーザーであるお客様に対応していただくことになっていました。

しかし、適切な時期での点検が徹底されず、フィルタの交換率も目標の60%を下回るなど、安全な運用に支障をきたす懸念がありました。また、交換サイクルを徹底することが継続的な売上に繋がるリカーリングビジネスでもあるため、抜本的な対策が必要でした。そこで、IoTの活用により装置の遠隔監視を可能にして、状況の可視化とアラート通知をできるようにしました。

Q:装置のIoT化により、どのような成果がありましたか?

従来、お客様に部品の交換時期や調達先の確認、過酷な環境下での交換など、多くのご負担をお願いしていましたが、この負担を軽減できるようになりました。また、お客様が交換するのを待つという受動的な体制から能動的に交換を促せるようになり、交換需要が活性化され、売上アップも見込めるようになりました。

さらに、この取り組みが評価されて、2019年7月に「スマート社会実装化促進事業補助金」の補助事業者に選定していただき、「スマート社会」の実現を目指す中小企業の新たなサービス開発として支援いただくようになりました。

Q:RPAによるバックオフィス部門の業務改革とは、どのような取り組みでしょうか?

受発注の事務処理において、RPA(Robotic Process Automation)の導入により自動化を行いました。年間約5,000件ものFAX等で受けた注文書を従来、スタッフ数人が手入力でデータベースに登録していましたが、書類のデジタルデータ化と入力を自動化できるようにしました。

Q:書類の読み取り精度など、データ化に問題はなかったのでしょうか? また、この取り組みの結果、どんな成果がありましたか?

書類を読み取る際、従来のOCR(Optical Character Recognition)では、文字認識の精度にバラつきがあるなど課題がありましたが、AI inside社の「DX Suite」を導入することにより、格段に精度が向上しました。DX Suiteが備えるAI-OCRは、AIの学習によって異なる書式や形状の帳票に左右されない読み取りが可能です。読み取り精度が悪い場合でも、AIの再学習を重ねることで精度が向上します。このDX SuiteとRPAの連携により、年間あたり約2,000時間の工数削減を達成しました。

社外で得た気づきにより、守りのITから攻めのITへと舵を切る

Q:こうしたDXの取り組みを始められたきっかけは何だったのでしょうか?

以前は、基幹システムの保全やメンテナンス、PC等の社内インフラの整備など、いわゆる情報システム部門の業務を私が中心に行っていました。一般的にこうした情報システム部門の業務は効率やコスト削減を求められ、品質や安定性が重視されます。よく「守りのIT」と言われる業務ですね。しかし、これからの時代はITをビジネスの武器とする「攻めのIT」にも力を入れていくべきと考えていました。そこで私自身が事業部門に移籍して、ビジネスの現場でITを活用していこうとしたのが、DXの取り組みにつながりました。

Q:「守りのIT」を主たる業務とされていた中で、なぜ、これからは攻めのITが必要と考えられたのでしょうか?

外部の方との出会いがきっかけでした。ベンダーさんのご紹介で、情報システム関連の第一人者とも言える方にお会いする機会がありました。その方に、外部のIT関連のコミュニティに入ればもっと視野が広がるとアドバイスをいただきました。勇気を出してコミュニティに入ってみると、これまで自分が見ていた「守りのIT」の世界だけでなく、新しいことに挑戦する会社や人のことを知って、「攻めのIT」の必要性を感じるようになりました。

Q:「攻めのIT」の必要性を感じて、社内での取り組みを始めようとされたとき、周りの反応はいかがでしたか?

こちらの呼びかけに手を挙げてくれる、反応してくれる人は、なかなかみつかりませんでした。「守りのIT」で生産性を上げて、コストも削減して利益率を高めることは大切なことです。しかし、そうして空いた時間を使って、新たな施策を考えたり、創造性のある仕事をすることが大切だと唱えても響かず、関心をもってもらうことの難しさを痛感しました。

Q:呼びかけても伝わらないのは、どこに問題があるのでしょうか?

社内クラウドシステムを導入したときも同様でしたが、私には改善できるイメージを描けていても、関係者に関心をもってもらい、自分事にしてもらわないと実行するのは難しいです。そのためにはもっとメリットを感じてもらうことが必要です。DXを実行するには、予算を確保できない、リソースがない、スキルがないなどの理由で難しいと、多くの会社が悩んでおられることを耳にしますが、当時の私も同じことを思っていました。

物事に積極的なアーリーアダプターを見つけて、小さく始めてみる

Q:なかなか協力者が見つからない状況の中で周りの人の理解を得るために、何から始めたのでしょうか?

関係者や経営陣の理解を得るためには、プランニングやシミュレーション結果だけでなく、実績を示すことが必要と考えました。一個人の夢想でなく、現実味のあるメリットを理解してもらわねばなりません。そこで協力者を見つけて実際に小さな規模で始め、小さな結果を出してみることにしました。

自社製装置のIoT化では、現場の課題を整理して解決案をまとめて、プロトタイプを作ることから始めたら、協力者がさらに増えていきました。バックオフィス部門の業務改革では、RPAによる自動化で変わる業務プロセスの想定動画を作って、具体的に説明できるようにしました。そして、RPAを活用できそうな業務と、想定されるメリット・デメリットを示し、関係者や役員に理解してもらえるようにしました。

Q:そもそも最初の協力者をどのように見つけたのですか?

まずは新しいことに関心の高いアーリーアダプターと思われる人に声をかけてみました。マーケティング的な視点で、自分が取り組もうとしていることが、社内のどのような人たちに共感されそうかを見極めて動くことが大切と考えたからです。個人に協力を求める場合はITに明るいリーダークラスの人がいいと思います。部署に協力を求める場合は、たとえ失敗しても、ある程度の心理的安全性があって、チャレンジ精神があるところが望ましいです。

Q:では、ITにも明るいと思われるアーリーアダプターを、どのように探されたのでしょうか?

日頃の地道な社内交流に加えて、何らかの取り組みを行ったら、そこで小さな成果を出して、その効果を関係者に実感してもらうようにしていました。その成果を実感した人は、新たな取り組みにも共感してもらえる可能性があるからです。

例えば、当社は以前、山形、大阪などの各拠点と本社間で、申請書類を郵送でやり取りしていましたが、これを違うやり方に変えようと提案したことがあります。最初は、なかなか理解してもらえなかったので、その業務で費やす工数を集計して、ITの導入効果による工数削減を試算しました。そのうえで実際に試してみた結果、工数削減を達成し、成果を実感してもらえることがありました。良い結果ばかりでなく、失敗もしましたが、成果を少しずつ積み重ねたことが信頼関係に繋がり、新たな取り組みにも共感してもらえたと思います。

Q:失敗を恐れずに挑戦することの大切さを理解していても、リスクを恐れて躊躇する人は多いと思います。会社は失敗をどうみていたのでしょうか?

失敗で責められるようなことはなかったです。私が何らかのチャレンジをするときは、「この取り組みを試してみませんか?」というアプローチで会社に説明するようにしています。あらかじめ試行錯誤の一環というアプローチで始めれば、会社としても大きな投資にはなりません。これは社風というか、当社特有かもしれませんが、上司からやれと言われたことでなく、自らが能動的に行った上での失敗を責める人はいません。DXを実行するための本質的な壁は、ITなど技術的な問題よりも、取り組みの始め方と、それを受け入れる組織の環境や風土の影響も大きいと思っています。

日ごろから社内外にアンテナを張り、取り組みの種を見つける

Q:「攻めのIT」を活用するには、これまでの「守りのIT」の延長線上にない違ったノウハウや技術が必要と思われます。新しいノウハウや技術をどのように取り入れているのでしょうか?

まず、私自身が好奇心をもって、毎朝、情報収集や自主学習の時間をつくって学んでいます。2022年は約270時間をこの時間に費やしました。情報システム部門に所属していた時は、自分が動かなくてもベンダーさんなどから情報を入手できていましたが、今は自分から情報を取りにいきます。以前とは集める情報の種類も変わり、IoTやAIなど「攻めのIT」に関するものが増えました。また、社外のコミュニティとの交流からも情報を得ています。積極的に社外へ出て、外部とのネットワークを作って知見を得られるようにしておくことは大切です。

Q:そのようにして得た技術やノウハウを、どのように社内で活用するのでしょうか?

新しい技術やツールを見つけても、当社のような規模の企業では、それを社内で仕組み化するためのリソースがない場合が多いです。そのため、誰かが旗振り役となって、社外のパートナーを探してから進めることになります。しかし、私としては、何かのアイデアを発案したときに、自分たちで自主開発できるような流れにしていきたいと考えています。最近、プログラムなどの専門的な知識や経験がなくとも、ローコードツールやノーコードツールなどを使えば、やりたいことができるようになってきました。このようなツールを駆使できるように、現在も試行錯誤中です。

Q:ITの素養がある人材に恵まれていないため、DXが思うようにいかない悩みを抱える会社も多いですが、知識や経験がない人でも、ローコードやノーコードなどのツールを使えるのでしょうか?

できると思います。私が参加している社外コミュニティの一つに、「秘密基地」と呼ぶモノづくりコミュニティがあります。そこには、当社のような規模の会社やもっと小さい会社の人も参加されていて、プログラミングやモノづくりの実践を通して学んでいます。そんな場所に集まる人には、新しいことを学ぼうとする意識の高い人が多いです。このような人を社内で探して協力してもらえれば、取り組みが進む可能性もあると思います。

Q:組織としてITリテラシーを高めるような取り組みもされているのでしょうか?

新しいITの活用方法などについて、社内外で自主的に勉強会を企画・開催しています。社内ではチャットツールを使って、オンラインで交流しています。製造業は、とかく固いイメージもあるので、できる限りカジュアルな雰囲気になるよう心がけています。この場は自由参加で何の見返りも求めないので、興味があれば参加してくださいというように声をかけていました。すると、若い方を中心に拠点や部署を超えて少しずつ参加者が増えていきました。勉強会では参加者の困りごとを聞けるので、私自身の情報収集手段の一つにもなっています。こういう場でも常にアンテナを張りながら、会社の課題や解決策を考えています。RPAの取り組みなど本業とは少し違ったテーマを設定して勉強会で理解を深めるようにしています。

小さな取り組みは無償期間で試すなど、小さな予算で始める

Q:小さく始めて小さな結果を出すための予算については、どのようにして確保しているのでしょうか?

アイデアの実証を事前に行うPoC(Proof of Concept)のようなことは、急に発生することも多いので、そのための予算は私の部署(ICT推進課)で計上しています。何らかのソフトウェアを使用するときは、無償期間で試してみて、有償で期間延長する場合は2~3か月の期限を設けた予算で行うようにしています。DX Suiteを導入したときも同様でした。大量の注文書をAI-OCRで読み取らせたときの精度や、実際の使用感を検証したときも期限を設けていました。 それが大きな取り組みに発展した場合は、導入する部署の予算でお願いしています。その予算編成のために、導入効果の想定や部内体制の整備に関してサポートするようにしています。

Q:会社のDXを推進する立場として、今後のビジョンや進めたい取り組みなどはありますか?

自社装置のIoT化やRPAによるバックオフィス部門の業務改革などは、一つの製品、一つの部署の個別の取り組みとして成果を積み上げてきました。しかし、さらにDXの効果を高めるためには、全社的な課題にも取り組む必要があります。これからは会社全体の事業革新のようなアプローチでもDXを進めていきたいと考えています。

まとめ

  • 主力商品であるドレン処理装置の定期点検にIoTを導入したことで、安全運用の見通しが立ち、交換需要も活性化された。社内における受発注の事務処理では、AIを活用したDX SuiteとRPAの導入により、年間約2,000時間の工数削減を達成した。
  • 従来、品質や安定性を重視する「守りのIT」を主たる業務としていたが、社外のIT関連のコミュニティに参加して様々な人と交流して得た刺激と知見により、ITをビジネスの武器とする「攻めのIT」に注力する必要性に気づいた。
  • 「攻めのIT」の必要性を感じて、社内での取り組みを始めようと呼びかけたものの、協力者が見つからなかった。協力を得るためには、その人たちにメリットを感じてもらい、自分事にしてもらわねば、実行することが難しいことを痛感した。
  • 新たな取り組みに対する関係者の理解を得るためには、新しいことに関心の高いアーリーアダプターに声をかけて、実際に小さく始めてみる。小さな成果を少しずつ積み重ねていくことが周りとの信頼を醸成し、新たな取り組みへの共感に繋がった。
  • 新しいノウハウや技術を調達するために、個人的な情報収集や自主学習に加えて、社外で構築したネットワークも活用している。日々で得られた新たな知見を社内勉強会で共有し、参加者との交流を通じて、会社の課題や解決策に関する気づきも得ている。
  • 小さな取り組みを行うときは、期限を設けた予算で実施し、自分の部署で計上している。取り組みが拡大して関係部署が増えた場合は各部署での予算計上になるが、取り組みの実施要件の策定や予算編成のサポートを行っている。
  • DXを成すためには、社内外にアンテナを張って人的ネットワークを構築し、新しいノウハウや技術、気づきを得られるようにする。社内のアーリーアダプターとともに小さく始めて、成果を積み重ねることで協力者を増やしていくことが大切である。

企業情報

会社名JOHNAN株式会社
本社所在地〒611-0033
京都府宇治市大久保町成手1番地28
創業年月1962年10月
設立年月1968年8月
資本金9,500万円
WEBサイトhttps://www.johnan.com/

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