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粗利を“見える化”し、薄利多売から脱却。自社開発したシステムは外販も【株式会社オーカワパン】

福井県坂井市に本社・工場を置く株式会社オーカワパンは、1949年の創業以来、パン製造に従事。県内を中心に、石川県、富山県のスーパー約150店舗に1日2回焼き立てパンを自社便で届けている。大きな特徴は、スーパーに卸すのではなく、自由な商品開発と売り場づくりを強みとして、委託販売を行ってることだ。それだけに正確な需要予測が求められる。
ところが、パンの製造工程は発酵や窯入れの時間などが商品ごとに異なり、現場で生産管理がしきれなくなっていた。また、商品開発部と営業部は、製造部の状況を把握することなく、売上だけを見て商品開発や受注を行っていたため、総生産高は伸びているのに粗利率は下がっていくという薄利多売の状況に陥っていた。
そこでDXに着手し、生産性の向上や原価の“見える化”を目指した。福井県のIoT・AI等導入促進事業補助金や近畿経済産業局の新連携事業を活用して、製造原価管理システム「Aralead(以下、アラリード)」を開発し、同システムの外販に乗り出した。同社のDXを一手に担うシステム部長兼アラリード事業部長の森本健嗣さんにお話をうかがった。

粗利を考慮せず売上だけを追求し、総生産高は伸びているのに、粗利率は低下

Q:御社のDXの中心となっているのは、自社で開発されたアラリードというシステムだそうですが、どんなものですか?

生産計画から実績まで、製造に関わるデータを一元管理して収集・分析し、原価・粗利を“見える化”するシステムです。製造現場で作業の開始・終了時間や原材料の使用量をタブレットで入力すると、人件費を含めた製品ごとの原価と粗利益が自動で計算される仕組みになっています。

端末には作業時のチェックリストも不良品の入力項目もあり、トラブル発生時にはボタン一つで各所に警告が出せます。作業の進捗はリアルタイムでモニターに映し出され、現場も経営サイドも確認できます。

Q:食品製造の生産管理はどんなところが難しいのですか? また、システム導入前はどのように管理していたのですか?

食品製造の場合、商品によって、原材料や工程、作業時間もそれぞれ異なるのでデータが多岐にわたり、すべてを把握するのは容易なことではありません。たとえば当社の場合、製造するパンは30~40種類あり、毎日3本の製造ラインを稼働させています。30分~1時間で製品や工程が次々と切り替わり、手作業も多いため、管理は複雑になります。

以前は製造現場で各担当者が、製品名や作業時間、材料の投入数などを手書きで記録していましたが、記入漏れが多く、記憶や勘に頼って作業している部分も多かったので、生産性を正確に数値化することができていませんでした。

Q:その結果、どのような問題が起こっていたのでしょうか?

製造部は、生産状態を管理しきれず、作業時間やコストを数字で示すことができていませんでした。一方、商品開発部と営業部は、KPI(重要業績評価指標)を売上のみに頼り、粗利を考慮せず、商品開発や発注を行っていました。売上ばかり追って、どこでどれくらい利益が上がっているのか、わからない状態に陥っていたのです。生産性については、一応数値化していましたが、売上高÷労働時間で計算していたので、生産性の伸び悩みの説明がつかなくなっていました。その結果、取り扱い店舗数も売上高も順調に増え、総生産高は毎年10%ずつ伸びているのに、粗利率は下がる一方という現象が起こっていました。いわゆる薄利多売の状態ですね。

帳票類をExcel入力に変更し、データ収集に努めるも、記入漏れが多く苦戦

Q:森本部長がアラリードを開発することになったきっかけをお話しください。

私はもともとシステム会社に勤務していたのですが、営業先だったオーカワパンの社長から「入社してIT化を進めてほしい」といわれて、2017年春に転職したんです。2018年製造部長に就任して、生産性を伸ばす手立てを考えたとき、商品開発部と営業部と連携し粗利率を改善する必要があると思いました。

そこでまず、製品ごとの原価を把握するため、データ収集に取りかかりました。製品ごとの作業時間と人数の実態調査を行い、手書きで記録していた帳票類をExcel入力に変更し、フォーマットを刷新。専任者を配置し、過去の記録を入力し直すなどして、数値の把握に努めました。

Q:当時、製造現場では生産管理がしきれなくなっていたとのことですが、データはきちんと記録されていたのでしょうか?

いえ、工程ごとにかかる時間や原材料の使用量を知るために必要な作業報告書には記入漏れが多く、苦労しました。特に複数の商品・工程への切り替えが発生する仕事になると、開始・終了時間など空白の箇所が散見しました。パン作りに追われる現場の作業員にとっては、いちいち記録するのが手間だったんでしょうね。 しかし、抜けがあると、正確なデータがとれないので、製造部の課長にストップウォッチで所要時間を計ってもらったこともあります。最初から完璧を目指しても無理なので、不完全であっても一定期間のデータを整え、原価と粗利益を算出する仕組みをつくろうと思ったのです。

でも正直なところ、Excel時代は簡易的な計算方法でもあったし、マクロや関数が重く処理時間がかかるなど、うまくいかない部分もいろいろありました。作業報告書については、その後、タブレットで簡単に入力できるようになり、大分改善されましたが、100%にはならず、最後は社長命令で徹底されました。やっぱりトップダウンは強いなと実感しました。

Excelの仕組みを土台に、本格的な生産管理システムの構築をスタート

Q:労働時間を把握することによって、どのようなことができるようになったんですか?

労働時間から工程ごとの労務費を算出し、それに材料原価を合わせると、商品一つひとつの原価と粗利益がわかります。さらに、営業部の販売数のデータと連動させて、製造原価と原価率、粗利と粗利率がでるようにしたところ、どの商品が儲かっていて、どの商品が赤字なのか、一目でわかるようになりました。

実際にあった例をご紹介すると、ある月、こしあんパンの原価が高く、日にちごとに見ると、基準の原価値を約10%上回っていたんです。工程ごとに分析すると、成形の段階の差異が一番大きく、ほぼ毎日、作業時間が遅延していたことがわかりました。そこで、基準値をオーバーしないように現場で指導してもらいました。とはいえ、手作業の場合は作業スピードや出来栄えに多少の個人差があるのは致し方ないことなので、基準の見直しを検討しています。

Q:Excelで作った仕組みをベースに、本格的なシステム開発がスタートしたんですね。

はい。原価・粗利を算出するExcelを作って「粗利率を改善するためには、まず製造部で商品の原価・粗利をきちんと管理して、その原価・粗利の数字を活用した商品戦略や販売戦略を行わなければいけない」と社内プレゼンしたんです。そうしたら、社長から「システム化しないか」といわれ、経済産業省の「新連携事業」の認定を受け、そこから本格的にシステム開発に着手しました。

Excelの段階で、商品アイテムごとの売上や原価率、人時生産性は把握できていたので、作業者のスキルを踏まえた生産体制やデータに基づく需要予測などの機能を付加してシステムを進化させていくことにしました。製造部長になり、権限を与えられたおかげで、必要なデータはぐっと集めやすくなりました。

3部門が情報共有し、連携して原価と粗利を管理できる仕組みづくり

Q:それで誕生したのがアラリードなんですね。開発を進めて、さらにどんなことができるようになったのですか?

付加した機能は、生産/販売計画のシミュレーション機能です。たとえば翌月の生産/販売計画を入力すると、1日ごとの原価・粗利、労働時間から、1か月あたりの労務原価、材料原価、工数、総労働時間を算出して、労働生産性を示すことができるようになりました。予算も粗利も達成できていれば、「生産/販売計画OK」と考えることができ、バランスが悪ければ、事前に商品や数量を調整することができます。

Q:システム導入によって、どんな成果が上がっていますか?

2018年から開発に着手し、2020年から継続的に運用していますが、2020年度の粗利率は前年度比2.5%改善しました。2021年度は、コロナ禍の影響で外国人実習生が来日できず、材料費高騰もあって伸び悩みましたが、労働生産性は2019年度比で2020年は10%、21年は15%改善しました。また、部門の垣根を越えて情報共有することによって、製造部、商品開発部、営業部の3部門が連携して原価と粗利を管理できるようになりました。

同じ課題を抱える食品製造業の会社に、自社開発したシステムを外販

Q:社内で成果を上げたアラリードを外販することになった経緯を教えてください。

当初から外販は視野に入れて開発していました。運用がスタートした頃、銀行やコンサルタントなど、外部の方からも高評価をいただき、手ごたえを感じていました。近畿経済産業局の方が来られたときに社長が“原価・粗利算出Excel”のことをお話ししたら、担当者の方が「ブラッシュアップして、同様の課題を抱える他の食品製造会社でも使えるようにしては?」と新連携事業を紹介してくださったんです。事業計画書を作成し、認定を受けて補助金をいただき、汎用性のあるシステムの開発に取り組み始めました。

Q:新連携事業での連携先はどんな会社ですか?

システム会社、パン製造の大手・木村屋総本店様をはじめとする中小食品製造業、衛生関係のコンサルタント、経営コンサルタント、デザイン会社など、複数の会社です。外販は、中小食品製造業をターゲットとするため、大手や製パン以外の中小食品製造業様にも支援をいただきました。

Q:汎用性を高めるために、どんなところに手を加えたんですか?

モニターやタブレットを見やすく使いやすいものにするためにWebデザイナーにビジュアルを整えてもらいました。また、経営コンサルタントには、現場で使われている呼び方を、一般的な用語に変えてもらったり、在庫管理や労務管理、費用の計算方法に間違いがないかなどのチェックをしてもらいましました。

Q:いつから外販を開始し、現在どんな会社が何社くらいアラリードを使用しているのでしょうか?

2021年8月に事業部を発足し、外販を開始しました。現在5社6工場に導入されています。当社と木村屋総本店がパン製造業で、ほかに、あん・ジャム製造業、水産加工業、洋菓子・和菓子製造業です。

IT人材に権限をもたせて任せる方針で、DXを推進。システム外販部門は子会社化も

Q:振り返ってみて、DXが成功した要因はどこにあると思われますか?

社長の理解があったことが一番大きいですね。社長は度量の大きな人で、常日頃から「みんなやりたいことをやれ」という方針なので、普段からどの部署も伸び伸びと仕事をさせてもらっています。今回の新連携に関しても細かいことはほとんど言わず、好きにさせてくれました。

製造部長という権限をもらえたことも大きかったです。おかげで、非常にDXを進めやすくなりました。あと、私が“よそ者”だったこともよかったと思います。入社した頃は、社内で会議をしていても、「利益」という言葉が出ないぐらい、みんな売上しか見ていなかったので、外から来た者からこそ、「売上だけのKPIなんて、おかしい」と指摘して、改善策を提案できたのでしょう。

それに社員全員が仲良く、風通しのよい社風だったことも幸いしました。私が作った資料も会議資料や部内資料としてすぐ浸透したので、結果が早く出たんだと思います。もちろん支援がなかったら、ここまで開発を進められなかったので、近畿経済産業局をはじめ行政や公的機関の皆さんにはとても感謝しています。

Q:今後、DXに関して考えている課題や展望があればお話しください。

社内のシステムのあり方については、業務効率化と意思決定のための情報提供をするものなので、行動を促す運用や仕組みづくりが大切と考えています。

現在は、売上粗利を目標にした予算達成のための仕組みづくりの一つとして、「ふくいDX加速化補助金」を活用して、独自の発注システムを開発しているところです。このシステムを使えば、シミュレーションをしなくてもリアルタイムで、日々の予算達成度を店舗ごとに見られるようになります。また、優良店と比較することによって、弱点を強化していくこともできます。

アラリードについては外販も好調なので、2024年度に事業部を子会社化して、本格展開していく予定です。

まとめ

  • パン製造・委託販売を行うオーカワパンでは、総生産高は伸びているのに粗利率は下がっていくという現象が起こっていた。製造部は生産状態を管理しきれず、製品ごとの個別原価を把握していなかったため、商品開発部と営業部は粗利を考慮せず売上だけを追求していたことが原因だった。
  • ITを活用し、生産性を向上させたいと考えた社長の要請により、IT人材として森本健嗣さんが入社。原価・粗利の“見える化”を実現するためのシステム構築に取り組みはじめた。
  • システム部長となった森本さんは、手書きで記録していた帳票類をExcel入力に切り替え、生産性を把握するためのデータ収集から着手した。
  • 商品ごとにかかった時間を知るために必要な作業報告書は、記入漏れが多く苦労したが、最終的には社長命令により記入が徹底され、販売実績から粗利を算出するツールを開発することができた。
  • Excelで作った仕組みが評価され、それをベースに本格的な生産管理システムの構築に取り組み始めた。開発の資金には、行政や公的機関の補助金・認定を活用した。
  • 製造原価管理システム「Aralead(アラリード)」が完成。製造現場で作業の開始・終了時間や原材料の使用量を入力すると、人件費を含めた製品ごとの原価と粗利益が算出される。店舗ごとの粗利計算や販売計画のシミュレーションも可能。
  • システム導入した2020年度には、粗利率が前年度比2.5%改善。労働生産性も向上。製造部、商品開発部、営業部の3部門が連携して原価・粗利を管理できるようになった。
  • 社内で成果を上げたアラリードを、同じ課題を抱える食品製造業の会社に活用してもらうべく外販することになり、新連携支援を受け、汎用性のあるシステムを開発。現在5社6工場に導入されている。
  • DX成功の要因は、まず社長の理解があったこと。次に社内での権限を与えられ、必要なデータが収集しやすくなったこと。他社を知る森本さんの視点が活かされ、社内でも受け入れられたこと。補助金や認定などが活用できたこと。
  • 現在は、売上粗利を目標にした予算達成のための仕組みづくりの一つとして、独自の発注システムを開発中。アラリードについては、2024年度に事業部を子会社化して、本格展開していく予定。

企業情報

企業名株式会社オーカワパン
創業年月昭和24年9月
所在地〒910-0303
福井県坂井市丸岡町猪爪2丁目501
資本金2,400万円
従業員数105名
WEBサイトhttps://okawapan.co.jp/

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