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明確に設定したパーパスとビジョンのもとに、改革を推進【オプテックス株式会社】

1979 年5月設立のオプテックス株式会社は、翌1980年に世界で初めて遠赤外線利用の自動ドア用センサを開発したのをはじめ、センサの製造・販売一筋に発展してきた。2001年に東京証券取引所市場第二部(2003年に東証第一部)に上場した後、積極的にM&Aを進めて、ファクトリーオートメーションや画像検査用LED照明などの分野にも参入。2017年1月には、持株会社となるオプテックスグループ株式会社を設立して、子会社全社を傘下に収めた。
主要事業会社の一つとなったオプテックス株式会社の海外の売上比率は欧米や中東、アジアを中心に約7割と高く、12か国に拠点を置き、80か国以上に製品・サービスを提供している。
現在、世界中で動いている同社のセンサは3,000万台以上にのぼるが、大きな特徴は、同社のセンサは汎用的なものではなく、特定用途向けに特化したセンサであることだ。屋外侵入検知センサが世界シェア40%、監視カメラの認識率を上げる特殊なLED照明が世界シェア50%、自動ドアセンサが世界シェア30%・国内シェア55%、また独自の駐車場用車両検知センサを手がけるなど、グローバルでニッチな様々な分野でオンリーワン戦略を展開している。
また、オプテックスは2008年のリーマンショックをきっかけに、ビジネスモデルの転換と業務改革に着手。現在、ビジネスモデル変革(Business DX)、グローバル業務改革(Inner DX)、人財の強化の3つを積極的に推進している。2022年4月には、経済産業省「DX認定事業者」の認定を取得した。

オプテックス社におけるDX推進の考え方(提供:オプテックス株式会社)

オプテックスのDXの取り組みについて上村透代表取締役社長、事業推進本部の福根宣義取締役 兼 事業推進本部⻑、DX推進部の山下哲浩課長、経営戦略室の岡井良文広報担当マネージャーに、おうかがいした。

写真右から上村透代表取締役社長、福根宣義取締役 兼 事業推進本部⻑、DX推進部の山下哲浩課長、経営戦略室の岡井良文広報担当マネージャー

リーマンショックをきっかけにパーパスとビジョンを設定し、改革に着手

Q.御社は、いつごろ、どのようなきっかけでDXに取り組み始められたのですか?

もともとのきっかけは2008年のリーマンショックです。当社は1979 年以来、約30年間、世界各国に代理店を置いてセンサを販売してきました。その業態の課題がリーマンショックによって見えてきたのです。一つ目の課題は代理店中心に販売してきたため、市場ニーズが見えづらくなっていたこと。もう一つが、世界各国に商品を供給してきたため、国ごとにサプライチェーンをはじめとする各種業務がバラバラで行われていたこと。この2つの課題を解決するために、ビジネスモデルを転換し、業務改革を推し進めなければならないと考えました。前者を「ビジネスモデル変革」、後者を「グローバル業務改革」と名付け、2011年から取り組み始めました。

ビジネスモデル変革とは、製品は従来どおり代理店を通して販売しつつも、もっとダイレクトに市場にかかわり、市場の困りごとを把握して、新たなソリューションサービスを提供することです。一方のグローバル業務改革とは、グループ全社の業務をデジタル化、標準化して、生産性を向上させることです。

そして、2つの改革に取り組む前提としてパーパスとビジョンを設定しました。パーパスは「社会課題・特定市場課題をビジネスで解決し、安心・安全・快適な社会・暮らしを世界中に!」、ビジョンは「特定用途向けセンサ&ソリューションでグローバルNo.1を次々に生み出していく会社に!」です。

Q.改革を推し進めるうえで、パーパスとビジョンを設定されたのは、なぜですか?

当社がソリューションビジネスを展開しようと思えば、IoTなどの活用が必須になります。そうすると、社員の意識はどうしてもIoTの導入に向いてしまう。当時、「IoT」という言葉が流行りだしていただけに、ついついそれが目的になってしまいがちです。

でも、そうじゃない。「IoT」はあくまでも手段であって、目的は市場の困りごとを解決することです。それを社員に知らしめるために、パーパスとビジョンを明確に表明しておかなければならないと考えました。

その後、2015年か16年ごろだったと思いますが、世の中で「DX」という言葉が言われだしたので、「ビジネスモデル変革」を「Business DX」、「グローバル業務改革」を「Inner DX」と呼ぶようにしました。しかし、ここでも重要なことは、DXとはパーパスやビジョンを実現するための手段であるということです。

製品の製造・販売に加えて、ソリューションビジネスを開発・展開

Q.御社は現在、ビジネスモデル変革(Business DX)、グローバル業務改革(Inner DX)、人財の強化の3つを大きな方針として掲げています。ビジネスモデル変革(Business DX)については、具体的にどのような取り組みをされていますか?

代表的な事例をいくつか紹介しましょう。

当社の主力製品に防犯用のセンサがあります。施設の侵入口や住居の玄関などにセンサを設置して、異常を感知するとモニタリングセンターに通報がいくようになっています。アメリカやイギリスではそれが警察に伝えられ、異常が感知された場所に警察が駆けつけるようになっています。ところが誤報が非常に多いのですね。よくあるのが、警戒を解除し忘れたまま従業員が建物に入るケース。あまりに誤報が多いため、2回続けると罰金が科せられたり、ついには通報があっても警察が動いてくれない状況も生まれたりしています。

そこで、当社はアメリカのベンチャー企業と共同で、従来のシステムにアドオンできる新たな仕組みを開発しました。センサが異常を感知すれば、同じ場所に設置している監視カメラの映像を同時にクラウドにあげて、モニタリングセンターの画面に通報と一緒に映像もポップアップされる仕組みです。映像を見れば、不審者の侵入なのか、誤報なのかが判断できます。当社はかつてセンサの販売しかしていなかったのですが、2018年からこの新サービスも月額で提供しています。

オプテックス社の提供するアラームモニタリング+画像監視サービス(提供:オプテックス株式会社)

もう一つ事例として、当社の自動ドアセンサにゲートウェイ通信機能をプラスし、自動ドアの稼働状況を遠隔監視できるプラットフォームを構築しました。自動ドア設置業者は年に4回ほど現場に定期点検に行っていますが、遠隔監視できるようになり、年1回の定期点検で済むようになりました。自動ドア設置業者の人手不足を解消するとともに、エンドユーザーの保守費用削減につながっています。

同じく自動ドアセンサに付加した新サービスとして、マーケティングを支援するサービスがあります。

自動ドア遠隔モニタリングサービスのイメージ(提供:オプテックス株式会社)

Q.そのサービスの事例もお聞かせください。

当社の自動ドアセンサは国内で100万か所以上に設置されています。そのドアを通る人は毎日、何千万人にものぼる計算になります。

当社は、この自動ドアセンサにID情報を発信する Beaconの機能を搭載しました。Beaconが発信するBluetooth信号が届く範囲内に、信号を受信できるスマートフォンがあると、それを感知して位置情報をサーバに送信します。逆に、サーバからスマートフォンに広告などの情報を送信することもできます。これを利用すれば、自動ドアセンサに近づいた人に、その人向けにピンポイントで情報が発信できます。例えば、お店の自動ドアを通って中に入った瞬間に、その人にあったクーポンを配信することができます。自動ドア周辺が広告メディアになるというわけです。

この仕組みは、ホテルのチェックイン・チェックアウトにも使えますし、マンションであれば、エントランスを通った住民に回覧板を配信することもできます。自動ドアセンサを数多く供給している当社ならではのプラットフォームビジネスです。

オプテックス社ならではの新たなプラットフォームビジネスも展開(提供:オプテックス株式会社)

Q.新しいソリューションサービスの事業評価は、どのようになさっているのですか?実績の上がらないケースでは、続けるかどうかをどのように判断されているのですか?

当社は、センサ単体の製造・販売だけをしていた時代から時間をかけて新製品を育ててきました。KPIを設定してモニタリングはしていますが、実績が上がらなくても最低3年は続けます。3年ぐらい経たないと結果は出ないと考えています。ソリューションサービスの事業化にはそれ以上、5年ぐらいかかると思っています。

むしろ、開発に着手する前に、ビジネスモデルが描けるかどうかの評価に重きを置いています。製品・サービスの質が良いことは当然として、それで本当にお客様の困りごとを解決できるのか。お客様が対価を支払っていただけるのか。あるいは、いくらなら支払っていただけるのか。どのような方法で課金するのか、など。そこを見極めてから開発にかかれと口酸っぱく言っています。

新しい技術やノウハウが揃うのを待つのではなく、まずは小さくやってみる。

Q.ありがとうございます。新たなソリューションサービスを開発するためには、従来のICTとは異なる新たな技術やノウハウが必要になると思います。そのようなリソースは、どのように入手されているのですか?

自社にないものは、外部から調達したり、専門会社と提携したりしています。ただし、重要なことは、まず社内でやってみることです。何度も申しあげますが、ICTは手段にすぎません。忘れてはならないのは、何のために必要であるかということ。

当社では、まず解決しなければならない市場の困りごとが何であるかを明確にし、それを解決するために小さい規模でR&Dを立ち上げます。そして、テストを繰り返し、試行錯誤しながら事業化につなげていきます。そのプロセスで足りない技術やノウハウがあれば、外部から調達するようにしています。つまり、技術やノウハウが揃ってから始めるのではなく、まずは課題解決に取りかかるということです。

次に重要なことは、外部調達するための“目利きの力”ですね。有名な企業だからとか、最新技術だからではなく、課題解決には何が必要であるかという視点で目利きすることが大切です。そこで、できるだけ多くの会社とコミュニケーションを取ります。もちろん、うまくいかないこともありますが、そういうときは、最終的に何を実現したいのかという原点に戻って新たな先を探します。

いずれにしても時間はかかります。実際、ビジネスモデル変革は2011年から動き出したのですが、最初に事業化できたのは2015年のことで、4年かかりました。

Q.ビジネスモデル変革、つまり、Business DXは事業単位で取り組まれているのでしょうか?

そのとおりです。市場の困りごとを解決するには、必然的に事業単位で取り組むことになります。ただし、各事業がバラバラに取り組んでいては、限られたリソースが分散して効率的な運用ができませんし、相乗効果も生まれません。そのために、かつての情報システム部門をDX推進部に改組し、Business DXとInner DXの両方について、全社の取り組みを包括的に見るようにしています。

日本を皮切りに世界の全拠点にERPを導入し、業務の標準化を達成

Q.グローバル業務改革(Inner DX)では、どのようなことに取り組まれているのでしょうか?

主な取り組みは、統合基幹業務システム(ERP)の導入です。冒頭に申しあげたとおり、当社は以前からグローバル展開してきましたが、各国で業務のやり方がバラバラで非効率になっていました。グローバルに業務のデジタル化・標準化をするためにERPのデファクトスタンダード、SAPを導入したのです。

Q.SAPはスタンダードな統合システムですが、現場の業務のやり方を変えて標準化するのは難しいと聞くことがあります。

おっしゃるとおりです。当たり前ですが、従来のやり方にSAPを合わせるのではなく、SAPにあわせてやり方を変えなければ、標準化は進みません。

当社はまず、日本国内から導入を始めました。日本における業務が複雑で多様であること、日本特有の商習慣への対応が必要であること、利用者数が最も多いことなどがその理由です。同時に、海外の情報も集め要件に組み込みながら、テンプレート化を進めました。現場は業務のやり方を変えることには腰が重かったと思いますが、トップの意向を汲み協力をしてもらいました。 その後本社での稼働を確認し、子会社へのロールアウトを始めました。

Q.海外はスムーズに導入が進んだのですか?

スムーズに進む予定だったのですが、新型コロナの影響で渡航できなくなり、一時期は予定がガタガタに崩れました。それを当初の予定に持ち直せたのは、リモートでオランダに新会社を立ち上げた経験が大きかったですね。

イギリスがEUから離脱したのを機に、当社のヨーロッパにおけるビジネスの体制を大きく変更する必要があり、新規に法人を設立することになりました。折しも、ちょうど新型コロナの感染が急拡大しはじめていたので、現地に出向けませんし、現地メンバーもリモートワークでした。いわば、バーチャル法人設立です。この経験が海外拠点へのSAP導入に役立ちました。

Q.一般論ですが、海外は国内と同じようにはトップダウンが利きにくいと聞くことがありますが……。

ちょうどセキュリティ対策を強化しなければならない時期と重なっていたので、それとセットで導入を図りました。海外もコンピュータウイルスに対する危機感は強く、対策を本社DX推進部が主導して実施していきました。これでSAP導入にも前向きになってくれたと思います。

今年2023年の夏に海外のすべての拠点への導入が完了し、グローバルレベルで標準化が達成できます。計画を立案したのが、2018年。翌2019年から日本への導入に着手しているので、今年2023年の夏に完成するまでに5年かかりました。

人財の強化を重視しつつ、スキルの取得が目的にならないように。

Q.先ほど、最初は小規模なR&Dからスタートするとおっしゃいましたが、たとえ小規模でも、従来のモノづくりの技術と異なるスキルが求められるはずです。現場では、どのようにしてスキルを習得されているのですか?

まず申し上げたいことは、当たり前ですが、新たなスキルの習得が目的ではないことです。目的は、お客さんの困りごとを解決することであって、最初にスキルありきではない。当社の社員は、その点をよく理解してくれています。どうすれば解決できるのか、そこから仕事に一生懸命取り組んでくれていますので、そのために必要なスキルやツールがあれば研究する。自社で育成するのが難しければ、外部のリソースを導入する。そのような考え方や姿勢で開発に取り組んでいます。

もちろん、そうはいっても学習は必要です。人財の強化は大きな方針の一つですので、様々な手立てを打っています。

Q.人財の強化について、具体的にどのような施策をとられているのですか?

一つは、全社的にICTのリテラシーを底上げするために、ITパスポートの取得を全社員に推奨しています。さらに、DX推進部の管理のもとに技術標準化委員会を運営し、電気や機械、ソフトウェア、クラウドなどカテゴリー別にワーキンググループを立ち上げています。ここで技術レベルをあげながら、全社の標準化を進めています。一方で、営業社員に対しても、お客様にソリューションを提案するために、ICTの勉強会を行っています。

新しい試みとしては、講習型の勉強会ではなく、社員が自主的に学習する「学びの場」を会社が提供しています。それぞれ自分で選んだテーマを持ち込んで自習する場です。アンオフィシャルなコミュニティのようなものだと思ってください。黙々と自習するので「もくもく会」と呼んでいます。そこに行けば、誰かが自習をしているので、わからないことがあれば互いに教えあっています。

Q.最後にお聞きしますが、DXをうまく進めるのは、何が重要だと思われますか?

ここまでお話ししたことと重なりますが、第一に、ICTにしてもDXにしても、あくまでも手段であるとしっかり認識することです。そのためには、目指すべきパーパスやビジョンを明確に設定することが重要です。

第二に、手段である以上、技術を習得するのを待って開発に取り組むのではなく、できるところから小さくスタートすること。試行錯誤しながら、必要な技術を採り入れていくというスタンスが重要です。

まとめ

  • オプテックスは2008年のリーマンショックをきっかけに、ビジネスモデルの転換と業務改革に着手。現在、ビジネスモデル変革(Business DX)、グローバル業務改革(Inner DX)、人財の強化の3つを積極的に推進している。
  • ビジネスモデル変革(Business DX)では、当社の主力製品であるセンサを核に、IoTや通信、クラウドサービスを活用して、市場の困りごとを解決する数々のソリューションサービスの提供に取り組んでいる。
  • 新しいソリューションサービスの事業化は5年ぐらいかかるものなので、その間、顕著な実績が上がらなくても結論を急がずに続けている。むしろ、開発に着手する前に、ビジネスモデルが描けるかどうかを評価することに重きを置いている。
  • グローバル業務改革(Inner DX)の主な取り組みはERPの導入である。極力、カスタマイズせずに開発してまず日本で導入。それをテンプレートに世界各地の拠点に順次導入。2023年の夏にすべての拠点への導入が完了し、グローバルレベルで業務のデジタル化・標準化が達成する。
  • 人財の強化も大きな方針なのだが、重要なことは新たなスキルの習得を目的にしないこと。お客さんの困りごとを解決するために必要なスキルやツールを研究し、自社で育成するのが難しければ外部のリソースを導入するという考え方や姿勢で取り組んでいる。
  • DXをうまく進めるために重要なことは、第一に、ICTにしてもDXにしても、あくまでも手段であるとしっかり認識すること。そのためには、目指すべきパーパスやビジョンを明確に設定することが重要である。
  • 第二に、技術を習得するのを待って開発に取り組むのではなく、できるところから小さくスタートすること。試行錯誤しながら、必要な技術を採り入れていくというスタンスが重要である。

企業情報

商号オプテックス株式会社
事業内容各種センサー・ソリューションの企画・開発、販売など
代表者代表取締役社長 上村 透
本社所在地〒520-0101 滋賀県大津市雄琴5-8-12
TEL:077-579-8000(代表)
資本金3億5,000万円
設立2017年1月1日 *2017年1月より持株会社へ移行
WEBサイトhttps://www.optex.co.jp/

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