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紙を兼用したハイブリッド方式でDXを推進し、会社の立て直しに成功【東福鍛工株式会社】

大阪市西淀川区の東福鍛工株式会社(1964年創業)は、鋼材加工技術のひとつである自由鍛造によって、工作機械部品素材や半導体部品等素材など多種多様な形状の部品素材を製造する会社である。特定の金型を使用せず、高温で熱した鋼塊を粘土のように圧力をかけ成形する熱間自由鍛造のルーツは、日本に古くから伝わる刀鍛冶の技術にある。大型鋼材を自由鍛造できる工場は全国でも少なく、最小35kg~最大7tまで難形状に対応できることを強みとしている。
2015年12月、先代社長の長女・田中君枝さんは、経営難に陥っていた家業を夫と共に承継し、夫婦で立て直しに着手した。兵庫で経営していたネイルサロンや茨城県にある持ち家を投げうち、夫と共に1歳の息子を連れて身重の体で帰阪。しかし、当時の会社では事務作業などがすべて手作業で行われており、肝心の社業の経営・財務の状況が見えてこない。社長である父も社員たちも諦めムードで、事業承継に非協力的だった。
そこで田中さんはものづくり補助金を活用し、作業の効率化と情報共有のためにDXを推進。受注・見積、生産管理、在庫管理など、個々の担当者しか把握していなかったデータを“見える化”することに成功した。「できるところからやったらいいやんスタイル」と「現場の導入ストレスを軽減するハイブリッド方式」のDXを提唱する田中君枝副社長にお話をうかがった。

担当者が抱え込んでいた業務の実態と経営状況を知るために、IT化を検討

Q:社業に携わるようになったころ、社内はどんな状況でしたか? また、どんなところに改善すべき課題を感じられましたか?

一番困ったのは、会社で何が起こっているのかさっぱり見えてこないことでした。事務関係はすべて紙、それも手書きで行われていて、担当者が自分の仕事を抱え込んでいるので、内容を把握しているのは、事務員と現場の担当者だけ。訊いてもロクに教えてくれない。受注・見積はFAXでやりとりし、在庫確認はノートに転記したメモをもって、何百とある鋼材の置き場へ見に行って探すといった具合で、非効率な仕事の進め方が目につきました。作った製品は勝手にポンポン出荷していくし、納品後の伝票処理も経理の担当者が仕切っていて、ほかの者にはわからない。

事業承継する前も個人事業主だったので経営は未経験ではありませんが、業務の実態や財務状況を把握しなければ、会社の立て直しなどできません。経営者は現場の細かいことまで知らなくてもいいという考え方もあるかもしれませんが、私は「全部把握したい派」。すべてをちゃんと知りたくて、システムを導入することでで“見える化”を図ろうと思い立ちました。

Q:どんなシステムを導入するかについては、どのようにして考えられたのですか? 当時の社員たちは、あまり協力的ではなかったそうですが、話し合われたのでしょうか?

私が一人で考えました。ひとつずつ部署を見てまわり、「ここはわかりづらいから、こうしたいな」と頭の中で何回もシミュレーションして案を練りました。これは私の持論ですけれど、当社のような10数人規模の会社では、合議制より一人で考えたほうがいいと思うんです。現場、事務、経理など立場の違う社員が集まって、それぞれ違う意見を言うと収拾がつかなくなる恐れがあります。

まずは経営者である自分が会社をどうしていきたいのかをとことん突きつめて、そのためにはどんな仕組みが必要かというところへ落としこんで考えていけばいいんです。システム導入は将来的にコスト削減につながりますが、システム会社への外注などは何百万円単位の投資ですから、経営者が費用対効果も含めて案を練るのが一番だと思います。

構想が5割程度まとまった時点で、補助金を使ってシステム会社に委託

Q:システム会社に委託して、ご自身で考えた案を実現されたんですね。システム導入までのプロセスをお話しください。

IT化を検討していたとき、ものづくり補助金の制度を知り、申請して通ったのを機に、本格的に取り組みはじめました。システム会社は知人に紹介してもらい、補助金を使って委託しました。でも、完全に構想がまとまっていたわけではなく、5割くらいの状態でした。補助金には使用期限があるので、「審査に通ったから」と見切り発車でシステム導入に踏み切ったんです。逆にそれがよかったように思います。完全なものを目指していたら、なかなかスタートできなかったでしょうから、「できるところからやったらいいやんスタイル」でGOしました。

システム開発中は、委託先の業者に任せきりにせず、「ここをああしてくれ、こうしてくれ」と随分やりとりを重ねました。私たちも背水の陣で会社の立て直しに臨んでいるのですから必死で、「なけなしのお金をはたいているんだから、しっかりやってもらわないと困る」と厳しいことも言いました。

Q:システムを入れて状況は改善されましたか?

はい。システム導入当初はパニック状態になることもあり、慣れるまでは大変でしたが、結果的には、個々の担当者の頭の中にしかなかった情報が“見える化”されました。受注されたものの納期や鍛造する時期が、タブレットやスマホを見れば全部わかるようになりました。ほかに鋼材の仕入・在庫管理もできるようになりました。

ケースバイケースで、タブレットと紙を併用するハイブリッド方式を採用

Q:社員からの反発はありませんでしたか?

仕仕事の抱え込みが激しかった事務員や、デジタルへの抵抗が強い古参の社員が退職したタイミングを見計らってシステムを導入したので、反発はそれほど強くありませんでした。それに、もともと5割がたの構想でスタートして、システムの機能を絶対視していなかったので、運用してみて不要な機能は除いたり、必要に応じて新しい機能を加えたりしていきました。社員の意見も聞きながらハイブリッド方式で改善していったので、現場の導入ストレスは軽減できたと思います。最初は、他社のDXの話などを参考に理想を描いていたのですが、製造業である限り、ものづくりの現場を大切にした取り組みにしないと、みんながしんどくなってしまうと思い、日々の働きやすさを優先しました。

Q:ハイブリッド方式とはどういうことですか?

何もかもデジタル化せず、紙のほうがいい場合はタブレットをやめて紙に戻すなど、部分的にアナログも併用するやり方です。最初は現場でもタブレットを使用する予定でしたが、1200℃の鉄の塊が縦横無尽に行きかう当社の現場には、精密機械は不向きです。そこで、出荷と検査はタブレット、現場は紙、とそれぞれの場所で使いやすいものに変更しました。ただ、紙は紙でも、以前のような手書きではなく、パソコンからの出力紙にしたので、以前より見やすくなりました。

ほかにも、少人数の場合は紙のほうが効率的な作業もたくさんあります。たとえば案件ごとのスケジュールなどは、システムと出力紙を併用して管理しています。出力してフォルダーに入れておくと、いちいちパソコンやタブレットでアクセスする手間がいらないので、皆ちょっとした空き時間に気軽に見ていけます。書き込むことができるのも紙の長所です。出来上がり寸法などの検査の際はタブレットやスマホで見ながら、紙でチェックしています。

導入後は外注コストをかけず、社内でアイデアを出し合ってシステムを改善

Q:システム導入後の改善や微調整も、システム会社に委託したのですか?

いえ、外注はせず、フリーソフトを使って補うなど、自分たちのできる範囲で工夫しています。お金をかければ素晴らしいシステムができるかもしれませんが、いかにコストを抑えて、使いやすいシステムにしていくかが中小企業においては最大のテーマだと考えています。コストカットのため私自身もプログラミングを学んで、重量計算ソフトなどは自力でプログラムを組みました。大学時代に情報処理の授業でゲームを作ったりしていたので、素地はあったので助かりました。

Q:導入後は、社員からも意見を聞いて、システムを改善していったのですか?

はい。最初は私が一人であれこれ考えていたのですが、途中からアイデアを出し合うようになり、みんなでシステムをどんどん進化させていきました。

案件ごとのスケジュール管理システムがその一例です。自由鍛造というのは、毎日違う製品を作って、毎回違う取引先のもとに納品するので、管理が大変です。何か便利な方法はないかと考えていて、あるときふと、スマホのカレンダー機能を使えないだろうかと思いつきました。無料だし、試しに入力してみたら、案件ごとの流れがぐっとわかりやすくなったので、社員たちに見せると「これはわかりやすい!」と好評だったんです。そうしたら、みんな普段からスマホを使い慣れていたからか、「工程ごとに色を変えたら、もっとわかりやすくなるんちゃうか」みたいなノリで、あれよあれよと改良されていきました。

今では、受注したらブルー、鍛造の工程に入ったらグリーン、検査が終わったらイエロー、出荷したらレッドと色分けされて、進捗が一目でわかるようになりました。こういうシステムは、一から業者に発注して作ると莫大な費用がかかりますが、当社くらいの規模であれば、スマホに搭載されている機能でも十分です。若い社員たちは総じて、デジタル機器に慣れ親しんでいるので、任せることも大事だなと気づきました。

現状、不自由していなくても、将来を考えたらDXは必要不可欠な過程

Q:デジタルツールの導入・活用に苦労している会社の話もよく聞きます。中小企業でDXをうまく進めるためには、どういう心構えが必要だと思われますか?

中小企業といっても、社員数が100~ 200人の会社もあれば、当社のように10数人規模の会社もあるので、いろいろですが、私の場合は切実に困っていたことが原動力になったと思います。異業種から飛び込んで、社内の仕事の流れがわからず教えてくれる人もない中、会社を立て直すために何がなんでも知らなければならないという強い思いと危機感がありました。「DXをしよう」と思って始めたのではなく、「知りたい」という目的のために、デジタル化という手段を用いたわけです。自分が知りたいと切実に思っていなければ、DXもうまくいかなかったかもしれません。

昔からのやり方でそれなりにやっていけている会社が、ただ便利だからという理由だけでデジタルツールを取り入れようとしても、なかなか進まないのではないでしょうか。確かにDXを推進すれば、データ管理はしやすくなり無駄も省けますが、従来のやり方を変えるのも大変なことですから。当社の場合も、外から来た私にはわからないだけで、会社としては普通に機能していました。でも、私にわからないということは、次に入社してくる人たちもわからないはずです。事務作業にしても、今後若い人が入社したとき、「紙を使って手書き」では絶対やらないですよね。ですから、自分たちが不自由していないから必要ないと思わず、次の世代、ひいては会社の将来も真剣に考えなければいけません。いずれ事業承継する予定なら、「こういうツールがあれば、後継者に引き継ぎやすい」というところから考えるといいと思います。

Q:振り返ってみて、DXがうまくいった要因はどこにあると思われますか? DXを推進して成果を上げるための秘訣があれば、教えてください。

先ほどもお話ししましたが、どんなシステムが必要か、最初は私一人で考えたことがまずひとつ。小さい会社の場合、合議制では物事が進まないように思うからです。次に、完全にアイデアがまとまるのを待たず着手したこと。補助金に「いつまでに使わなければならない」という制約があったからなのですが、結果的にはよかったですね。とりあえず運用を開始して、走りながら社員とともに改善していくことによって、気持ちをひとつにして取り組むことができたように思います。

特別なビジョンを描かなくても、日々のやりやすさの積み重ねが未来につながる

Q:DXについては、将来的にどんなビジョンを描いていらっしゃいますか?

いや、DXに関しては、ビジョンなんて大それたものは特にないです。まあ、なるようになるかと……。日々のやりやすさの積み重ねが結果的にうまく回っている、というくらいでいいと思っています。何が何でもDXしなければ、と気負いすぎると心が折れてしまう、といろんな方から伺ったので、ぼちぼち進めていくつもりです。そうこうしているうちに、新しい便利なシステムが開発されて世の中にでてくるでしょうから、よさそうなものがあれば試して一歩前進、という軽いスタンスで考えています。

Q:今後の課題として、取り組んでいることはありますか?

今考えているのは、子育て中のワーキングママが家にいてもバリバリ働けるリモートワークの仕組みづくりです。それって、私のことなんですけど、この会社にきたとき、上の子は1歳、下の子はお腹の中でした。夫とともに仕事しているとはいえ、小さい子どもがいると病気になったときなどは出社できません。これまでも会社の電話やFAXを家でも受信できるようにしていましたが、将来的には、地球の裏側にいても会社にいるのと変わらないレベルで仕事できるような環境を整えたいですね。私をモデルケースとして、若い女性社員が安心して長く働き続けられる会社にしていきたいです。

あと、すでに始めているのが、ホームページを活用した営業活動です。ホームページにはかなりこだわりをもっていて、直接営業に行けない分、どうやったら検索・閲覧から受注に結びつくのか、日々考えて工夫しながらコンテンツを充実させています。

まとめ

  • 東福鍛工株式会社は、金型を使わず、約1200℃の炉で熱した鉄塊をプレスやハンマーで成形する熱間自由鍛造の会社である。2015年に先代社長の長女・田中君枝さんが事業承継し、会社の立て直しに取り組みはじめた。
  • 当時、受注・見積、生産管理、在庫管理などはすべて手作業で行われており、担当者しか内容を把握できない状態だった。経営者として社業がわからないことを危惧した田中さんは、システム導入を推進し、データを“見える化”することを決意した。
  • 小規模の会社では合議制だと意見が出すぎてまとまりにくいと考え、どんなシステムを入れたら良いか、田中さんが一人でアイデアを練っていった。構想は100%ではなかったものの、補助金には期限があるため見切り発車で着手した。これがかえって良い結果を生んだ。
  • システム導入後は、タブレットと紙を併用するハイブリッド方式で進めた。最初は田中さんが一人で考えていたが、スマホの機能を応用して提案したところ、社員たちがどんどん手を加え、システムを進化させている。
  • 会社のことがわからず、知らなければ会社を立て直すこともできないと切実に思っていたことが、DX推進の原動力となった。現状、不自由を感じていない会社も、後継者や次の世代の社員のことを真剣に考えると、DXの必要性に気づくはず。
  • DXについての将来ビジョンは特に描いていない。日々のやりやすさの積み重ねが結果につながるというくらいで良い。新しい便利なシステムがでてきたら、試してみるというスタンスで考えている。
  • 今後の課題は、子育て中のワーキングママがどこにいても会社と同じように働くことができるリモートワークの仕組みづくり。以前から力を入れている、ホームページを活用した営業活動もさらに展開していく方針である。

企業情報

創業年月日昭和39年5月1日
設立年月日昭和45年9月1日
会社名東福鍛工株式会社
住所〒555-0041
大阪市西淀川区中島2丁目13番28号
代表取締役清水 芳洋
資本金1,200万円
従業員数15名
WEBサイトhttps://www.toufuku-tankou.co.jp/

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