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大きな無駄を省き、適正な配送ルートを割り出すための農産物流通DX【東果大阪株式会社】

東果大阪株式会社は、大阪中央卸売市場東部市場内に本社を構える青果卸売会社で、JAなどの出荷業者と仲卸業者との間に立って青果を卸している。同社の親会社となるのが神明ホールディングス。米穀類の取扱量は国内トップレベルで、他にも青果や水産物、さらには外食産業の商品づくりや店舗展開も手がける食の総合企業である。
神明ホールディングスと東果大阪がいま取り組んでいるのが農産物流通DXだ。農産物流通の注文はいまだにFAXが中心で、無駄なところが多くあるという。デジタルを駆使して、効率的に、そして手間も無駄も省いた農産物流通を構築できれば、配送によるコストやCO2の削減、さらには食品ロスの軽減や卸売流通の新しい働き方につながる。
現状の農産物流通はどのようなものなのか? DXによって何をどのように変えようとしているのか? 神明ホールディングスの取締役経営管理本部長である森口俊彦さんと、東果大阪の総務部IT課の和田健太さんにお話を伺った。

農産物流通の壮大な無駄を解消できないかとDXに着手

Q.東果大阪は青果の卸売会社ということですが、卸売市場の仕組みは一般の人にはあまり馴染みがありません。わかりやすく説明していただけますか?

はい。大阪中央卸売市場自体は大阪市が公的に運営しています。東果大阪は卸売会社として、卸売市場内で営業する権利というか、許可をいただいて、JAなどの出荷業者から市場に届いた青果を仲卸業者へ卸す業務を担っています。

まず生産者が野菜や果物を産地にある出荷業者、つまりその地域のJAなどに持っていき、そこで選果が行われます。等階級をつけるんですね。これは大きいからLだとか、これはとても品質がいいから秀とか、ちょっと虫食いがあるから優だとか、選果した後に卸売市場へ送られます。

卸売市場の中には東果大阪のような卸売会社と、買参権をもっている仲卸業者がいます。買参権とは、卸売市場の競りに参加する権利です。卸売会社である東果大阪に届いた商品は、相対での取引や競りを通して仲卸業者に販売され、そこからスーパーや飲食店に販売されて、消費者が買ったり、食べたりするという流れが一般的です。

Q.卸売市場では、買参権をもつ仲卸業者しか買えないんですね。

そうです。ただ仲卸業者の数も限られているので、10トントラックで届けられた大量の青果が売れ残ることがあります。でも、売れ残りそうだからといって、産地から届いた商品を買い取らないわけにはいかないんです。

Q.えっ? 必要な数だけ仕入れることができないんですか?

法律で決まっているからです。受託拒否を禁止されていて、送られてきたものは全部受け入れなければなりません。だから余ることもしょっちゅうあります。そんなときは足りない卸売市場へ転送します。逆に足りないときは、他の卸売市場から買い取ります。

青果の卸売市場は全国には65か所あって、それぞれの市場に需要に関係なく商品が送られてくるので、余った商品が毎日のように市場間を行き来しています。先日も福岡のイチゴが大阪に入ってきたのですが、余ったものが近隣の仲卸や卸売市場ではさばききれずに、結局下関へ転送しました。大阪に届いた福岡のイチゴをわざわざ下関へ送り返すようなことも起こるのです。

Q.壮大な無駄を感じます。

そうなんです。もう一つ問題があります。サプライチェーンで、多額の経費がかかってるという問題です。農水省の発表では、サプライチェーンの物流費合計は、小売価格のうちの約22%を占めています。青果は単価が安い割には商品が重いので、家電製品や半導体に比べると物流費比率が高くなります。

また、物流の2024年問題も気になります。ドライバーの時間外労働が今以上に制限されて、その結果、1日350キロほどしか走れなくなると予測されています。つまり、九州から大阪へ一日で運べなくなります。東京まで運ぶにはどれだけ日数がかかることか。送る前にきちっと流通経路を決めるとか、最適に送る方法を考えることが重要になってきます。

さらに温度管理の問題もあります。産地で集めたときは常温です。そこからクール便で持ってきたとしても、卸売市場に入ったときには再び常温に戻ります。温度の変化は劣化の原因になります。こういった大きな無駄や課題を何とかできないのかと思ったのが、今回の農産物流通DXへ取り組むきっかけでした。

異業種からの目が無駄や課題を改善のきっかけになった。

Q.これまでの具体的な経緯をお聞かせいただけますか?

実は私、森口は転職組なんですね。以前は繊維業界にいました。そこから青果卸の世界に入ると、いまだに非常にアナログで無駄の多さに驚かされました。注文のやり取りもいまだにFAXです。出荷表がFAXで送られてきて、人が手入力でデータ化しています。小売からは一応EDIで発注が来るんですが、それを見ながらパソコンに手入力しているところがあって、なんて無駄な業界なんだっていう驚きが発想の起点です。

Q.業界の慣習にまったく馴染んでいない目で見るといろいろな発見があると言います。どのように改善していこうとお考えになりましたか?

現在、進めている構想をご紹介しましょう。先ほども言いましたが、卸業会社には受託拒否の禁止があるので、産地から送られてきた青果はすべて買わなければなりません。これが大きな無駄の生じる原因です。そこで、生産者側の供給予測と小売側の需要予測を事前に把握できれば、卸売市場での過不足をかなり解消できるのではと考えました。また、それがわかれば、配送ルートの最適化も図れます。ITを活用してそれを実現しましょうというのが概要となります。 まだ実証実験の段階です。昨年の実証実験は失敗しました。生産者と小売にも参加してもらったのですが、まだまだアナログの世界なので、データ入力が定着しないんですね。卸売市場に供給予測と需要予測のデータが届かなければ、話は始まりません。そこで、いま進めている実証実験は、参加者を神明グループ内に絞って行っているところです。

前回の失敗を糧に、範囲を狭めて2週間前から受発注の精度を上げていく。

Q.具体的には、神明グループのどの会社が参加されているのですか?

大阪の東果大阪と東京の卸売会社である東京シティ青果です。この秋からは岡山の大同印岡山大同青果へ広げようと考えています。参加するには手間がかかるので資本関係がないとなかなか動いてくれません。

Q.生産者と小売抜きで、どのようにデータを収集されているのですか?

卸売会社では従来も2週間くらい前から小売が必要とする数量を入手していました。スーパーでは、特売を打つときはチラシをつくる時間が必要なので、2週間ほど前に数量を決めます。例えば、この日にリンゴを100ケース欲しいという注文が2週間ほど前に営業社員のところへ届きます。それを受けて、営業社員は100ケースのリンゴを確保する動きにでます。もちろん、産地側から当日どのくらいの数量が届くかわかりません。それでも営業社員はできるだけ確保しようと努めます。

その後、全国の小売から必要数量が続々と届き出し、発注量の精度は徐々に上がっていって前日に最終決定します。つまり、アナログでやっている現在でも、営業社員一人ひとりの頭の中には大雑把な需要予測が入っています。ただし、あくまでも一人ひとりの頭の中だけ。営業社員全員で共有はできていません。それをデータ化して、全社で需要予測を共有しようというのが、いま進めている実証実験です。営業社員が小売から必要数量を聞くたびに、一人の頭の中に留めず、データ入力していっています。

Q.今後は、他の卸売会社にも参加を呼びかけていくのですか?

呼びかけていくつもりですが、すぐに参加していただくのは難しいと考えています。この仕組みが成果を上げるには、データが充実しなければなりません。そのためには、関係者全員がデータ入力に手間をかける必要があるのですが、データがそろってない現状で手間をかけても成果は得られません。データが不十分だから手間をかけるモチベーションが上がらず、手間をかけないからデータが充実しないという循環から抜け出すことの難しさです。

実際、いま進めている実証実験にしても、東果大阪で扱ってる全品目をデータ化しているわけではなく、まだわずかな品目しかデータ化できていません。300を超える品目のうちのわずか5品目程度ですが、それでも精一杯の状況です。しかも、生産者側のデータが未入力です。データ化とは縁遠い業界なので、先はまだまだ長いと思ってます。

アナログに慣れきった世界をデジタル化していくことの難しさ。

Q.つまり、最大の課題はデータ化にあるわけですね。

おっしゃるとおりです。明確な事前予測データが生産者側からも小売側からも上がってこないので、これまでの経験と勘といいますか、このシーズンだったらこれまでの経験でこれくらい必要になるとか、今年の天候状況からしたら出荷量はこれくらいだろうと予測を立てています。小売側も例年と同じような展開になりそうだから、このシーズンにはこれくらいの量の注文が上がってくるだろうとか、そんな予測をデータに起こし、修正して、精度を高めているところです。

先ほども申し上げましたが、いま届く情報はFAXです。否応なしに紙からデータに起こさざるを得ない現状です。仮にこれが川下からは注文がEDIなんかのデジタルデータでやってきて、川上の方からの納品情報も何らかのデジタルデータでやってくることができればしめたものです。あとはシステムに取り込んで、担当者が使うチェックリストに落とし込むだけで格段に効率は上がります。しかし、いまはそれができないのでオペレータを使って手作業で入力しています。

Q.あともうひとつ。実証実験とはいえ、運用するためには現場の人たちに使っていただかなければなりません。その啓蒙なり、普及の工夫はどのようにされていますか?

東果大阪や神明グループ内への浸透という意味では、まずはシステムの使い勝手を簡単にしなければいけないと考えました。今までのFAXのやり取りよりも、このシステムを使ったほうが便利だと感じてもらわなければなりません。もうひとつは危機感を上手に利用すること。今は儲かっているけれど、これから先、世の中はどんどん変わるので自分たちも変わらなければいけないのではないかという意識を育むことです。

NTTと同社の目的が合致したことで、第一歩を踏み出した。

Q.システムはどのようにして開発されているのですか? 具体的には、どのような機能を備えているのですか?

ありがたいことに、今回の実証実験はNTTと一緒に行っています。実証実験で使ってるシステムはNTTが用意してくれて、その運用もご担当いただいいます。

主要な機能は2つあります。ひとつは需給数量のマッチングです。100ケース欲しいときに80ケースしか入らないとした場合、足りない20ケースをどこからどのように入手するのかというマッチング機能です。

もうひとつは物流のマッチング。最適ルートの構築です。この出荷分と別の出荷分を合わせて10トン車に満載するとか、途中のどこでどれだけ受け取ってもらうかなど。こういったところにNTTの技術が活かされています。いまはシステムを上手に活用して、どう動かせば効率的か、そのノウハウを集めている段階です。

Q.NTTと協業することになったきっかけは?

NTTも偶然、同じような問題意識を持っていたようです。当初は神明ホールディングスへ話があったのですが、流通のことなら森口の所へ行けと言われたそうです。当時、森口は東果大阪へ出向していたものですから、東果大阪の和田も巻き込んで動き出したという次第です。NTTからご提案いただいたのが2021年の夏頃です。その年の11月にプレス発表にこぎ着けました。

Q.システム開発にかかる投資は、どのようにされているのですか?

神明ホールディングスと東果大阪の費用負担はありません。NTTも外部へのキャッシュアウトはあまりしていないと思います。お互いの内部のリソースを使って進めています。当社でいえば森口や和田が動き、営業社員が実証実験に参加します。NTTも同じだと思います。

夢は大きく、農産物流通のインフラを整備すること。

Q.ありがとうございます。現在は実証実験の最中ですが、これがうまく回るようになった次の一手というのはどういうことをご計画されていますか?

具体的にはまだ十分に描けていません。神明グループ内だけで独占的に使うのか、外へ門戸を広げるかは明確に決まっているわけではなく、今後はNTTとも協議をしながら進めていこうと考えています。NTTも非常に興味を示してくださっているので、ITベンダーとしてだけでなく、もしかしたらNTTが青果卸業をやっている可能性もあります。

Q.全国には卸売市場が65か所あるわけですから、これをネットワークすると、すごいことになりそうです。

はい。めざしているのは業界の標準スタンダードな仕組みにすることです。今は神明グループ内で実験していますが、成果を広く開放して生産者や小売も使ってもらえるようにすること。そうなると日本の農作物流通のインフラになります。現在の青果流通額は日本だけで年間3.5兆円くらいですが、その内の1兆円くらいの流通を担えればと大きな夢を描いています。

まとめ

  • 出荷業社から送られてきた青果はすべて受け入れなければならないという法律により、卸売市場内で過不足が発生し、その過不足を埋めるために、全国に65か所ある卸売市場間で毎日のように商品のやり取りをするという大きな無駄が生じている。
  • 農産物流通の受発注のやり取りはいまだにFAXが中心で、関係者間で情報の共有ができていないアナログの世界。これまでの商慣習になれきっていて、疑問を抱く人もあまりいなかった。
  • 異業種から転職してきた人物を中心に、農産物流通の無駄や不便を解消するために構想しているのが、農産物流通DXだ。出荷側の供給と小売側の需要をデータ化することで、無駄な配送をなくすことが目的である。
  • 1回目の実証実験は、川上の出荷業者も川下の小売も巻き込んで行ったが、データ入力がなかなか進まずに断念。2回目の実証実験では範囲を狭めて、神明グループ内で行っている。
  • 2回目の実証実験もはじまったばかり。いまのところグループ内の2社が、取扱品目を数品に絞り、営業社員が入手した数量を社内のオペレータが手入力して実施している状況だが、徐々に参加企業と取扱品目を増やしていく予定。
  • システム開発と分析はNTTが担当し、神明グループがシステムを活用して毎日の実証実験作業を行っている。将来、どこまで門戸を広げていくかは未定で、もしかしたらNTTが青果卸業をやっている可能性もある。
  • 現在の青果流通額は日本だけで年間3.5兆円くらいだが、将来は業界の標準スタンダードな仕組みとして、そのうちの1兆円くらいの流通を担うインフラに発展させていきたいと、神明グループは大きな夢を描いている。

企業情報

社名東果大阪株式会社
創業年月日昭和39年11月25日
資本金1億円
代表者代表取締役社長 矢野 裕二郎
所在地〒546-0001
大阪市東住吉区今林1丁目2-68
大阪市中央卸売市場東部市場内
事業内容日本全国はもとより、世界各国の野菜や果実を取扱い仲卸業者及び買参人に販売する
WEBページhttps://www.toka-osaka.co.jp/

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