DX関連

DXに関連する様々な情報を
掲載しています

  1. HOME
  2. ブログ
  3. AM
  4. 短期の業績を追わず、長年の研究を積み重ねて、画期的新製品が誕生【大阪冶金興業株式会社】

短期の業績を追わず、長年の研究を積み重ねて、画期的新製品が誕生【大阪冶金興業株式会社】

大阪冶金興業株式会社は、1941年10月に金属熱加工業を営む会社として創業。戦後、1969年から国内では先駆けとなる真空熱処理を始め、以降、この技術をメインに事業を発展させてきた。現在では金属熱加工事業、金属粉末射出成形(MIM:メタルインジェクションモールディング)事業、金属積層造形(AM:Additive Manufacturing)事業の3つの事業を展開している。真空熱処理事業の代表的な製品は、火力発電所のガスタービンのブレードや「はやぶさ」をはじめとする宇宙探査衛星の部品などがある。1991年から本格的に参入したMIM事業では、技術的な難易度の高さから国内では30社程度しか手がけられないなか、同社の特徴は大型部品も成形できることだ。さらに2014年には、3次元金属積層造形装置(3Dプリンタ)を導入し、最先端の設備とそれまで培ってきた技術を融合させることで、AM事業を新たに展開し、主に精密な医療機器を製造している。

今回はものづくりの抜本的な変革が期待されるAMに関して、寺内俊太郎代表取締役、土井研児取締役技術部長、破魔雄平営業課係長に、同社の取り組みをおうかがいした。

15年の歳月をかけて完成した、AMによる人工骨

Q:早速ですが、AM事業はいつごろ、どのようなきっかけで着手されたのですか?

着手したのは2013年です。ちょうどそのころ、当社ではMIM(金属粉末射出成形)を使ってチタン製の人工骨を開発しているところでした。脊椎の骨と骨の間に差し込むスペーサーという製品で、脊椎の変形の治療に使われます。MIMによる人工骨の開発は、すでに2003年からスタートしていました。

一方、同じ時期に、京都大学ではAMで、同じチタン製のスペーサーを製造する研究をしていました。ところが、これがなかなかうまくいかず、共同開発にかかわっていた企業が、見通しが立たないと判断して撤退することになりました。京都大学側はあきらめることはできず、MIMで開発していた当社に、金属3Dプリンタのプロジェクトも引き受けてくれないかと打診があったのです。どちらも金属粉末を素材にするという共通点があるので、引き受けることにしました。このときから2つの技術で同時並行的に人工骨の開発がスタートしたわけです。

Q:金属粉末が共通要素であることはわかりますが、製造法はかなり違うので、共通性はあるのでしょうか?

説明が必要ですね。では、まずMIMについて説明しましょう。

一般的に金属製の部品は、切削や圧造などで製造されます。それに対して、MIM(金属粉末射出成形)とは、その名のとおり、金属の粉末をプラスチック樹脂の射出成形と同じ方法で成形して製造する方法です。このとき金属の粉末だけではサラサラで固まらないため、いったん金属の粉末と樹脂とを混ぜあわせて粘土状にしたものを射出成形します。しかし、このままでは樹脂が混じったままですので、熱をかけて樹脂を飛ばして焼き固めます。それによって金属だけの最終部品に仕上がるのですが、樹脂が飛んだ分だけ寸法が縮みます。縮んだ結果が適正な寸法にならなければならないので、逆算して成形の際には少し大きめの寸法にしなければなりません。少し大きめに成形し、熱処理で焼き固める際に縮み方をコントロールしながらジャストの寸法にする。これがMIMの非常に難しいところです。

このMIMの特徴を逆手にとって、人工骨の開発にチェレンジすることになったのです。つまり、逆転の発想で、熱をかけて樹脂を飛ばす際に縮ませるのではなく、樹脂の飛んだあとの微細な空洞を残すようにしたのです。

Q:なぜ、わざわざ微細な空洞を残すのですか?

昔のスペーサーは、患者さん自身のお尻などの骨を削って粉にしてフレームに詰め、それを脊椎の骨と骨の間に差し込んでいましたが、患者さんの負担を減らすために、自分の骨を削らなくても良いスペーサーの開発が望まれていました。スペーサーは骨と一体化することと、骨と同等の強度であることが求められました。微細空洞を有することで、骨が空洞内部まで成長してスペーサーと一体化します。また、金属の塊ではなくスポンジ状にすることで、スペーサーの強度を下げて骨と同等になるよう調節することができました。逆転の発想で、樹脂の飛んだあとの微細な空洞を残すようにしたのは、そういう理由です。

ただし、熱処理をする際に空洞の分布をコントロールすることはできません。成り行きに任せるしかありませんでした。それに対して、AMであれば、微細な空洞が望ましい分布になるように設計・製造することができます。AMのこの大きな特長を活かして、研究開発を進めました。

人工骨を生身の骨になじむようにし、特殊な表面処理を施して骨が再生できるようにする技術は、京都大学の医師と共同で開発しました。一方の金属3Dプリンタの活用についても専門の研究者にお力添えをいただき、開発途中の様々な難題を解決しました。

複雑な形状をつくれても、それだけでは使用に耐える金属組織に仕上がらない

Q:どのような難題があったのか、差し支えなければ、お聞かせいただけませんか。

当時はまだ金属3Dプリンタがいまのような一般的な技術ではありませんでした。そもそも3Dプリンタという言葉自体がなくて、「積層造形技術」と言われていました。それでも日本には非常に先駆的に、しかも地道に「積層造形技術」を研究されていた研究者がいたのですね。そうした専門家を探し出して、お力添えをいただいたわけです。

難題をあげれば切りがないのですが、一つ重要な課題を挙げておきましょう。3Dプリンタを利用したものづくりは、切削や圧造などの代わりを務めるだけでなく、切削や圧造などではできなかった複雑な形状をつくることができます。これが大きな特長ですが、見落としてはいけないのは、形状が完成してもそれだけでは求める金属組織が得られないことです。本来、焼き入れたり鍛錬したりして、初めて使用に耐える金属組織が出来上がります。その金属組織を3Dプリンタで再現するのは非常に高度な技術がいります。材料の特性や熱処理について知り尽くさなければ簡単にはできません。しかし、これができなければ、いわば「形をつくって魂を入れず」になってしまいます。魂を入れる手法が「冶金」なのです。おそらく、これから金属3Dプリンタを使われる企業の多くは、この課題でつまずくことになるのではないでしょうか。

Q:概略は理解できたと思います。ただ、製造現場では理屈どおりにいかず、ご苦労があったのではないですか?

おっしゃるとおりです。理論的に設計しても、実際に製造すると不具合が生じることが続きました。例えば、金属3Dプリンタは金属粉末をレーザーで焼き固めながら、その層を積み上げて造形していくのですが、造形の対象とならない金属粉末は粉末のまま残ります。最終的に残った粉末はきれいに除去しないといけないのですが、微細な空洞に残る粉末を効率よく完全に除去できなければ事業にはなりません。

当社は中小規模のメーカーには分不相応ともいえるほど、分析装置や検査装置が充実しています。そうした装置を駆使して試作品を分析・検査し、問題が生じるたびに解決策を探り、設計へのフードバックを繰り返しました。そのため、非常に時間がかかりましたが、2018年、金属3Dプリンタによる人工骨の製造に成功しました。

MIMによる人工骨の開発は2003年からスタートしたので、それから数えて15年に及びます。金属3Dプリンタのプロジェクトを2013年に引き受けてからでも5年かかりました。

短期間で成果を追い求めていては、真のイノベーションは起こらない

Q:難題を解決する技術力は、どのように培われているのでしょうか?

二つお話しできることがあります。第一に、その道の研究を続けている専門家の協力を仰いでいます。そのためには、大学の先生や民間の研究者とのコネクションを大切にしなければなりません。人工骨の開発でご一緒した京都大学の先生とは、その後も交流を続けています。

また、当社は、民間の大手企業を定年になり、その後も研究を続けられている研究者を5名顧問として迎え入れています。全員70歳を超えていますが、もちろんまだまだ現役です。定年が伸びたとはいえ、日本の多くの組織が65歳を定年としています。しかし、65歳はまだまだ働き盛りですよね。その歳で研究・開発の現場から引退するのは、もったいない限りです。個人的には、SDGsの観点からも働く意欲のある方々には働ける環境を提供するべきだと考えています。

少なくとも当社では、65歳以上の方々を迎え入れ、長年にわたり研究を重ねて培われた知見をお借りしています。当社にとっては貴重な無形財産であり、顧問の皆さんにとっては、研究成果を活かす場となっていますので、やりがいを感じていただいていると思います。

Q:もう一つは何でしょうか?

第二に、製造現場では、先ほども申しあげたとおり、専門家に協力を仰ぎながら、試行錯誤の繰り返しで課題を解決していっています。そのために時間をかけることは、いといません。短期間で成果を求める企業が少なからずありますが、イノベーションは3年や5年で簡単に生まれるようなものではありません。ですので、当社は期限を設けていません。人工骨一つとっても開発に15年をかけましたから。

逆に言うと、やる気を持ち続け、まじめに仕事に取り組めば、道が拓けることがあるのです。当社の幹部クラスは、もともと大学で熱処理や積層造形技術を学んだ者ではありません。それどころか、商学部や経済学部の出身です。それでも長年、当社で働きながらともに切磋琢磨して、技術的に難易度の高い製品を創り出してきました。

Q:ということは、必ずしも工学部や理学部など理科系の人を採用しているのではないのですね?

はい、そうです。大学4年のうち最初の2年は教養課程なので、専門課程は2年だけです。わずか2年間の勉強ですぐに実践の場で活躍するというのはなかなか難しいと思います。むしろ、社会に出てからが勉強なのです。商学部や経済学部であっても意欲さえあれば、大学の2年間なんてすぐに追いついて、さらに高度な技術を習得できます。

短期間で成果を求めると、外から専門家を呼んで来て丸投げするような形になりがちです。しかも結果が出なければ、そこで終了。それでは社内にノウハウが蓄積できません。当社は創業80年余りになりますが、その間、社内で熱処理や金属粉末を扱う技術を育ててきたので、この分野では他社に負けないノウハウを有していると自負しています。

Q:ここまで、ありがとうございます。最後に、今後の課題というか、ビジョンをお聞かせいただけませんか。

もうすでに事業化しているのですが、脊椎のスペーサーの次に、あごの骨を金属3Dプリンタで製造することにも成功しています。事故や病気の治療で、あごの骨の一部を失う方がいらっしゃるのですが、以前はワイヤーのようなもので欠損部分を補っていました。それを患者さん一人一人にあわせたチタン製のあごの人工骨をつくってはめ込むというものです。日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、大学や他の企業と共同で取り組み、いまでは月に7~8の症例に対応しています。

このほか現在進行形の取り組みもいくつかありますが、まだ公開できる段階ではないので紹介は控えさせていただきます。ただ、いずれも当社が長年培ってきた技術やノウハウをベースに新しい知見を採り入れていくものです。簡単にはいきませんが、真のイノベーションを開花させるために、これからも試行錯誤を続けていきます。

まとめ

  • 大阪冶金興業は2018年、金属3Dプリンタで脊椎の骨と骨の間に差しはさむスペーサーというチタン製の人工骨の開発に成功。チタン製のスペーサーの開発に着手して15年、金属3Dプリンタでの挑戦を始めてからでも5年の歳月をかけて実現したものだ。
  • 人工骨は当初、MIMで開発。熱をかけて樹脂を飛ばす際、わざと微細な空洞を残すようにし、生身の骨に近いスポンジ状の組成を再現できるようにしたが、微細な空洞の分布をコントロールすることはできなかった。
  • 一方、金属3Dプリンタは、微細な空洞が望ましい分布になるように設計・製造できる。医学的な面は京都大学の協力を得、3Dプリンタについては、当時まだ3Dプリンタという言葉がない時代に先駆的に積層造形技術を研究していた専門家から知見を得た。
  • 3Dプリンタは、複雑な形状をつくれることが大きな特長だが、形状が完成しただけでは求める金属組織が得られない。本来、焼き入れたり鍛錬したりして、使用に耐える金属組織が出来上がる。それを3Dプリンタで再現するのは非常に高度な技術が必要だ。
  • 理論的に設計しても、実際に製造すると不具合が続く。その都度、試作品を分析・検査し、問題が生じるたびに解決策を探り、設計へのフードバックを繰り返すことになる。そのため、開発に成功するまで長い歳月が必要となることが多い。
  • 技術力を培う第一の方法は、専門家の協力を仰ぐことだ。大阪冶金興業は、大手企業を定年になり、その後も研究を続けている研究者を5名顧問として迎え入れている。顧問の貴重な知見を借りる一方、顧問にとっては、研究成果を活かす場となっている。
  • 技術力を培う第二の方法は、専門家の協力を仰ぎながら、製造現場で試行錯誤を続けることだ。そのために時間をかけることは、いとわない。短期間で成果を求める企業が少なからずあるが、イノベーションは3年や5年で簡単に生まれるようなものではない。
  • 大阪冶金興業の幹部クラスは、商学部や経済学部の出身だ。それでも長年、同社で働きながらともに切磋琢磨して、技術的に難易度の高い製品を創り出してきた。社会に出てからが勉強なので、文系出身であっても意欲さえあれば、高度な技術を習得できる。

企業情報

社名大阪冶金興業株式会社
創業年昭和16年
資本金1億9,300万円
従業員数110名
所在地大阪府大阪市東淀川区瑞光4丁目4番28号
WEBページhttps://www.osakayakin.co.jp/

関連記事