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アフターマーケットの事業拡大に向けて、遠隔監視システムを開発【NTN株式会社】

大阪市西区のNTN株式会社は、軸受(ベアリング)やドライブシャフトなどの研究・開発、生産、販売を行う精密機器メーカーで、2018年に創業100周年を迎えた。主力商品の軸受は機械の回転を支える重要かつ精密な部品で、さまざまな産業機械をはじめ自動車や風力発電装置、鉄道車両などに幅広く使用されている。

同社は節目の年である2018年に中期経営計画「DRIVE NTN100」をスタート。NTNグループビジョンとして「なめらかな社会の実現」を掲げて、次の100年に向けて事業構造の変革を加速させた。この計画はPhase 1~3と3段階に分かれ、2023年度はPhase 2の最終年度にあたる。Phase 2では、「既存の商品・事業と投資効率を追求」、「新事業の峻別と経営資源の配分の見直し」、「コーポレートガバナンスの強化(経営基盤の再構築)」を事業運営方針として進めてきた。

この計画の課題の一つであるDXの取り組みについて、ICT戦略部の担当執行役 孝橋宏二さんと同部長 北里健二さんにお話を伺った。

―DXが重要であると意識され始めたのはいつ頃でしょうか?

3年前です。2021年2月からスタートした中期経営計画「DRIVE NTN100」のPhase 2の立案過程でDXを重視することになり、その頃から議論が始まりました。それ以前はDXに関する社内の見解が曖昧で、必ずしもその本質を理解しているとは言えませんでした。しかし、当社社長の鵜飼がDXは手段であるデジタル(D)よりも変革(X)という目標に重点を置くべきであると、目標設定の重要性を強調しました。そこで、課題解決という目標に向けてデジタル(D)を活用するという考えに立ち、DX推進に取り組んでいます。

―DXを推進する際の、ICT戦略部の役割はどのようなものでしょうか?

我々の部署は、過去に情報システム部や業務効率推進部、情報企画部と名称を変えてきましたが、2023年4月からICT戦略部となりました。以前の名称が少しわかりにくいという意見があったことと、情報技術に加えてコミュニケーションも重視する観点から、この名称になりました。

DXを推進する主役はICT戦略部ではなく、実際に変革(X)に取り組む各業務部門です。ICT戦略部はツールやシステムなどのインフラ整備を通じて、各業務部門のDXを支援しています。プロジェクトを正式に立ち上げているわけではありませんが、IT部門、営業部門、技術部門、研究部門などが横の連携を取りながら進めています。

―業務部門が直面する課題を解決するためにITが必要とされたとき、ICT戦略部がサポートするということでしょうか?

はい、そのとおりです。同時にICT戦略部は基幹システムなど社内インフラに関して特に注力しています。当社の基幹システムは約40年前に構築されたレガシーなシステムで、このシステムが存在する限り、DX推進のために新しい技術を導入しても十分に対応できません。そこで、基幹システムの全面的な再構築に着手しました。これはDXとは言えませんが、DX推進に必要な取り組みの一環として進めています。

―新しいシステムはどのようなものですか?

当社は従来、IBMのレガシーなシステムを利用してきましたが、2016年からSAP社のERPによる再構築を進めてきました。DXの推進に必要であると同時に、そもそも従来のシステムが老朽化し、また、古いプログラミング言語を扱える人材がいなくなりつつあるからです。Phase 2の最終年度である現時点で、主要な部分の再構築はほとんど完了しており、残るは工場の一部のシステムを刷新するだけとなっています。

―基幹システムの再構築自体はDXとは言えないかもしれませんが、一方でDXの代表的な取り組みとして、「しゃべる軸受」を開発されたとお聞きしています。

当社の主力商品である軸受(ベアリング)は、機械などの回転軸の摩擦をできるだけ小さくする部品です。回転が滑らかになればなるほど、エネルギー消費を抑え、機械の寿命を延ばすことができます。自動車には約150個の軸受が使用されており、新幹線などの鉄道車両やジェット機のエンジン、建設機械、工作機械など、回転する部分には軸受が使用されています。

―では、「しゃべる軸受」とは、どのようなものでしょうか?

自動車やバイクに使われている軸受は、品質が向上した結果、本体より長持ちするようになりました。事故で壊れない限り、交換の必要はありません。しかし、常時使っている工作機械や24時間稼働するような風力発電装置の軸受は消耗しますので、長く使っていると寿命がきて交換が必要になります。ところが、その交換時期がなかなか把握しにくい。異常に気づかずに故障するまで放置されることもあります。

そこで、軸受にセンサを内蔵し、IoTで稼働状況を監視するようにしたのです。そして、異常を検知したときは無線で知らせるようにしました。だから「しゃべる軸受」なのです。

―交換時期を把握するために「しゃべる軸受」を開発されたわけですね?

直接的な理由はそうですが、その背景には約20年前から現在に至るまで、それまであまり注力していなかったアフターマーケット事業を重視するようになったことも大きく影響しています。中期経営計画「DRIVE NTN100」Phase 2でも、アフターマーケット事業拡大に注力することを課題に挙げています。

当社に限らず日本の製造業は、もともとアフターマーケットを得意としていませんでした。一般的にヨーロッパでは古い製品でも修理しながら長く使い続ける文化がありますが、日本人は車でも家でも新品を好む傾向があります。このような違いもあり、日本のメーカーは、アフターマーケットへの対応が新規需要に比べて手薄でした。しかし、2000年代に入って世界的な環境志向の高まりもあり、当社もアフターマーケットの重要性を認識し、顧客対応の見直しを図ることにしました。

―2000年代に入ったばかりの時期は、まだIoTなどの技術が生まれていません。アフターマーケットへの対応は、どのように行われたのでしょうか?

当時は人力に頼るしかなく、エンドユーザーの現場に足を運び、様々な診断や技術指導など対面のアナログなサービスから始めました。軸受の販売先は機械メーカーなどですが、実際に使われる場所は機械を購入されたエンドユーザーの工場などです。かつて当社はエンドユーザーに直接関与しておらず、問題が発生した際の連絡を待つのみでした。これでは交換需要に十分に対応できません。そこで、テクニカルサービスカーを導入して、エンドユーザーの工場を直接訪問し、診断や部品交換などの技術指導を行うようにしたのです。ここから徐々にアフターマーケットに注力していきました。

この流れの延長線上に「しゃべる軸受」があります。つまり、製品が壊れた際の修理にとどまらず、常時、稼働状況を把握できないかと着想したわけです。また、「しゃべる軸受」の開発に至る前に、風力発電装置の軸受の常時監視を始めていました。

―それはどのような取り組みでしょうか?

日本には約40基の洋上風力発電設備があり、高さ100mにもなる風力タービンには3mの巨大な軸受が使われています。万が一、これが壊れれば発電が停止し大損失が生じます。それを回避するために、軸受に取り付けたセンサからデータを収集し、それをモニタリングして異常を把握する、風力発電用状態監視システム(CMS)「Wind Doctor」を開発して、すでに実用化しています。異常が見つかれば、すぐに事業者に連絡し、部品の交換を促しています。

この経験から、風力発電装置よりも小さな機械の軸受にもセンサを取り付けることを考えました。最初は、軸受近くに振動センサを設置し、そのデータをスマートフォンで取得して稼働状況を監視するアプリケーションを開発しましたが、続いて、軸受自体にセンサを搭載した製品の開発にとりかかりました。

―風力発電の軸受と工作機械などの軸受とでは、その規模は桁違いですが、開発は順調に進みましたか?

規模の違いよりも、内蔵するのに苦労しました。工作機械に組み込まれる軸受に単純にセンサを搭載すると、形状やサイズが変わってきます。それでは機械の設計から変更しなければならず、機械メーカーは容易に受け入れてくれません。そこで、既存の軸受の形状やサイズをまったく変えずに、センサ、発電ユニット、無線デバイスを内蔵するようにしました。回転を利用して発電する電力で、センサや無線デバイスを動作させ、振動、回転速度、温度のデータを無線送信します。これが「しゃべる軸受」です。

センサの電波は微弱なため、工場の点検担当者が機械に近づいてスマートフォンで受信して稼働状況を監視する仕組みです。異常があればアラートが鳴ります。現在、このシステムは実証実験の段階ですが、良い評価をいただいており、需要が広がることを期待しています。

―センサが収集したデータは、御社が監視されているのでしょうか?

全国の風力発電設備は約40基と限られた数であるため、データをクラウドにあげて、当社が直接モニタリングしています。先ほど申し上げたとおり、異常が見つかれば、事業者に連絡しています。

一方、当社の軸受が組み込まれた工作機械は大量に出回っていて、しかも1台につき多数の軸受が組み込まれています。その数は膨大になり、すべてのデータを収集するのは困難です。外部委託ではガバナンスの問題があり、自社で行うにはデータが膨大過ぎて扱え切れません。そのため、エンドユーザーの点検担当者に確認いただく、現場対応のシステムにしています。

―中期経営計画「DRIVE NTN100」は、来年度からPhase 3に移行されます。プロジェクトの終盤で重要な節目となりますが、どのような状況でしょうか?

ICT戦略部はPhase 2の段階で基幹システムの再構築に注力してきましたが、この課題は工場の一部のシステムを除いてほぼ完成しました。Phase 3ではOT(Operational Technology)などの新たな課題が加わる予定です。

当社の各種生産設備にも数多くのセンサが取り付けられるようになりました。そこから得られるデータを分析・活用するにはOTが欠かせません。トラフィックが増えることが予想されるため、インフラ整備も重要です。現在、PoC(Proof of Concept)を経て、要件定義を進めているところです。Phase 3に入れば、いよいよ本格的な取り組みとなります。

また、軸受の監視技術では、AIを用いた軸受の余寿命予測などの開発も進めています。これらを進めるためにも、現場データからのフィードバックとノウハウの蓄積が重要です。

―DXに関して業界を問わず共通する課題が、従業員のITリテラシー不足や人的リソースの問題です。こちらについては、どのように対処されていますか?

人材の問題には、「一般的な従業員のITリテラシーに関する課題」と、「機械学習やAIなどの高度なデジタル技術に関する課題」という2つの課題があります。

特に、前者の従業員のITリテラシー向上は大きな課題です。例えば、基幹システムを従来のレガシーなシステムから新システムに移行した際、Excelのスキル不足が問題になりました。Excelの一定スキルがあれば、新システムへ簡単にデータ入力できるのですが、スキル不足のため入力がうまくいかないという問題が生じました。すでに、この問題に対する教育は進めており、一定の成果を上げていますが、まだ十分とは言えません。

後者の高度なデジタル技術については、通信教育などの外部講座の受講によりAIリテラシーの向上などに取り組んでいます。数年前から実施していますが、大規模なリスキリングプログラムなどは行っていません。

―専門性の高いスキルをもつ人材に関しても、社内での育成を目指されているのでしょうか?

優秀な人材を採用し、社内で育成することを第一に考えていますが、優秀な人材はなかなか採れません。したがって、短期的には外部のスキルを調達するのが現実的です。

しかし、長期的には社内の専門性を高めることを検討しなければなりません。従来の年功序列のような人事モデルでは対応できないため、人事制度の見直しやエキスパート人材への新たな評価制度も含めて、考えていく必要があります。

―NTNグループでは、企業の使命である社会的課題の解決に向けて、DXをどのように位置づけられていますか?

当社は、軸受(ベアリング)によって機械や装置の回転軸を滑らかに回転させることと、それによって生産ラインなどを安定稼働させることを社会的使命としています。「なめらかな社会の実現」というビジョンを掲げているのは、そのような趣旨です。軸受が故障して生産ラインが止まるようでは「なめらかな社会の実現」は果たせません。故障を予防するには常時、軸受の状態を正確に把握しておくことが必要で、それにはDXが必須です。

「しゃべる軸受」や風力発電用状態監視システム(CMS)によって、機械や設備のトラブルを防ぎ、常時、安定稼働できれば電力消費も抑制できます。また、社内でOTをうまく活用できるようになれば、やはり電力消費が抑制でき、いずれもひいてはカーボンニュートラルや脱炭素社会への貢献につながります。

つまり、「なめらかな社会の実現」はもちろんのこと、今やどんな企業にも求められているESG経営を実践するためにも、DX推進は欠かせない課題だと考えます。

まとめ

● NTNは、2021年2月からスタートした中期経営計画「DRIVE NTN100」のPhase 2の立案過程でDXを重視。DXは手段であるデジタル(D)よりも変革(X)という目標に重点を置くべきであるという考えに立ち、DX推進に取り組んでいる。
● DXを推進する主役は、実際に変革(X)に取り組む各業務部門である。ICT戦略部はツールやシステムなどのインフラ整備を通じて、各業務部門のDXを支援している。
● 約40年前に構築されたレガシーなシステムのままで、DX推進のために新しい技術を導入しても十分に対応できない。そこで、ICT戦略部が中心となり、基幹システムの全面的な再構築に着手。DXとは言えないが、DX推進に必要な取り組みの一環である。
● DXの取り組みとしては、洋上風力発電設備の大型の軸受にセンサを取り付け、常時モニタリングして異常を把握する、風力発電用状態監視システムを開発し、すでに実用化している。異常が見つかれば、すぐに事業者に連絡し、部品の交換を促している。
● さらに現在、実証実験中の製品が「しゃべる軸受」。工作機械などの軸受にセンサ、発電ユニット、無線デバイスを内蔵。回転を利用して発電する電力で、センサや無線デバイスを動作させ、振動、回転速度、温度のデータを無線送信し、稼働状況を常時監視する。
● 全国に約40基ある風力発電設備は、データをクラウドにあげて、NTNが直接モニタリングしている。一方、工作機械の軸受は膨大な数になり、すべてのデータを収集するのは困難なため、エンドユーザーの点検担当者が現場で確認するシステムにしている。
● 中期経営計画「DRIVE NTN100」Phase 3の次の課題は、生産現場でのOT(Operational Technology)。また、軸受の監視技術では、AIを用いた軸受の余寿命予測などの開発も進めている。
● DX推進に必要な専門的な人材は、長期的には社内で育成することを第一に考えているが、従来の年功序列のような人事モデルでは対応できないため、人事制度の見直しやエキスパート人材への新たな評価制度も含めて、考えていく必要がある。
● NTNの社会的使命は、軸受の提供を通して「なめらかな社会の実現」すること。そのことはひいては、カーボンニュートラルや脱炭素社会への貢献につながる。そのために、DX推進は欠かせない課題だと考える。

※本稿はe-Kansaiレポート2023からの転載です。

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